15年前に男性の育休を取得した文京区の成澤区長が育休取得率だけにこだわらない理由【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.11】

15年前に男性の育休を取得した文京区の成澤区長が育休取得率だけにこだわらない理由【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.11】

3月13日(木) 5:30


2010年に全国の首長で初めて育休を取られた文京区の成澤廣修区長。その後、各地で首長や議員が男女問わず産休や育休をとるようになり、大きく社会が進展するきっかけとなりました。しかし世の中全体を見渡すと、男性の育休取得率は約3割(30.1%。厚労省令和5年度雇用均等等基本調査)にとどまっています。男性の育休取得のパイオニアでもある成澤区長、男性の育児参加について、どう思っているのでしょうか。



お話を聞いたのは…
文京区成澤廣修区長

文京区本郷出身。暁星学園幼小中高、駒澤大学法学部卒業、明治大学公共政策大学院修了、修士(公共政策学)。当時全国最年少の25歳で文京区議会議員に初当選、第37代・第40代文京区議会議長、2007年、文京区長に就任。
>>文京区 区長の部屋HP



―首長さんとして初めて育休を取られてから15年。この15年の変化をどうご覧になりますか。
成澤区長 :父親の育児参加はこの15年で加速度的に進んだと思います。僕は制度としての育休ではないので(※特別職なので、特別休暇として。筆者注)、「なんちゃって育休」と言っていますが(笑)、当時は区役所でも男性職員の取得者は1人もいませんでした。それが、令和5年度は、77.8%。出産時に取得する「出産協力休暇」は有給ですが、これはほぼ100%なので、男性の育児参加は当たり前になっているといえますね。

―77%というのは、男性の取得率としては高い方ですね。
成澤区長 :そうですね。ただ、女性は、取得期間が平均1年なのに対して、男性は、1日でも10日でも1年でも、カウントとしては「1」で変わりないので、取得率にこだわるのはあまり意味がないと思っています。とはいえ、男性の育児参加を社会が必要とし、それに社会がきちんと対応しているということは大きな変化かなと思っています。

―育休の取得は、日数もですが、タイミングも重要ですよね。
成澤区長 :出産協力休暇に加え、「パパ・ママ育休プラス」で取りたい時に取れるようになっているので、ママが復職するタイミングや保育園に通い始めるタイミングで、短期で取るケースもありますね。ママが早めに復職するためにパパが長期で取るケースなど、それぞれのご家庭でカスタマイズしているように思います。

―成澤区長が期待する男性の育休のあり方はありますか。
成澤区長 :僕は、育休より、長時間労働の是正が重要だと思っているんです。親のニーズに応えると、1時間でも長く預かって下さいということになるのですが、それは子どもの成長からすると、必ずしも望ましい形ではない。お父さんにせよお母さんにせよ、1時間でも早く会社から家に帰るという社会にしないとダメだと思うんですよね。育児時間と2人目出産へ向かう場合に相関関係があることは、厚労省のデータでも示されているのに、社会全体が、長時間労働是正に本気で取り組む方向にいっていないということは大きな疑問です。

―子育て支援が子育て放棄支援になる、と私も都内の自治体で教育委員をしていたときに、議員さんからよく指摘されていました。
成澤区長 :長時間保育の方に議論が行きがちになるのは、卵とニワトリかもしれませんが、僕は、長時間保育の方に進めば進むほど、長時間労働は解決されないと思っています。公的なコストとしても、早く家に帰り、長時間保育にならない社会の方が、安くなるんです。

―男性の育休取得が進まない理由に、「男が取るのか」とか、男性自身も自分の仕事とのタイミングなどで、「今、取れない」というような意識があります。仕事とのタイミングでいえば、本来、女性も同じ。そういった「意識」や「組織文化」のようなところで、成澤区長が育休を取られたことによって、区役所が変わったということはありますか。
成澤区長 :僕の取得後に、「男性職員の育児休業等取得促進実施要綱」というのを作りました。ポイントは、所属長である課長、あるいは部長が、部下に子どもが生まれるという話を聞いたら、その部下には育休を取る権利があるということを伝えるというところですね。取る方は「なかなか言い出せない」という悩みを聞いていたので、上司が勧めるという制度設計にしました。希望者は取りやすくなっていると思います。

―他にも、ご自身で経験されたことによって得られた育児の知見というのはありますか。
成澤区長 :これまでもよく言ってきたのですが、自分が育休を取るときに、せっかく家にいるからと思って、本や役所の資料をたくさん持ち帰ったのですが、結局、育休の2週間の間に、一枚も読めませんでした(笑)。育児は四六時中、やることがあるというのは、体験によってわかりましたね。

―お子さんや奥様に対して、経験されていなければわからなかったことだろうということで、よかったなと思うことはありますか。
成澤区長 :生後2カ月の子どもの成長を間近で見て、子どもとの接し方がマインドセットできたかなと思います。妻に対しては、自分ごととして考えることができるということが、一番違うのではないかなと思いますね。誰か(妻)から聞いて学んだことというのではなくて、当事者として参加できたということは重要だったと思います。

―成澤区長は、当事者として子育て支援策を考えるお立場にありますが、当事者ではない首長さんや経営者の方が多いと思うんです。その場合はどうしたら良いと思われますか。
成澤区長 :男性が産婦人科医になってはいけないかといえば、そうではないですよね。事例を学び、経験を積むことで、立派な男性の産婦人科医になられている方はたくさんいます。それと同じだと思っていて、首長1人が政策を作るのではないので、当事者の意見に耳を傾け、先輩、後輩の話にも耳を傾け、その中にあるさまざまな気づきを積み上げていくことが大事だろうと思います。ただ、先ほどの長時間労働と長時間保育の話になると、対立を生んでしまうこともあるので、そうならないよう、両者の意見にちゃんと向き合うということは、政策を作る者として大事なことだと思っています。

―育休取得も、決して強制はしない、とおっしゃっていましたね。
成澤区長 :取得した当時は、よくそう言っていました。子育てと、例えば住宅ローンを抱える時期が同時だとすると、育休によって給料が減るというのは当事者にとって大変だと思ったからです。今は、取りたいときに取れるなど、各家庭でカスタマイズすることができる環境を作ることと、そういう社会の風土造りが大事だと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト細川珠生


政治ジャーナリスト細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。



(細川珠生)

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