何度観ても発見がある円熟を重ねた市村正親のテヴィエを目撃して『屋根の上のヴァイオリン弾き』観劇レポート

ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』より(写真提供/東宝演劇部)

何度観ても発見がある円熟を重ねた市村正親のテヴィエを目撃して『屋根の上のヴァイオリン弾き』観劇レポート

3月12日(水) 8:40

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明治座にて『屋根の上のヴァイオリン弾き』が始まった。帝国劇場の建て替えにより、東宝作品を明治座で上演するという画期的な企画の第一弾。『屋根〜』は1964年ブロードウェイで初演、日本初演は1967年。それから繰り返し上演され、愛されてきた、まさに恒久の名作だ。そんな『屋根〜』のクラシックな趣きは明治座にピッタリといえるだろう。現在、明治座の周りには、タイトルや出演者の名前が書かれた、色とりどりののぼり旗がはためいている。

早速、初日を観劇した。冒頭のナンバー「しきたり」から鳥肌が立つ。東欧系ユダヤ人の民族音楽クレズマーをベースにした独特な曲調は、『屋根〜』ならではの醍醐味だ。コーラスが分厚いことも、多幸感をより増幅させる。やはりミュージカルは楽曲が命。その楽曲を最大限に聴かせてくれようとする、カンパニーの意気込みが伝わってくる。

酪農業を営み、5人の娘を持つ主人公テヴィエを演じるのは市村正親。この市村のテヴィエが実に素晴らしい。娘たちへの愛情を存分に注ぐパパであり、強い妻ゴールデには敵わない恐妻家。人がよく、村の人たちからは信頼され、ロシア人巡査とも民族が違えど上手くやっている。コミカルでチャーミングな感じは市村の真骨頂。その分、シリアスな場面では切なく苦しくときっちりメリハリをつけ、涙を誘われること間違いない。テヴィエはほぼ出ずっぱりで、神様に問う、自問自答するなど、独白や一人芝居的なシーンも多い。それを説得力たっぷりに、ダイナミックにやり遂げてしまう、市村の役者力たるや!2004年から今回で7演目、既にテヴィエという人物が市村の血肉となっているのだろう。円熟を重ね、今なお進化する市村のテヴィエをできるだけ多くの方に目撃していただきたいと心から願う。

そんな市村のスケール感に、妻ゴールデ役の鳳蘭が見事に呼応しているのが見どころだ。鳳のゴールデは凛として鮮やか。本当に素敵な夫婦像なのだ。取材の際、市村は鳳について「派手で独特の美しさがあり、大好きです。俳優としての度量もすごい」と語っていたが、めちゃくちゃ納得である。テヴィエがゴールデに怒られるのが嫌で必死に言い訳を考える姿は微笑ましく、また愛について妻に問いかけるナンバー「愛しているかい」での絶妙なやりとりは、キュンとくること請け合いだ。

そして『屋根〜』は父娘の話でもある。大人数の姉妹は物語になりやすいのか、日本でも「細雪」「渡る世間は鬼ばかり」「阿修羅のごとく」と名作揃い。それも恋愛や結婚が絡むとドラマが急展開するもので、『屋根〜』では、親が決めた男と結婚するという“しきたり”を破り、惚れた男と結婚したい娘たちにテヴィエは振り回される。

美弥るりか演じる長女ツァイテルは大らかでお姉さんらしい懐の深さを感じる。上口耕平が演じる幼馴染みのモーテルがあまりにも気弱そう、でも優しそうで、ゴールデ同様に夫を尻に引くタイプだろうなぁ、と思ったり。このふたりの結婚式では名曲「サンライズ・サンセット」が歌われ、その美しいメロディーと重唱にグッとくる。数あるミュージカルの中でも大好きなシーンのひとつだ。

次女ホーデルは唯月ふうか。かつてチャヴァを演じ、前回からホーデルを続投しているが、唯月の芯の強い感じがホーデルに合っている。学生パーチックを追って旅立つ時、アナテフカの駅で歌う「愛する我が家を離れて」は必聴だし、ここの父娘の別れは胸にくる。パーチック役の内藤大希も革命に燃える熱さ、その魂を存分に見せてくれた。

三女チャヴァの大森未来衣はフレッシュで愛らしく、歌も上手。ロシア人のフォートカと恋に落ちる、その無鉄砲さがよくわかる。フョートカ役の神田恭兵とラブラブかわいいカップルで、反比例してテヴィエの辛さが増している。肉屋のラザールは今井清隆。今井自身の人柄と重なるのか、結構人の良さそうなラザールなのが面白い。

そして忘れてはいけない。この作品のツボは振付だと個人的に思っている。頭の上にボトルを乗せて踊る「ボトルダンス」のような超絶技巧も楽しいし、オリジナルプロダクション演出・振付のジェローム・ロビンスを彷彿させる独特の形を随所で見ることができるのもシビれるポイントだ。

何度観ても飽きないし古びない、いつでも発見がある。それが『屋根〜』の名作の証。筆者もかつては娘たちに感情移入していたのが、歳を重ねるにつれ、母ゴールデの気持ちがわかるようになり、最近では父テヴィエのやることなすことに共感するようにもなった。1905年、帝政ロシアの寒村アナテフカを舞台とし、時代も土地も遠いのに、全く他人事とは思えない。現在の社会情勢、ウクライナのことも重なるところが多い。何より人間、家族、地域、民族、そして家族の絆は時代や土地を超えて共通なんだと実感する。辛く貧しい日常でもくじけない、そんなテヴィエ一家の心意気。

観劇後、帰り道でミュージカルっていいなぁとしみじみ。今もこの観劇で聴いた歌が頭の中をぐるぐる回っている。

取材・文:三浦真紀写真提供/東宝演劇部

<公演情報>
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』

台本:ジョセフ・スタイン
音楽:ジェリー・ボック
作詞:シェルドン・ハーニック
オリジナルプロダクション演出・振付:ジェローム・ロビンス
日本版演出:寺﨑秀臣
日本版振付:真島茂樹

出演:
市村正親 鳳蘭
美弥るりか 唯月ふうか 大森未来衣 上口耕平 内藤大希 神田恭兵 今井清隆 他

【東京公演】
日程:2025年3月7日(金)~3月29日(土)
会場:明治座

【富山公演】
日程:2025年4月5日(土)・6日(日)
会場:オーバード・ホール 大ホール

【愛知公演】
日程:2025年4月11日(金)~4月13日(日)
会場:愛知県芸術劇場

【静岡公演】
日程:2025年4月19日(土)・20日(日)
会場:富士市文化会館ロゼシアター大ホール

【大阪公演】
日程:2025年4月24日(木)~4月27日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール

【広島公演】
日程:2025年5月3日(土・祝)・4日(日・祝)
会場:上野学園ホール

【福岡公演】
日程:2025年5月9日(金)~5月18日(日)
会場:博多座

【宮城公演】
日程:2025年5月24日(土)・25日(日)
会場:名取市文化会館

【埼玉公演】
日程:2025年5月31日(土)・6月1日(日)
会場:ウェスタ川越 大ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/yane/

公式サイト:
https://www.tohostage.com/yane/

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