3月8日、『R-1グランプリ2025』(関西テレビ・フジテレビ系)が放送されました。
第23回となった今大会は、史上最多5511人がエントリー。芸歴3年目23歳の友田オレが王者の冠を手にしました。
👑#R1グランプリ 2025👑
ピン芸日本一決定戦🔥
5511人の頂点に立ったのは…
-----------------
☝🏻#友田オレ☝🏻
-----------------
優勝おめでとうございます🎉
応援してくださった皆様、ありがとうございました! pic.twitter.com/kgGgUYrUjC— R-1グランプリ (@R1GRANDPRIX) March 8, 2025
史上最年少、さらに早稲田大学お笑いサークル出身者である新チャンピオンの誕生に、構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんは<M-1で二連覇した令和ロマンに引き続き、大学お笑いからのチャンピオンが現れた。ついに“お笑いやりたい人間は良い大学に行きなさいよ”という時代になってきている>と、語ります。
大輪さんはかつてピン芸人「大輪教授」として活動し、2007年にはR-1ファイナリストに選出。現在はお笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめています。今大会の審査員たちの傾向、最終決戦進出者たちのネタ解説、そして今後のR-1グランプリの見どころについて考察してもらいました。
審査員7名で点数のバラつく結果に
――今大会を大輪さんはどう見ましたか?
<番組自体はすごく楽しく拝見しました。平場や審査コメントよりもネタをやっている時間の配分が長く、無駄の少ない2時間半だったと思います。
そして友田オレというニュースターの誕生は、お笑い界にとって良い結末でしたね。一方でルシファー吉岡や吉住、マツモトクラブなどの決勝常連組がワリを食ったような印象です>
――審査員が7名に増えましたが、それによる影響もあったと思いますか?
<R-1は、M-1やキングオブコントに比べて点数のバラつきが目立つ印象です。特に今回に限って言えば、1人の芸人につき低い点をつけている人が2人は必ずいたんです。多様な価値観の審査員が揃っていた証拠でもありますが>
👑R-1 グランプリ 2025👑
新たに加わる2人の審査員は…#友近 #佐久間一行
▼友近 審査員は4年ぶり4回目⭐️
▼佐久間一行 2011年大会の王者で審査員は初⭐️
超豪華7⼈の審査員が今夜の決勝を盛り上げます‼#陣内智則 #バカリズム #ハリウッドザコシショウ#小籔千豊 #野田クリスタル… pic.twitter.com/Nwuak3hoKq— R-1グランプリ (@R1GRANDPRIX) March 8, 2025
審査員は自分と同ジャンルに高得点をつけない傾向だが…
――審査員それぞれに得意ジャンルがあって、自身の方向性を基準に点数を決めていた感じでしょうか。
<ハリウッドザコシショウさんが、チャンス大城やハギノリザードマンを高く評価していたのはわかりやすいルートですね。
ただ、本来だと自分と同じジャンルの芸人に高得点をつけることって、あまりないんですよ。審査員になるほどのクオリティの高いネタを持っている人をさらに超えてくることって、確率としては低いんです。
そういう意味で、バカリズムさんがルシファー吉岡に自身の最高得点をつけていたことは、個人的には嬉しかったんです。バカリズムさんのこれまでのネタやキャラを考えると、ルシファー吉岡がバカリズムから高評価を受けるハードルは高かったと思います。事務所が同じということもありますし。しかし、ファンタジーではない、決してめちゃくちゃなことを言ってはいない、そんな今回のネタを高く評価しました>
👑#R1グランプリ 決勝戦 生放送中👑
※カンテレ・フジテレビ系全国ネット
まもなく5人目!
【#ルシファー吉岡】ネタ披露🔥 pic.twitter.com/DcoPrlin3R— R-1グランプリ (@R1GRANDPRIX) March 8, 2025
審査員増員は成功。さらに増やしてもいい
――陣内智則さんは田津原理音に最高得点をつけていました。あの2人も大きく括ると同ジャンルですよね。
<陣内さんの「嫉妬しました」は本心かもしれません。彼が考えた「俺だったらこうする」の予想を、田津原が超えてきたのだと思います>
👑#R1グランプリ 決勝戦 生放送中👑
※カンテレ・フジテレビ系全国ネット
まもなく3人目!
【#田津原理音】ネタ披露🔥 pic.twitter.com/azpR3siq8j— R-1グランプリ (@R1GRANDPRIX) March 8, 2025
――審査員の中では、野田クリスタルさんと今回初審査となった佐久間一行さんが全てのネタに得点差をつけていたのも印象的でした。
<佐久間さんのあの空気感や場を柔らかくする言葉選び、素晴らしかったですね。それだけで得点をつけずとも役割を果たしている感がありました。
佐久間さんはほぼ全てのピンネタジャンルをコンプリートしているんですよ。一人コント、しゃべり、フリップ、歌ネタ、ギャグもやるオールラウンダー。そのうえネタを作り続けているからこその審査員選出だったと思います>
――では、今回の審査員増員は成功だったのでしょうか。
<そうですね。さらに増やしてもいいと思います。ジャンルフリーの大会だからこそ、もっとバラエティ豊かな人選でも面白くなるはずです>
“単発ネタの羅列が評価されない”説にはもどかしさも
――最終決戦に進んだのは、田津原理音、ハギノリザードマン、友田オレの3組でした。
<まだR-1に馴染のない、わりと新鮮みのある面子が揃ったかな、と。田津原理音は前々回チャンピオンですけど(笑)>
――田津原理音は去年まで大阪を拠点にしていた分、手の内が明かされていなかったのかも。しかし、1本目の取扱説明書のネタの緻密さには驚きました。
<2本目はシンプルでしたけど、1本目は喋りながら手を動かしてという技術的にもとても難しいことをしているんですよね。バカリズムさんもコメントで触れていましたが、絵と矢印だけで表現する縛りがある中、内容はしっかりバカバカしいというところが評価されたのだと思います。
今回で平場が“銀河一面白くない”ことが浸透したので(笑)、そこにも価値が出てきたらさらなる飛躍を期待できそうです。お笑いは、どんなことでも1番だったら価値が生まれる世界ですから(笑)>
――準優勝のハギノリザードマンは、『細かすぎて伝わらないモノマネ』や『千鳥のクセスゴ!』など、ショートネタのイメージが強かったのですが。
👑#R1グランプリ 決勝戦 生放送中👑
※カンテレ・フジテレビ系全国ネット
まもなく4人目!
【#ハギノリザードマン】ネタ披露🔥 pic.twitter.com/rgwffXgI5o— R-1グランプリ (@R1GRANDPRIX) March 8, 2025
<私は彼のネタをそういった番組などで知っているので、R-1が初見だった人がどう思ったのか気になるところではあります。ショートなどの瞬間芸が魅力の芸人が、賞レース用にコント仕立てにするのって、個人的には思うところがあるんですよ。本来の面白さが削られているような気がするんです>
――なるほど。逆にコント仕立てにすることで、技術の幅を見せてもらったようにも思いましたが。
<もともとはコンビでコントをやっていたので、そのあたりの腕はあるはずです。でもやっぱり、“R-1では『続きまして~』のブリッジで繋がれたような、単発のネタの羅列が評価されない”という定説は、少しもどかしくはありますね>
王者・友田オレはロバート秋山や友近路線もあるかも
――そして、優勝した友田オレ。2019年の粗品以来の最年少チャンピオンレコードを更新しましたね。
<すごく基礎演技力のある人ですよね。今後はドラマの仕事も入ってきそうだし、ロバート秋山さんや友近さんのような強いキャラクターの路線もあり得そう。
今回のネタについては、まず1本目がR-1の派手な背景セットにマッチした設定を持ってきたことが運の強さなのか、計算なのか…。さらに、ボケ数が少ないのに、ボケていない間の面白度合いがステイする時間が長いんです>
――舞台上での存在感の強さはありましたね。
<ずっとそこに「変な奴がいる」と感じさせるんですよ。R-1では時おり“その人が面白いか、その人じゃない音響や映像が面白いか”の論争が出てくるんですが、友田オレはまさに本人の面白さに特化していたのだと思います>
時代は“大学お笑い”ネタ内にネットミームも
――友田オレは早稲田大お笑いサークル「LUDO」(ルード)の出身だそうですね。
<令和ロマン・髙比良くるまが自粛中のなか、そこにまた新しく現れた大学お笑い。正直、これでもうおじさんたちの時代は終わってしまったなぁと痛感しています。今、お笑い界では早稲田のある高田馬場が一番アツいエリアなのでは(笑)
友田オレの2本目のネタで出てきたネットミームの『THIS MAN』には世代の笑いを見ましたね。あそこは同期の芸人や大学生にはかなりウケてきたのではないでしょうか。
あのおじさんにはわからないことを楽しむ感覚が、まさに大学お笑いの毛色ですよね。無駄のないお笑いをする友田オレだからこそ、逆にこれが良かったように感じました。粗品さんがこの件についてMCでしっかりフォローしていたことも含めて凄かったです>
お笑いやるのに大学進学が良いルートである理由
――構成作家である大輪さんから見ても、今の時代はお笑いをやるために大学に行くのは良いルートだと思いますか?
<個人的にはオススメです。何故なら、やっている途中で就職とお笑いとを選ぶことができるから。高校から直で養成所に入って退路を断つやり方ももちろんアリですが、今は価値観が変わってきてますからね>
――具体的にはどのあたりがオススメなのでしょう。
<事務所の養成所と違って、大学は自由ですからね。やりたいことが一番尊重される世界ですから。
専門の講師に習うことは、実は個性を消してしまう一面もあります。養成所の講師をやっている自分が言うのもどうかと思いますが(笑)。
それに大学お笑いの人たちは、ネタ見せの時にも自分たちのやりたいことや方向性をダメ出しの時間に言語化して作家とコミュニケーションできると実感しています。また、彼らにとって、お笑い=賞レース。もともと受験勉強で傾向と対策を練ることを得意としているうえに、それがナチュラルな感覚なので、成長が早いんですよ>
――昔は芸人でも俳優でも、スポーツで強かった子は成長が早いと言われてきましたよね。
<それが受験に変わってきたのかな。本音を言えば、お笑いくらいアホの子に残しておいてよ~と思いますけど(笑)>
「あるある」ネタの増加の背景には人を傷つけない社会
――今回の友田オレの優勝も、その流れの中にあった、と。
<令和ロマンもそうでしたが、彼らは「やってる人がいないなら、やってみよう」という差別化の判断が上手いんですよね。お笑いがやりたいということに加え、そっちの欲求のエネルギーも大きいような気がします。
そんななか、友田オレの1本目の演歌歌手のキャラは、大学お笑いの感覚の中にはあまりないものだと思います。あれをやったことで、きっと彼は同世代からさらにリスペクトされると思います>
――決勝の最終決戦は全員がフリップあるあるネタでしたね。
<厳密には友田オレのネタは「あるある」と言えるかどうかは難しいところですが(笑)、これには社会の影響を感じましたね。人を傷つけない、コンプライアンスに縛られた中で「あるある」が生き残った結果だと思います。だからこそ、エッジの効いたものは評価されづらい世界になりました。
でも、ギリギリ伝わるか、伝わらないかのネタを披露してウケた時の快感って凄いんですよ。今回の最終決戦でいえば、友田オレが最もその賭けに大きく出て勝利したのだと思います>
いったぞ~!R-1で優勝、できたぞ~!
船に乗り込んでいただけると嬉しいです。 pic.twitter.com/UZpgbwQnN1— 友田オレ (@tomoda_crodango) March 8, 2025
『R-1』一番面白いのは準決勝
――改めて、大輪さんから見た『R-1グランプリ』という賞レースの面白さを聞かせてください。
<実は私は、R-1のファイナリストは本当に面白かった上位9人というわけではないように感じているんです。番組である以上、面白かったからファイナリスト全員がフリップ芸というわけにはいかないはず。1人コントは複数いても問題ないと思いますが、それ以外のジャンルとなるとどうでしょうね。
でも、逆に言えばトップ9に入らなくとも、1つのジャンルの中で1番になれば決勝にはいけるんです。例えば、予選でいえば私は、ホロッコこまりさんがめちゃめちゃ面白かったし決勝に行くと思いました。ただ、同じ歌ネタに友田オレがいた。しかもどちらも昭和歌謡テイストの。そんな歌ネタを2組はあげにくいと考えると…>
――なるほど。その二者択一があるわけですね。
<ウエストランド・井口が決勝に上がれなかったのも、彼と同様にM-1で結果を残していたさや香・新山とのVSになったのではないでしょうか。
他にも予選でいえば、今井らいぱち、須藤ジムあたりは個人的には非常に面白いと感じました。とどのつまり、『R-1』は今、準決勝が一番面白いんだぞと声を大にして言いたい!
ピン芸の多様性も原石も味わい尽くすのであれば、決勝のみならず予選から追っていくことをオススメします!>
<文/もちづき千代子>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama
【関連記事】
・
MCなのに“酷評”斬り…『R-1』粗品の辛辣コメントに「救われた」と元ファイナリストが感じた理由
・
『M-1』連覇「松本人志でも優勝、松本不在でも優勝」の意味…令和ロマン・くるま「新カリスマ」のワケ
・
松本人志なき今、誰が適任? 注目の“新お笑い賞レース”で「審査員をやってほしい5人」。芸人以外がふさわしい理由は
・
“売れない芸人”に共通する特徴をザコシショウが明かす「YouTubeでバズっても“売れた”とは違う」
・
「松本人志は不在でも『M-1神』のような存在に」元人気芸人も驚愕した大会を決定づけたカギ2つとは?