読み書きができない夫と、彼を支え続けた妻の実話をもとに描く映画『35年目のラブレター』(3月7日公開)。本作をいち早く鑑賞した芸能界きってのおしどり夫婦で、結婚生活30周年を迎えた佐々木健介&北斗晶は、「私たちと重なることがたくさんあった」と劇中の夫婦に共感しきり。「山あり、谷ありだった」とこれまでの道のりを振り返った2人が、思わず涙したシーンなど映画の感想を語り合いながら、お互いへの感謝を口にした。
【写真を見る】こちらまで思わず笑顔に!常にニコニコな佐々木健介&北斗晶夫妻、見つめ合ってパチリ
主人公の西畑保を笑福亭鶴瓶、その妻を原田知世、西畑夫妻の若かりしころを重岡大毅と上白石萌音が演じ、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08)、『今日も嫌がらせ弁当』(19)の塚本連平が監督を務める本作。戦後、貧しい家に生まれた西畑保は、ほとんど学校へ通えずに大人になり、生きづらい日々を過ごしてきたが、皎子(きょうこ)と運命的に出会い、めでたく結婚した。どんな時も保に寄り添い、支えてくれた皎子。保は妻への感謝のラブレターを書きたい一心で、定年退職を機に一大決心をして夜間中学に通い始める。少しずつ文字を覚えていく保だがなかなか思うようにいかず、気づけば結婚35年目。ラブレターがようやく形になろうとしていたころ、皎子が病魔におかされてしまう――。
■「西畑夫妻の姿が、自分たちとものすごく重なりました」(北斗)
――まず、映画をご覧になった率直な感想を教えてください。
佐々木「字の読み書きができない保さんと、夫を支え続けた皎子さん。お互いに支え合っている夫婦の姿から、やさしさがたくさん伝わってきました。保さんと皎子さんを見ていると、自分たち夫婦のこれまでを思い出すこともあって。保さんは、皎子さんに対して『生まれ変わってもまた一緒になろう』という気持ちでいましたよね。僕もそういう言葉をかけたことがあるので、涙腺を刺激されちゃって…。かなりヤバかったですね。そうやって『似ているな』と感じたり、気持ちがグッと入る場面がとても多かったです」
北斗「私も、『うちと似ているな』と思うことがたくさんありました。私も大病をしましたので、病に倒れた皎子さんが『自分がいなくてこの人は大丈夫だろうか』と夫のことを心配する姿も、ものすごく自分と重なって。健介が“やさしさ”という話をしましたが、この映画はやさしさだけではなく、つらさもしっかりと描かれた映画ですよね。病気になった皎子さんが感情のコントロールができなくなってしまう場面も、わかるなあと。病気の時って薬の影響や身体のだるさなどで、イラッとしてしまう瞬間もあるものです。保さんと皎子さんの姿からも、夫婦って“好き”とか“やさしさ”とか、そういったいいことばかりではなく、つらいことも共有していくものなんだなと感じました」
――自分事として捉えられるシーンがたくさんあったのですね。
佐々木「皎子さんのことを心配して、保さんがお風呂を見に行ったりする姿も共感できました。僕も奥さんがなかなか起きてこなかったりすると、気になってそーっと寝室までのぞきに行って、寝ていると『大丈夫だ…』と思ったり」
北斗「そういう年齢になったんですよね。昔は健介がイビキをかいていたりすると『うるせえな』と思いましたが(笑)、いまではそれさえも心配になりますから。私たちくらいの年代の人なら、身体を心配し合う2人の姿にも自分たちを重ねたりするのではないかと思います。あとね、たこ焼きのシーンも私たちと一緒!」
――たこ焼きを多めに食べてしまった保さんに対して、皎子さんが腹を立ててしまうシーンですね。
佐々木「8個入りのたこ焼きがあって、保さんはそのうちの5個を食べてしまう。僕もよく、食べ過ぎで怒られるんですよ」
北斗「そりゃあ、そうですよ!2人でたこ焼きを買ったら、半分こすると思うじゃないですか!」
佐々木「テレビを観ながらいつの間にか食べてしまって、『お前!』って怒られる(笑)。でもたくさん食べようと思っているわけじゃないんですよ。それはきっと、保さんもそうだと思う。ついつい、食べちゃっているんです」
北斗「皎子さんもいけないよね。食べ物から目を離しちゃダメ。食べ物の恨みは怖いからね(笑)」
――些細な夫婦のやり取りにも「わかる!」という点が多かったようですね。先ほど佐々木さんが涙腺を刺激されたというお話がありましたが、北斗さんも涙するようなシーンはありましたか。
北斗「何度か泣きましたね。保さんがコツコツと読み書きを学んでいく姿にも、グッときました。結婚当初、保さんは皎子さんからもらったラブレターが読めずに、ものすごく悔しい想いをしたんだと思います。だからこそ『皎子さんにラブレターを書きたい』というだけではなく、『あの時の手紙を読みたかった』という気持ちで、保さんは一生懸命に読み書きを学ぼうとしたんじゃないかなと。20年も、コツコツと学び続けるってすごいことですよね。私たちも『英語でも習うか』と話したりしているんですよ。仕事が忙しかったり、『この歳じゃ、無理か』と思ってしまったりもするんですが、保さんを見ていると学び続けるってやっぱりすばらしいことだなと思いました」
――たしかに西畑夫妻の辿る道のりには、夫婦の間にある普遍的な愛と共に、新しいことを始めることや、学び続けることの大切さも実感させられます。西畑夫妻を演じた役者さんのお芝居で、印象的な場面があれば教えてください。
北斗「重ちゃん(重岡)が、すごくよかった!重ちゃんが鶴瓶さんになるの?と思って、そう聞いた時は笑っちゃったんだけど。映画を観てみると、違和感がなくて、すごくよかったですね。『字が読めない』と泣くシーンもすばらしくて、『いい役者さんだな』と思いました。あと私の友だちであるくわばたりえが、西畑夫妻の隣に住むおばちゃん役で出ていて。いい味出していたなあ!」
佐々木「鶴瓶師匠もすごかったですね。保さんとしての想いが、ぜんぶ顔に出ているというか。保さんが積み重ねてきたつらさ、やさしさも、表情を見れば全部こちらに伝わってくるような気がしました。セリフで響くところもたくさんあったけれど、僕は特に保さんの顔、表情が大好きでした」
■「理想の夫婦像はない!」(北斗)
――こうしてお話を伺っていても、劇中の西畑夫妻と同じようにユーモアと笑顔が絶えず、本当にステキなご夫婦だなと思います。お2人にとって“理想の夫婦像”はありますか?
北斗「理想の夫婦像というものは、ないです。私には私の歴史があって、健介には健介の歴史があって、その2人から出来上がる歴史があって、いまがある。『こういう夫婦になりたいな』と思っても、なるようにしかならないものですよね。いいこともあれば、悪いこともいっぱいありましたが、結婚してからの30年は本当にあっという間で。ありがたいことに子どもたちも立派に育ちましたが、子育てを振り返ってみても思い出せないことばかりです。それくらい一生懸命だったんですね。そうやって生きていくことで、どの夫婦にもその2人にしか作れない夫婦像ができていくものなんだと思います」
佐々木「僕が一つ感じているのは、北斗のお父さんとお母さんを見ていると『いい夫婦だな』ということ。基本的にお母さんのほうが強くて、ガーッと行く。お父さんはそれを黙って聞いているという感じなんです。でもお母さんは『うちのお父ちゃんはすごいんだよ。偉いんだよ』ときちんと言葉にするし、ふと気づくとお互いを認め合い、助け合っている。すごくいいなあと思うんです。いろいろな経験を重ねてきている2人なので、旦那としても勉強になります」
――西畑夫妻はお互いの存在を力にして、前に進んでいきます。お2人も「この時は相手の支えにとても助けられた。その支えがあったからこそ前に進めた」と感じたようなご経験があれば教えてください。
佐々木「一人ではどうしようもない時に、やさしく言ってくれることもあれば、厳しく言ってくれたりする時もあったり…」
北斗「厳しく、厳しく、厳しくな(笑)!」
佐々木「ムチ、ムチ、ムチ、ムチ、飴という感じ(笑)!特に思い出すのは、僕が新日本プロレスという団体を辞めて、一人でやっていこうと決めた時があって。そうなると選手として戦うだけではなく、交渉などのマネージャー的な仕事をいろいろとやってくれる人が必要になりますよね。彼女はそれを全部こなしてくれて、ものすごく助けられたなと思っています。関係性によっては言いたいことも言えなかったりするけれど、夫婦ならばあらゆることが言えて、それをわかり合うことができる。彼女がいてくれたから僕も力が出せた。夫婦で戦ってきた時間は、自分にとってすごく大切なものになっています」
北斗「映画のなかでは、定年退職を迎えた保さんが、もう少し働くかどうか悩むシーンがありましたよね。皎子さんは『自分で決めていいんじゃない?』と声をかけますが、あれは女房のやさしさというより、強さだと思いました。その強さは私もとても共感するところで、健介の仕事がなくなった時にも『子どもも小さいし、明日からどうするの?』と泣いてしまうような女房ではいたくなかった。だって明日からどうしたらいいのか一番わからないのは、本人ですから。そして、私は病気をした時に相手の支えを感じましたね。劇中では、皎子さんが退院をしてきたシーンで、タクシーを降りる皎子さんを、保さんがそっと支えていました。私も同じような経験をしたのでものすごくグッときました。それに健介が『これはどこだっけ』『あれはどうしたっけ』といちいち聞いてくるので、『コイツは私がいないとダメだな。くたばっている場合じゃないな』と思うこともありました(笑)。そうやって考えてみても、これまでの結婚生活は本当に山あり、谷あり。理想の夫婦像を考えてみてもしょうがなくて、やっぱり目の前の問題を乗り越えると言うより、薙ぎ倒していくしかないんです」
■「35年目のラブレター、僕も書こうかな」(佐々木)
――お2人は手紙で気持ちを伝え合うことはありますか。
北斗「ありますよ。ただ私、テレビなどで『手紙を書いて、読んでください』と言われるのがとても苦手で。気持ちを伝え合うのも、『ありがとう』など短くてもいいから、心のこもった一言を書いた小さなメッセージカードで十分だなと感じています。健介も結婚記念日などには、『いつもありがとう』とカードをくれたり、ケーキを用意してくれたりします。ただ、私は自分の棺桶に入れてほしいものを集めるボックスを作っていますが、そこに最後のラブレターを入れられても読めるわけがないので。手紙じゃなくて、最期は耳元で言葉をささやいてほしいですね。私たちくらいの年齢になるとその時があと10年後、20年後なのか、もしかしたら5年後かもしれない。でもやっぱり、男の人が残されるのは心配です」
佐々木「僕たちは結婚30年目ですが、この映画を観ていて35年目にラブレターを書くのもいいなと思って。夜間中学の先生に励まされながら、保さんが必死になって字を書いている姿を見て、字を書いて気持ちを伝えるのっていいなと思いました。あと5年。やってみようかな」
北斗「毎年、2人で人間ドッグに行くようにしているんですが、とにかく健康に35周年を迎えられたらいいね」
――本作をどのような人に観てほしいと感じていますか。
佐々木「僕みたいに口下手な人、不器用な人にはぜひ観てほしいなと思います。保さんと皎子さんを見ていると、お互いへの愛情や想いをストレートに口にすることってとても大切だなと思いました。もし言えなかったことがあったとしたら、きっと後悔として残ってしまう。またパートナーはもちろん、保さんに文字を教えてくれた先生、保さんが働くお寿司屋さんの大将や、皎子さんのお姉さんなど、周囲で支えてくれる人や出会いの大切さを噛み締めるような映画で、人生というのは一人では生きていけないものだなと改めて感じました。(北斗に向かって)これからも、よろしくね」
――想いをきちんと伝えるというのは大事なことですね。保さんと皎子さんは、お互いに日々「ありがとう」という感謝の言葉を口にするところもとてもいいなと思いました。
北斗「奈良に住んでいる2人なので、方言で『ありがとうさん』と言うのがとてもいいですよね。『ありがとう』って照れ臭くて言えない時もあるかもしれないけれど、『ありがとうさん』ってなんだかとても言いやすい気がします。この映画はそんなことにも気づかせてくれるし、年齢や観る人によっていろいろな感想が出てくる映画だと思います。それこそがこの映画の一番いいところ。私たちぐらいの世代の人が観たら、保さんと皎子さんに自分たちを重ねて、夫婦で過ごす時間を大切にして、一緒に旅行に行きたいなと思うかもしれない。結婚したばかりの人や若い人たちが観たとしたら、今後どのように過ごすべきかという答えも見えてくるはず。私たちが映画を観終わったあとに『あそこのシーンはどう思った?』とセリフや展開についていろいろと話したように、会話が生まれる映画だなと思いました」
取材・文/成田おり枝
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