昨年10月の宮崎フェニックスリーグ。ヤクルトの宮川哲(29歳)、長谷川宙輝(26歳)、そして現役ドラフトで楽天に移籍することになる柴田大地(27歳)は、2025年シーズンに向けて懸命に練習していた。
3人とも2024年は二軍での時間が長く、一軍での登板は中継ぎで、宮川は4試合、長谷川は19試合、柴田は1試合にとどまっていた。
キャンプ中に久しぶりの再会を果たした(写真左から)宮川哲、柴田大地、長谷川宙輝photo by Shimamura Seiya
「去年に限らず、秋になると(戦力外は)自分なんじゃないかと頭によぎります。毎年、あとがないとやっていますが、このままじゃまずいという気持ちが年を重ねるごとに増しています」(長谷川)
長谷川はサイドスローに挑戦中で、ブルペンで投球練習やシャドーピッチングを繰り返し、室内練習場ではネットに向かってボールを投げ続けた。柴田は宮川に力まずに投げることのコツや、パワーカーブのコツを聞きながらキャッチボールをしていた。
「柴田さんは年上ですけど友だちみたいで心の支えでしたし、(宮川)哲さんは相談を聞いてくれる兄ちゃんで、ふたりとも真剣に考えてくれるので本当に信頼しています。今年は3人で下剋上じゃないですけど、それぞれのチームのブルペン陣に割って入れるような、そんなシーズンにしたいです」(長谷川)
春季キャンプでは、宮川と長谷川は一軍キャンプを完走。柴田は一軍キャンプに途中から合流。2月24日、浦添(沖縄)で行なわれたヤクルトと東北楽天の練習試合で久しぶりの再会を果たした。今シーズンにかける3人の思いは強い。
【一軍定着への思いと仲間たちとの絆】宮川は昨年、西武からトレードでヤクルトに移籍。
「去年は一軍では4試合しか投げられなかったですし、今年は移籍2年目なのであとがないと思って、最初から状態を上げていこうとやっています」
最速154キロの真っすぐと、武器であるパワーカーブのほかに、「ピッチングの幅が広がるから」と、去年のフェニックスリーグから空振りの取れるフォークに取り組んできた。
「カーブとフォークの精度を高めようとするなかで、それがいい感じできています。23年シーズンは真っすぐの出力が下がっていたのですが、去年1年間で戻ってきました。一軍でしっかり投げることを目指して、それができれば数字はついてくると思っています。柴田は移籍してチャンスだと思うし、ハセ(長谷川)は左ですし、去年一軍でけっこう投げています。ファームで一緒にやってきた連中なので、みんなで活躍したいですね」
柴田は強くて質のいい真っすぐとスプリットが武器で、昨年はカットボールを習得。ピッチングは向上し、二軍ではチーム最多となる40試合に登板して2勝1敗、防御率2.17。しかし、一軍では前述したように1試合の登板で終わっていた。
「11月の松山キャンプに行かないとなった時点で、現役ドラフトは覚悟していましたし、『(戦力外も)あるのかな』くらいに思って日々を過ごしていました。でも、練習はしっかりやっていこうと決めて、戸田の秋季練習でもブルペンに入りました。トレーニングでも体幹やお尻を鍛えて、今はいいキャッチボールができています。実戦でも投げる時のタイミングをつかみつつあって、ストライクの取れ方がいい感じなんです」
新天地でのキャンプは、二軍の久米島(沖縄)スタートとなった。
「一軍、二軍でモチベーションを変えないように、下(二軍)でもしっかりアピールしようという気持ちに切り替えて、結果的に(金武の)一軍に上がれたのでよかったです。楽天ではヤクルトの時と同じようにやりやすい環境でやらせてもらっています。気持ち的にも、投げる時にも力みすぎず、自分のよさをしっかり出せればいいなと」
24日の試合前練習では、ヤクルト投手陣から大歓迎を受けた。キャッチボールでは宮川と清水昇が「シュート回転しなくなった」など、うしろで見守っていた。
「宮川さんは去年からたくさんの助言をいただきましたし、ハセとはずっと仲良くしていて、本当に3人で下剋上できたらと思います。個人的には、去年二軍で40登板だったので、一軍でも同じくらい登板できるように。そこを目指しています」
【サイドスロー挑戦がもたらした変化】長谷川はこのキャンプで、サイド気味に投げていた腕をまた少しだけ上げた。ソフトバンクから移籍してきた2020年は44試合に登板するも、「9年目でこれじゃまずいという気持ちが強いです」と、その後は思うような結果を出せないでいる。
「自主トレ中も、横で投げているつもりが上になっていたというか、今が自然の位置なのかなと。でも、サイドに取り組んだことはよかったですね。体の使い方も横で投げたことでハマる部分もありましたし、打者の反応も腕の角度で違うということもわかりました。去年に思い描いた投げ方とは違いますが、すごく自然に自分の球が投げられている気がします」
キャンプでは、ブルペンで髙津臣吾監督から、左打者のインコースへ投げきることに対しての助言もあった。
「ずっと投げたいと思っていたのですが、今までは捕手が内に構えても外にいってしまうとか、そういうところが目立っていたんです。それでは捕手からも信頼されません。監督には『左の内にいく時はキチキチにいかずに、ベースを二分割にして左打者側の半分に投げなさい』と教えていただきました。そのことで気持ちがラクになったというか。自分はコントロール投手じゃない、そこを求めるべきじゃない。そこをあらためて気づかせてもらえました」
実戦では「カウント負けしないようになったのも収穫でした」と手応えを感じ、詰めていきたいことは「やっぱり自分を信じる力ですね」と言った。
「技術が一番ですけど、ひとつダメになった時に、それを直そうとして2つ、3つと崩れていくのが僕のパターンなので......自分の本能をもっと信じるというか、『ストライク入るかな』と自分と勝負せずに、バッターに対して『打ってみろ』という気持ちで挑んでいきたい。一軍では44登板が最多なので、今年は45試合以上に投げたい。最初はどんな場面でもいいので、一軍にい続けてたくさん投げたいです」
【10個の負けを勝ちゲームに】髙津監督が指揮をとった昨年までの5年間、チームは6位、優勝、優勝、5位、5位と極端な成績で、優勝した時は貯金20以上、優勝できなかった年は借金20以上となっている。昨年、髙津監督にこのことについて質問すると「単純なコメントで申し訳ないですけど」と前置きし、次のように答えてくれた。
「10個の勝ち負けでそこの差がついてくるので、10個の負けを勝ちゲームにしたいですね」
そのためには、先発が崩れたあとに投げるリリーフ投手が重要になるが、あらためてそのことについて髙津監督に語ってもらった。
「今は試合終盤になるといいリリーフがどんどん出てきますが、ウチの打線は得点する力があります。ひっくり返せるだけの点差をキープできる投手陣を持っているかどうか。3人か4人か限られた人数になってきますが、ものすごく大事なポジションだと思っています」
宮川と長谷川について聞くと、「昨年に比べて戦力アップしたかどうかは、こういう選手たちにかかっていますよね」と言い、こう続けた。
「長谷川にしても宮川にしても、柴田は移籍してしまいましたが、今まで戦力になれなかった選手が活躍することで、チームのプラスアルファになっていく。なんとか一軍に食い込んで戦力になってほしいという気持ちが強いですし、そういう意味で一軍キャンプに呼んだわけです。
実際に長谷川を見て、『これはいけるんじゃないか』と。ブルペンで見たら一軍で活躍できるボールを投げていますよ。このふたりだけじゃなく、チームにプラスアルファをもたらすのは、去年ゼロだった選手たちでしょうし、10の負け試合を勝ちにするための大事なポジションだと思っています」
宮川、長谷川、柴田の生き残りをかけたシーズンはスタートしている。3人揃っての下剋上が実現することを期待したい。
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