【第32回読売演劇大賞】大賞は木場勝己「何かの手違いじゃないでしょうか」と喜び

第32回読売演劇大賞で大賞・最優秀男優賞を受賞した木場勝己

【第32回読売演劇大賞】大賞は木場勝己「何かの手違いじゃないでしょうか」と喜び

3月1日(土) 1:30

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2024年に国内で上演された演劇を対象に、優れた作品や俳優、スタッフを顕彰する第32回読売演劇大賞の贈賞式が2月28日、東京・帝国ホテルで行われた。

この日は、高円宮妃殿下がご臨席されるなか、各部門の最優秀賞、新人が対象の杉村春子賞、芸術栄誉賞、選考委員特別賞の授与に加えて、大賞を発表。『リア王の悲劇』『天保十二年のシェイクスピア』で最優秀男優賞に輝いた木場勝己が、大賞も受賞する結果となり、「何かの手違いじゃないでしょうか、でも返しません。ありがとうございます」と喜びを示した。

第32回読売演劇大賞贈賞式より

●最優秀作品賞/『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(新宿梁山泊)

1976年初演の同作。当時、有名歌手のファンが起こした騒動から唐十郎が戯曲を書いた。昨年、東京・花園神社境内の特設紫テントで行われた公演には、中村勘九郎、豊川悦司、寺島しのぶら豪華なキャストの共演が実現。狂おしい愛のドラマが展開された。ちなみに、『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の上演は、豊川からの提案。昨年亡くなった唐十郎の追善供養の赴きも加わった。

金守珍

贈呈式には、新宿梁山泊代表で演出を担当した金守珍が出席。「追悼公演になってしまったことは残念でなりません」と唐十郎への思いを語るとともに、豊川が所属するアルファエージェンシーの代表取締役で、2月11日に亡くなった万代博実氏に対しても「影なる功労者だった」と感謝の言葉。「今の演劇界の分断状況に、風穴を開けるんじゃないかと期待する評をいただきました。そのお言葉にも応えながら、この賞に恥じないように精進してまいります。唐十郎こそ、日本のシェイクスピアだと世界に広めてまいりたい」と、決意を新たにしていた。


●最優秀男優賞/木場勝己『リア王の悲劇』『天保十二年のシェイクスピア』

井上ひさしやシェイクスピア作品など、多彩な舞台に出演し、最近ではNHK連続テレビ小説「虎に翼」など映像作品でも存在感を発揮する木場。読売演劇大賞の最優秀男優賞を手にするのは、第10回以来となる。『リア王の悲劇』で、初めてリア王を演じ、老いていく人間の感情を表現し、『天保十二年のシェイクスピア』では、物語の語り部となる隊長役を務め、深みのある歌声も披露した。

木場勝己

木場はトロフィーを受け取ると「脇一筋でやってきたので、こういう賞からは縁遠いだろうなと思っていた。主役をやるとこういうこともあるんですね。本当にありがとうございました」としみじみ。対象となった2作品は、どちらも演劇界のトップランナーのひとりである藤田俊太郎が演出を手がけており、「藤田くん、どこにいるかな?どうもありがとう!」と感謝を伝える場面も。また、KAAT神奈川芸術劇場と東宝演劇部に対しても感謝を述べ、「いただいた賞金100万円を半分ずつお渡ししようと思ったが、今回は気持ちだけで(笑)」と会場の笑いをさらった。


●最優秀女優賞/岩崎加根子

岩崎が読売演劇大賞の最優秀女優賞に輝くのは、第6回以来。シェイクスピアの「リア王」を東憲司が翻案して演出した『慟哭のリア』では、亡き夫の意志を引き継ぎ、一代で炭鉱を繁栄させた女主・室重セイを演じ、過酷な時代を必死に生き抜く姿を体現した。

岩崎加根子

現在92歳。「何を申し上げていいか分かりません。本当にありがたいことだと思っております」と喜びを語り、その後、「ずいぶん前にお許しをいただいております」と前置きし、昨年11月に亡くなった谷川俊太郎の代表作である「生きる」を力強く朗読。その圧倒的な存在に、演劇関係者が集う会場は静寂と熱気に包まれていた。なお、『慟哭のリア』は、まもなく閉場し、岩崎にとっても縁深い俳優座劇場の最後の劇団公演となった。


●最優秀演出家賞/前川知大『奇ッ怪小泉八雲から聞いた話』(イキウメ)

劇団「イキウメ」の主宰である前川の受賞は、第19回の大賞・最優秀演出家賞以来。対象作は小泉八雲による5つの怪談を、ひとつの物語に紡ぎ直し、時空も生死の境をも超える愛の力をドラマチックに描いた。今回は満を持して「イキウメ」による再演が実現。初演を見た野村萬斎から「夢幻能と似ている」とのヒントを得て、劇空間には能の様式を取り入れた。

前川知大

最優秀演出家賞は2度目となり、「今回の『奇ッ怪』は、素材の味を生かした和食のよう」だと説明。「俳優、スタッフ、小泉八雲という素晴らしい素材に支えられて、半ば勝手に出来上がったような気がします。こういうことは滅多にない。感謝しなくてはいけません」と神妙な面持ちで、受賞の喜びを噛みしめた。


●杉村春子賞/新原泰佑『インヘリタンス -継承-』『球体の球体』

杉村春子賞は、文学座の協力により杉村春子の業績を称えて、年間に活躍した新人を対象にした賞。受賞した新原は、ニューヨークのゲイ・コミュニティが舞台になった『インヘリタンス-継承-』で、裕福で小悪魔的なアダム、男娼として生きてきたレオという正反対の二役で、物語の核を担った。一方、“親ガチャ”を題材にした『球体の球体』では、ダンスが得意な現代美術家を演じ、幼少期に習い始めたダンスの能力も発揮した。

新原泰佑

将来有望な俳優に授与される杉村春子賞を手にし、新原は「伝え切れない思いでいっぱいです。すべての時間が学びで、新たな出会いでした」と感激しきり。「どちらの作品も、僕の俳優人生で、とても大切なピースになっています」と強い思い入れを示し、「どんな作品でも、常に新たな自分との出会いがあります。だからこそ、どんどん飛び込んでいきたいし、そのために日々研さんを積み、演劇界に貢献していけるように精進いたします」と輝かしい未来を見据えていた。


贈呈式には、最優秀スタッフ賞を受賞した渥美博(『キラー・ジョー』の殺陣、『ロミオとジュリエット』のアクション)、芸術栄誉賞に輝き、今年4月末に「老朽化と収支の悪化」を理由に閉場する俳優座劇場、選考委員特別賞に選ばれた『カム フロム アウェイ』(ホリプロ)の各代表及び、各賞の優秀賞受賞者が駆けつけた。

第32回読売演劇大賞贈賞式より

取材・文・撮影:内田涼

【第32回読売演劇大賞 受賞作・受賞者】

■最優秀作品賞

『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(新宿梁山泊)

■最優秀男優賞

木場勝己/『リア王の悲劇』(KAAT神奈川芸術劇場)『天保十二年のシェイクスピア』(東宝)

■最優秀女優賞

岩崎加根子/『慟哭のリア』(劇団俳優座)

■最優秀演出家賞

前川知大/『奇ッ怪小泉八雲から聞いた話』(イキウメ)

■最優秀スタッフ賞

渥美博/『キラー・ジョー』(劇団温泉ドラゴン)の殺陣、『ロミオとジュリエット』(新国立劇場演劇研修所)のアクション

■杉村春子賞

新原泰佑/『インヘリタンス-継承-』(東京芸術劇場)の演技、『球体の球体』(梅田芸術劇場)の演技

■芸術栄誉賞

株式会社俳優座劇場/俳優座劇場の運営と演劇プロデュース、舞台美術製作による演劇界への貢献

■選考委員特別賞

『カム フロム アウェイ』(ホリプロ)

■優秀作品賞

『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』(イキウメ)
『Silent Sky』(unrato)
『白衛軍』(新国立劇場)

■優秀男優賞

浅野 雅博 /『オセロー』(文学座)、『旅芸人の記録』(ヒトハダ)
荒川良々 / 『桜の園』(シス・カンパニー)、『ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―』(Bunkamura)
成河 /『ピローマン』(新国立劇場)、『ライオン』(梅田芸術劇場)
中村勘九郎 /『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(新宿梁山泊)
『梅雨小袖昔八丈 髪結新三』(松竹)

■優秀女優賞

音無美紀子/『阿呆ノ記』(劇団桟敷童子)、『つきかげ』(劇団チョコレートケーキ
岸井ゆきの/『ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―』(Bunkamura)
高田聖子/『カラカラ天気と五人の紳士』(シス・カンパニー)、『太鼓たたいて笛ふいて』(こまつ座)
古川琴音/『Touching the Voidタッチング・ザ・ヴォイド~虚空に触れて~』(パルコ)

■優秀演出家賞

池田亮/『養生』(ゆうめい)
ケラリーノ・サンドロヴィッチ/『桜の園』(シス・カンパニー)
永井愛/『パートタイマー・秋子』(二兎社)、『こんばんは、父さん』(二兎社)
眞鍋卓嗣/『野がも』(劇団俳優座)

■優秀スタッフ賞

塵芥/『阿呆ノ記』(劇団劇団桟敷童子)の美術、『荒野に咲け』(劇団劇団桟敷童子)の美術
ムーチョ村松/『オデッサ』(ホリプロ)の映像
森大輔/『翼の創世記』(Theatre Polyphonic)の作曲・音楽監督・演奏
山本貴愛/『ロボット』(世田谷パブリックシアター)の美術・衣装

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