©藤本史昭
2月13日(木) 12:00
横浜みなとみらいホールが2025年度の自主事業ラインアップを発表した。2月初旬に開かれた会見には、4月から3代目“プロデューサー in レジデンス”に就任するヴァイオリニスト石田泰尚も出席し抱負を語った。
2021年にスタートした“プロデューサー in レジデンス”。演奏家が自分以外のアーティストのコンサートをプロデュースする機会は少ない。第一線で活躍する演奏家が、横浜の地域性やホールの特性を考慮しながらさまざまな公演をプロデュースすることで、ホールの発信力を高め、新しい客層を開拓することにもつなげようというスキームだ。
初代・藤木大地(カウンターテナー)、2代目・反田恭平(ピアノ・指揮)、そして3代目・石田泰尚と、実力のある人気アーティストが名を連ねる。「人気があるということは、それだけで社会とつながっているから」と、新井鷗子・横浜みなとみらいホール館長。
新井館長が石田を「横浜みなとみらいホールを一番よくわかっているアーティスト」と称せば、石田本人も「最も多く舞台に立っているホール」と証言する。同ホールを本拠とする神奈川フィルハーモニー管弦楽団で2001年からソロ・コンサートマスター(現在は首席ソロ・コンサートマスター)を務めているのはいうまでもないが、昨年11月に念願の日本武道館公演を大熱狂の成功のうちに終えた弦楽合奏団「石田組」も、2014年に実はこのホールから始まった。
新井館長「満を持してお迎えするということ。私が見ている限り石田さんはヴァイオリンしか弾かない人なので、“プロデューサー”はものすごい挑戦になるのではないか。4月から何をしてくれるのか、今から楽しみです」
任期は2027年3月までの2年間。石田は就任について次のように語った。
石田「2年間、とにかくちゃんとやっていこうかなという感じ。自分の企画したもので、みなとみらいホールを盛り上げていこうという気持ちでございます。就任の話をいただいた時は、まずとにかくびっくりして。自分、できるのかな、みたいな。今までこういうプロデュースみたいなのをしたことなかったので、とにかくびっくりして。ただ、そういうことも挑戦してみようかなと。そして“三代目”というのが、すごいカッコいいので、引き受けようと思いました」
2025年度の石田プロデュース企画は以下の4つ。
1:サロンdeストリングス
2025年6月18日(水)、9月24日(水)、11月26日(水)大ホール
平日午後の1時間、石田組メンバーによる室内楽コンサート。
石田「室内楽は地味。と見られがちなんですけれども、こんなに魅力的なんだということをお伝えしたい。素晴らしいメンバーが揃っています」
2:弦楽合奏部応援プロジェクト
横浜市内の学校の弦楽合奏部を、石田と仲間たちが訪れて直接指導する、次世代育成プログラム。
石田「教えるというのをあまりしてこなかったので、自分が教えることで、若い子たちに音楽の楽しさ、合奏の楽しさを伝えたいという思いです」
3:石田組年末感謝祭
2025年12月31日(水)大ホール
恒例の年末感謝祭が今年も大晦日に。「石田組ジュニア」や「リクエスト・コーナー」などの好評企画ももちろん継続。
石田「去年、3回目の年末感謝祭がこれまで一番じゃないかというぐらいの盛り上がりで、すごくよかったですね。ジュニアの子供たちの眼差しが本当に可愛くて、いつも感動します」
4:石田泰尚&石井琢磨リサイタル
2026年3月7日(土)大ホール
クラシック系YouTuberとしても活躍するピアニスト石井琢磨とのデュオ・リサイタル。
石田「去年7月に神奈川フィルで彼が《ラプソディ・イン・ブルー》を弾いたんですけど、本当に素晴らしくて。彼、わざわざ石田組の新潟公演を聴きに来るぐらい、たぶん自分(石田)のことが好きなんですね。それで一回ご飯を食べて、何かできたらいいなということで。何をするか、まだまったく決めてないんですけど、すごい楽しみではあります」
石田プロデュース以外にも、人気シリーズや新企画、海外オーケストラの来日公演など、盛りだくさんのラインアップ。
新井館長「市民に愛される、社会の“今”とつながるコンサートホールを志しています。ちょうど中世ヨーロッパの教会が、集会所であり、コンサートホールであり、教育、福祉、医療などさまざまな機能を兼ね備えていたように、異なるさまざまな社会資源をつなぐハブでありたいと願っています」
コンサートホールと聴衆との接点は、もちろんまずコンサートだが、音楽の周囲に広がる社会の多様性にも大きく視線を広げて俯瞰したうえで、そこにホールの存在を位置付けようと模索しているのが、現在の横浜みなとみらいホールの稀有な特徴といえる。
取材・文:宮本明
横浜みなとみらいホール
http://yokohama-minatomiraihall.jp/