活躍の場を追われた元人気キャスターが、生放送で正体不明の爆弾テロの犯人と対峙する阿部寛主演作『ショウタイムセブン』(公開中)。大勢の視聴者が見守るなか、キャスターと電話越しの犯人が攻防戦を繰り広げ、先読みできない緊張感をもったままクライマックスまで突き進む臨場感が見どころだ。本作の特徴ともいえる、劇中での出来事がリアルタイムで進行する展開は、物語をサスペンスフルに盛り上げることにもひと役買っている。そこで本稿では、瞬き厳禁でスリル満点なリアルタイム型サスペンスの作品たちを紹介したい。
【写真を見る】元人気キャスターが生放送で正体不明の爆弾テロの犯人と対峙する『ショウタイムセブン』
■ジョニー・デップ演じる主人公が州知事暗殺を強要される『ニック・オブ・タイム』(95)
ごく平凡な男が暗殺計画に巻き込まれる王道のサスペンス。娘を連れて仕事のためロサンゼルスを訪れた税理士のワトソンが、警察を装ったスミスと名乗る男に拘束され、娘を人質に州知事の暗殺を命じられる。12時にロサンゼルスに到着してから13時30分までに暗殺を実行しなければならないという、90分の制限時間を課せられた主人公が、タイムリミットに追われながら、周囲に助けを求めたり、娘の奪還を試みるさまが上映時間とほぼ同時に展開。そのなかで思いがけない黒幕や、なぜ彼が選ばれたのかもしだいに明らかになっていく。
主演は無名時代のジョニー・デップで、線が細く娘思いの父親を好演。ヒーロー然とした活躍をいっさいせず、不器用な挙動でサスペンスを盛り上げた。冷徹な仕事人スミスを演じたクリストファー・ウォーケンとのせめぎ合いも見応えがある。
■警察官と配信サイトの記者がタッグを組む『ライブリポート』(19)
警察官と配信サイトの記者が誘拐された少女を捜索するサスペンスアクション。ある日、一人の少女が誘拐される事件が発生し、犯人から「64分後に少女が死亡する」というメッセージが警察に届けられる。容疑者の一人を誤って射殺してしまい謹慎処分を言い渡された警察官ペニー(アーロン・エッカート)は、その後も単身で捜査を続行。特ダネを求める配信サイトの女性記者エイヴァ(コートニー・イートン)と出会い、タイムリミットが迫るなか共に犯人を追いかけることに。
ポイントはエイヴァの存在。小型カメラでペニーの行動をリアルタイムで配信し、それが視聴者やテレビ局を巻き込んで大きな波紋を広げていく。このライブ感は『ショウタイムセブン』にも通じている。監督は『大脱出2』(18)のスティーブン・C・ミーラーということもあり、アクション主体のアグレッシブなつくり。謹慎中の警官と弱小メディアが、警察やマスコミを出し抜き、ハイテンションなアクションで突っ走る痛快作だ。
■生放送中に人質となった名物パーソナリティをめぐる事件が描かれる『マネーモンスター』(16)
生放送中のテレビ番組に乱入した男によって、主人公のキャスターが人質に取られるサスペンス。財テク番組「マネーモンスター」の生放送中に、銃を持った男がスタジオに現れ番組をジャックする。さらに、名物パーソナリティであるリーの体に爆弾を巻き付け、8億ドルを要求。男はリーの株予測を信じた結果、株が暴落し多額の損失を出したと中継を通して訴える。
『ショウタイムセブン』にも通じる設定の本作は、ジョディ・フォスターによる4本目の映画監督作だ。見どころはスタジオのリーと犯人のやりとりだが、説得のため現れた恋人に犯人がやりこめられるさまが全国放送されるといったブラックユーモアも。株の暴落の裏側をジュリア・ロバーツ演じるディレクターのパティが追いかける謎解きも味わえる。テーマは資本主義の暴走だが、オーバーアクションでリーを演じるジョージ・クルーニーとキレ者ディレクター役のロバーツ、2人のオスカー俳優のコンビネーションも見どころだ。
■電話ボックスを舞台に繰り広げられる鬼気迫るサスペンス『フォーン・ブース』(03)
謎の狙撃手によって、主人公が電話ボックスに閉じ込められてしまうサスペンス。強引さとはったりだけで世間を渡り歩く芸能コンサルタントのスチュは、ニューヨークのブロードウェイにある電話ボックスで女優志望の女性と話していた。電話を終えて受話器を置いた直後、突然ベルが鳴りだし、思わず受話器を取ってしまう。すると電話の相手はライフルで電話ボックスをねらっていると言い、嘘まみれの人生の懺悔などスチュに次々と過酷な命令を与えていく。やがて野次馬や警察が集まり、電話ボックスの周囲は大騒動へと発展する。
見えない相手とのやりとりだけで進展していく本作は、ほぼリアルタイムの物語。いつ狙撃されるかわからない死の恐怖に加え、見知らぬ相手があらゆる個人情報を把握している得体の知れなさにも背筋が寒くなる。舞台は電話ボックス限定だが、カメラワークや歯切れよい編集、受話器を握ったコリン・ファレルの張り詰めた演技でぐいぐいと引きつけるワザありの一本。個人情報が氾濫している現在にも通じる怖さを持った作品だ。
■全24話で1日の出来事を描く構成が秀逸だった「24 -TWENTY FOUR-」
ドラマシリーズだが、「リアルタイム・サスペンスといえばコレ!」とすぐに思い浮かぶほどの代名詞となった大ヒット作。その記念すべきシーズン1の舞台となったのが、アメリカ大統領選挙予備選。選挙当日、テロ対策ユニット=CTUに所属するジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)は、上司から大統領候補の暗殺計画が進行しており、CTU内部にも内通者がいると知らされる。ジャックはスパイを特定しテロを防ぐため奔走することに。
1エピソードのなかで1時間の出来事が描かれ、それが全24話=1日の物語としてリアルタイムで進行するというドラマの強みを生かした構成が秀逸だ。ジャックをはじめCTUのメンバーのほか、政治家やテロ組織、それぞれの関係者や家族も絡んでの群像劇も展開。二転三転しながら、すべての物語が一つにまとまっていくさまも見どころとなった。日本でも海外ドラマブームを巻き起こすなど社会現象となり、核爆弾や細菌などを使ったテロ事件にジャックが挑む続編シリーズのほか、スピンオフ「24 -TWENTY FOUR- レガシー」も製作され、昨年には初の劇場作品も企画中であることが発表されている。
■元人気キャスターが爆弾犯との交渉に乗りだす『ショウタイムセブン』
リアムタイム型サスペンスの最新作である『ショウタイムセブン』。主人公は報道番組「ショウタイム7」の人気キャスターだったものの、ある出来事をきっかけにラジオ局に異動となった折本眞之輔(阿部)。彼が担当するラジオ番組に、リスナーを装った男から爆弾テロの予告電話が入る。いたずらだと思い一度は電話を切る折本だったが、その直後に近くの発電所で爆発が発生。すぐさま先ほどの電話の男にコンタクトを取り、さらなる爆破計画があることを知る。また、男が「ショウタイム7」時代からのファンであることを知った折本は、生中継で犯行声明を発表させることを条件に番組に返り咲こうと画策。しかし、犯人はそれを見越してスタジオにもトラップを仕掛けていた…。
次の爆破をにおわせながら新たな要求を出してくる犯人と、優れた分析力と大胆さで一世を風靡したキャスターがリアルタイムで壮絶な駆け引きを繰り広げる。果たして、折本は犯人を説き伏せることができるのか?スリリングなせめぎ合いのなか、現代社会が抱える闇を暴きだしていく展開からも目が離せない。したたかで強引な折本と番組プロデューサーの過去や、局内の力関係など人間ドラマも見応えある。
本作は韓国映画『テロ, ライブ』(13)の日本版リメイク。ただし、熱い人間ドラマやスペクタクルなテロ描写を盛り込んだエンタメ指向のオリジナルに対し、日本版は原作を尊重しつつも、メディアの在り方に疑問を投げかける社会派エンタテインメントになっている。
中盤以降は独自の展開に舵を切り、阿部演じる折本のアクの強いキャラクターも手伝ってローカライズを超えた作品として完成。両作を観比べてみるのもおもしろいだろう。
文/神武団四郎
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