【ネタバレレビュー】冒頭からサプライズすぎる…「ジークアクス」に期待する、新旧「ガンダム」の大きな橋渡し

ネタバレあり!『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』をレビュー&考察/[c]創通・サンライズ

【ネタバレレビュー】冒頭からサプライズすぎる…「ジークアクス」に期待する、新旧「ガンダム」の大きな橋渡し

1月30日(木) 10:30

「ガンダム」シリーズの最新作であり、テレビアニメシリーズの一部話数を劇場上映用に再構築した『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』(公開中)。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のスタジオカラーとサンライズが初めてタッグを組むことで、本作は公開前から大きな話題を呼んでいた。そんな前評判通り、公開から10日間で動員85万人、興行収入14億円を突破する大ヒットを記録している。
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鶴巻和哉が監督、榎戸洋司と庵野秀明が脚本を手掛けている本作。鑑賞したファンの間では、強い口調での「ネタバレ厳禁」という触れ込みで大きな話題を呼んでいるが、果たしてどのような作品なのか?公式から一部ネタバレが解禁し始めた現時点で、作品の魅力と「ネタバレ厳禁」な要素に迫っていきたい。

※本記事は、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』のネタバレに大きく触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■無国籍な未来感が強い「ガンダム」とは異なる新鮮さ
平穏なコロニー暮らしの日常を、どこか偽物のように感じていたマチュ(声:黒沢ともよ)


宇宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏な生活を送る女子高生アマテ・ユズリハ(通称マチュ)は、戦争難民で運び屋を生業としている少女ニャアンと出会い、非合法なモビルスーツ決闘競技「クランバトル」に参加することになる。事前情報として発表されていたのは、このあらすじ程度だったが、本作の大きな驚きとなるのは、映画のタイトルにもある「Beginning」のパートにあった。ただし、それに関してはまさに大きなネタバレとなるので、後述することにし、まずはメインパート部分の見どころを追っていこう。

舞台となるスペース・コロニー〈イズマ・コロニー〉は、これまでの「ガンダム」シリーズなどでお馴染みの円筒型の外観を持ち、外部に配置されたミラーによって太陽光を取り入れる「開放型スペース・コロニー」と呼ばれるタイプ。外観は一般的だが、特徴的なのは使われている言語が日本語であり、街並や生活面においてコロニー内に日本的文化が色濃く描かれていることだろう。コロニー内の標識や案内表示は漢字とひらがなが中心となっており、街並や制服のある学校、小さな神社がある風景なども含めて、現代の日常の延長にあるコロニーでの生活は、これまでの無国籍な未来感が強かった「ガンダム」シリーズとは異なる新鮮さを感じさせてくれる。
非合法な運び屋をしている少女、ニャアン(声:石川由依)。最優先事項は“生き抜くこと”


一方で、軍警察がモビルスーツを使用して治安維持を行うような状況に「ガンダム」らしさを感じさせつつ、作品世界ではモビルスーツは兵器として運用されるだけではなく、工事用重機などとして一般にも貸与や移譲、販売もされている。本作のモビルスーツによるバトルの要となる非合法なモビルスーツによる決闘競技「クランバトル」は、モビルスーツが軍用にのみ使われていないという、こうしたバックグラウンドがあって成立しているのだ。
その結果、現代社会からちょっとだけ発展した近未来的世界にモビルスーツという異物が存在する独自世界が構築され、さらに美術やキャラクターの色味が中間色を使った明るい雰囲気を醸し出していることもあり、硬質な印象が強い「ガンダム」シリーズのなかでもソフトかつライトな画作りのイメージとなっている。

それはキャラクターの演技や作画にも通じる部分でもある。適度なデフォルメ雰囲気や、ややオーバーめのアクション、演出的な「間」が作り出すキャラクターの演技からは独特のテンポ感が感じられるも本作の特徴だろう。そのせいか、マチュのキャラクター性が退屈な日常から抜けだし、人との関係や日常の壁を簡単に乗り越える勢いを持ち、もの凄いスピード感で状況を進めているはずが、キャラクターの見せ方のバランスのせいか性急に感じさせないのは演出の上手さにあると言えるだろう。
あちこちのコロニーの外壁にグラフィティを描いている不思議な少年、シュウジ(声:土屋神葉)


謎多き少年であるシュウジとの出会いを含め、マチュ、ニャアンの3人の関係性がどのように変化するのかが気になるという部分も作品的には大きな引きとなっている。そして、適度に散りばめられた複数の謎が提示されつつ、物語は一気に後半のクライマックスであるコロニー内のモビルスーツの戦闘とマチュの「クランバトル」の緒戦へとなだれ込む。

■劇場クオリティのモビルスーツ戦に、テレビシリーズへの期待が高まる

モビルスーツ戦は、長い間消息を絶っていた謎のモビルスーツを捕らえるために出撃したGQuuuuuuX(ジークアクス)の行動に軍警察が介入。周囲を巻き込んでコロニー内で攻撃する軍警察のモビルスーツに対し、マチュはクランバトル用の機体に乗り込んでその横暴を止めようとするが揉み合って下層区域へ落下。そこで、GQuuuuuuXに乗り込むこととなる。
軍警察の機体を倒したマチュは、その後GQuuuuuuXでクランバトルに挑むことに。クランバトルは2機ひと組みで戦う仕組みとなっており、マチュはとある理由からシュウジをバトルに誘い、共に試合に臨むという展開が描かれていく。
圧倒的なクオリティで展開されるモビルスーツ戦


モビルスーツのバトルでは、前半は重力が発生するコロニー内での戦い、後半はコロニーの外でのクランバトルが描かれることになる。そして、モビルスーツの戦いの描かれ方は、まさに劇場クオリティの密度感。重力のあるコロニー内と無重力のコロニーの外でのモビルスーツの動き方の差と身を翻すような動きを多用しつつ、射撃武装一辺倒ではなくコロニー内やクランバトルという状況から、近接武器を使うシチュエーションが多くなっていることも含めて、スピード感のあるバトルが繰り広げられる。機動性を活かしたモビルスーツの動かし方という点では、人間が身体性を活かして縦横無尽に動きまわるようなイメージで、従来の表現からギアが一段アップしたような感覚で観ることができた。また、主題歌や挿入歌のなどの楽曲が入るタイミングが絶妙で、バトルの展開をより盛り上げているのも印象的だ。

総じて、映像としてのクオリティの高さに満足させられる一本であることは間違いない。
しかし、である。こんな後半の見どころもちょっと霞んでしまうのが、本編の始まる前に描かれる「Beginning」パートにはあった。

ここからはネタバレが大きく入るので、未見の方はご注意を。

■ガンダムファンを驚かせる、分岐した「一年戦争」でのパラレルな世界線

本作の導入という形で、上映時間的にも前半を丸々を使い、マチュたちが住む世界の約5年前の出来事が描かれていく。
それは、いわゆる“正史”と呼ばれている「一年戦争」の歴史がとある事件によって分岐することになる、パラレルな世界の始まりとなっている。

これまでも「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」や「機動戦士ガンダム サンダーボルト」のように、一年戦争という事象を背景にしながらも、歴史解釈や異なる事件が起こるパラレルな世界は描かれてきた。しかし、本作の最大の特徴となるのは、「一年戦争にジオン公国が勝利した世界線」として世界観が構築されていること。そして、そのきっかけとなったのが、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の第1話で、アムロではなくシャアがガンダムに乗り込んだことが発端となる世界。ガンダムとホワイトベースをジオン軍が強奪した結果、連邦軍のモビルスーツ開発は進まず、一年戦争の展開が大きく変わっていく様子が描かれて行く。
事前に公開されたあらすじとまったく違う展開に、どよめきが起こった劇場も


フィリップ・K・ディックの小説「高い城の男」は、第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカが分割併合される未来を描いているが、そんな変容したあり得たかもしれない歴史改変を「ガンダム史」で行っていることは、ガンダムファンは大いに驚いたはずだ。いわゆる「架空戦史」ものといわれる手法は、ガンダムファンの視点からすると「その手があったか」と思わせる要素となっている。
ひとつの歴史のなかで描かれなかった戦線の戦いを世界観を共有しながら描く「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」や「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」のようなサイドストーリー、先にも挙げた、ほかの作家が独自の解釈で同じ歴史を別の視点から描くパラレルストーリーに続き、ありえたかもしれない歴史を描く「架空戦史」ものに踏み込んだことで、「ガンダム」シリーズに対する視点はさらに大きく広がったと言えるだろう。

■新たな世代が「ガンダム」の“原点”に触れるきっかけとなる?

そうした設定だけでも驚かされるが、それ以上にインパクトがあったのが、「機動戦士ガンダム」の伝説となっている第1話「ガンダム、大地に立つ」を音楽や演出、タイミング、さらには安彦良和の作画までそのままトレースするという手法を採ることで、往年のガンダムファンはもちろん、令和の最新作のガンダム作品を観に来たファンの度肝を抜いたはずだ。

もちろん、「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」という作品が架空戦史であることを示すために、この「Beginning」のパートが作られており、マチュたちが活躍する世界の前段階となるよう、ジオン軍が連邦軍に勝利するように向かう物語が描かれているわけだ。しかし、そこには富野由悠季が書いた小説版「機動戦士ガンダム」を彷彿とさせる、これまで描かれなかった一年戦争的要素や、シミュレーションゲーム「ギレンの野望」などでのみ味わえる、ジオン軍が勝利した世界線に登場する赤いガンダム(キャスバル専用ガンダム)が盛り込まれており、ディープなガンダムファンも唸るあまりにもマニアックな要素が溢れすぎている。
テレビシリーズのどの話数を再構成しているのか…ますます本作への期待が高まっていく


それらは、ガンダムファン的には「ニヤリ」とする部分ではあり、その解釈を巡ってファン同士で盛り上がれるポイントだ。だだし、その過剰ともいえるサービスのインパクトは、肝心のマチュたちのクランバトルの存在を薄めてしまっているように感じるのもまた事実である。
マチュたちの行く末よりも、架空戦記としての「ジオンが勝利した世界」の解釈にガンダムファンの話題が盛り上がってしまうのは、もともと意図したことだったのかが気になるところではあるが、サンライズではなくスタジオカラーだからこそできた、やり過ぎなくらい踏み込んだ世界観や映像であり、これを賛とするか否とするかも含めて、それが「ガンダム」というコンテンツを世代を超えて盛り上げるきっかけになっていることは間違いない。

さらに言うならば、様々な「ガンダム」が新作として作られてきたなかで、45年という年月が経てから「原点の偉大さを改めて感じさせる」という意味では、「Beginning」パートの意味は大きい。マチュたちが今度どんな戦いに身を投じていくかを想像しつつ、最初の「機動戦士ガンダム」(=ファーストガンダム)に触れなかった世代にも、あらためて原点に触れるきっかけになって貰えれる一作となってくれることを祈っている。

文/石井誠


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