1月15日(水) 18:00
Text:森朋之Photo:fukumaru
音楽はもちろん、アートワークや映像、ファッションなども手掛ける“オルタナティブ・クルー”S.A.R.が、2025年1月10日、東京・渋谷WWW Xでワンマンライブ『Return of Kool Theory』を開催。キャリア2度目のワンマンライブで彼らは、緻密な構築美と奔放なインタープレイがせめぎ合い、刺激的なステージを繰り広げた。1月の週末、多くの人でごった返す渋谷の街を通り抜け、開演の20分前に会場に入ると、そこにはすでにたくさんのオーディエンスがフロアを埋めていた。年齢層はかなり幅広く、ファッションセンスのいい(いわゆる“感度が高い”)人たちが飲み物を片手にジャズやソウルなどのBGMの中でゆったり談笑している。ライブハウスというよりクラブの雰囲気。なるほど、S.A.R.はこういう人たちにキャッチされているんだなとストンと腑に落ちる。
S.A.R.(エス・エー・アール)はsanta(vo)、Attie(g)、Imu Sam(g/MC), Eno(b)、may_chang(ds)、Taro(key)による“オルタナティブ・クルー”。公式プロフィールには「SOUL、R&B、HIP-HOP、JAZZなどをベースにしながらも、メンバーそれぞれのルーツを反映した幅広い音楽性を持ち」と記されているが、1stアルバム『Verse of the Kool』(タイトルのイメージソースはおそらく、マイルス・デイヴィスの名盤「クールの誕生」)を聴けば、彼らの音楽性の豊かで斬新な在り方を実感してもらえるはずだ。セッションを基盤にして制作されたという本作は、J・ディラ以降のヒップホップ、ロバート・グラスパー以降のジャズ、さらにネオソウルやオルタナティブR&Bの文脈を感じさせつつ、メンバーそれぞれのスキルや個性をダイレクトに反映した作品に仕上がっている。こうやって言葉で説明すると何やら大仰に感じるかもしれないが、00年代からこっちのジャズやソウルが好きなリスナーにとっては当たり前の流れであって、特別に新しい発明というわけではない。つまり「今の時代の音楽好きだったら、当然、こうなるよね」という同時代性こそがS.A.R.の特性のひとつだと思うのだが、こういう心地よいフィット感を備えている日本のバンドは意外と少ない。何が言いたいかというと、S.A.R.のライブは「ああ、こういう音を浴びたかった」という気持ちよさに溢れていたのだ。
santa(vo)Attie(g)19時を少し過ぎた頃、フロアの照明が落とされ、メンバー6人が登場。歓声が静まるのを待って、「Skate」でライブは幕を開けた。ゆったりとしたグルーヴの中でsantaは滑らかなファルセットと凛としたラップを響かせ、観客の体を揺さぶる。ボーカルのフェイクやメンバーのプレイに対して歓声が上がり、音楽を介した自然なコミュニケーションが生まれる。
「S.A.R.です。よろしくお願いします」(santa)という簡素な挨拶を挟み、「CAP」へ。楽曲の途中でテンポが上がり、〈I don’t wanna waste my time〉のリフレインとImu Samのギターソロが絡み合いながら高揚感がアップ。1stアルバムの収録曲「Clouds」ではAttieのギター、Taroのエレピ、Enoのベースラインが美しく共鳴し、ジャズの濃度を少しだけ上げていく。さらに現在の6人体制になって最初のシングル「Kawasaki」、アルバム収録曲「3AMBLACKCAT」とヒップホップ的な楽曲を続けてフロアを沸かし、恋人とのドライブシーンを映し出す「Abstract Blue」、〈連れてく銀座のhigh-end sushi〉というフックが楽しい「payrent」へとつなぐ。オープニングから7曲を続けて演奏したわけだが、ツナギ目がとにかくスムースでまったくストレスがなく、むしろ「このままずっと続けてくれないかな」という欲望にも似た感情が生まれていることに気づく。演奏の上手さはもちろんだが、メンバー自身が“バンドで踊ることの気持ちよさ”を体で理解しているのだろう。
Eno(b)Imu Sam(g/MC)「みんなありがとう!こんなにたくさんの歓声、こんなにたくさんの人に会うって、なかなかないことだから。会ったことある顔もたくさん、もううれしすぎます。今日はアンコールとかないんで、全力でブチ上がって、出し切るという感じで。ああ、叫びてえ、ありがとうって。ありがとう!」(Imu Sum)というMCでオーディエンスとの距離を縮め、ライブ中盤は6曲で構成(もちろんノンストップ)。中心はやはりアルバム『Verse of the Koo』の楽曲なのだが、ライブならではのアレンジを随所に効かせていて、音源とは違ったサウンド/アンサンブルを体現していく。たとえば「You be Kool」。もともとの音源はピアノのリフから始まるのだが、この日は同じフレーズをベースが担い、文字通り“腰にくる”バンドグルーヴが出現。santaのボーカル、Imu Sumのラップのコントラスト、洗練されたエレピのラインなど、各メンバーのプレイもしっかりと散りばめられていた。
さらにタイトなビートと〈Everyday living on my life like the last day〉(毎日、人生最後の日みたいな気分で生きてる)というフレーズがぶつかり合う「Desolate」を挟み、新曲「Side by Side」(2025年1月29日配信リリース)へ。ホーリーな雰囲気の鍵盤から始まり、シンプルに抑制されたリズム、ワウギター、そして、ハートウォームな歌がひとつになったこの曲は、現時点のおける、S.A.R.のポップサイドを示す楽曲と言えるだろう。
may_chang(ds)Taro(key)曲が始まった瞬間に大きな歓声が起こり、「No more,No more」のシンガロングが起きた「Uptown」あたりからアンサンブルの輪郭がさらに明確になり、フロアのテンションも自然と上がっていく。アルバムの中でも際立ってメロウな「New Dawn(feat. Lil Summer)」では、福岡出身の女性シンガーソングライターLil Summerが登場。しなやかな官能性をたたえた歌声を響かせ、ライブ全体に深みを与える。スタンダード感と現代性を同時に感じさせるアレンジ、洒脱なギターソロも素晴らしい。そして、ライブ中盤でもっとも印象的だったのは12月11日にリリースされた最新曲「juice」。抑制が効いたリズム・アレンジ、ギターと鍵盤の洗練されたフレージング、親しみやすいメロディが共存したこの曲は、普段J-POPに馴染んでいる幅広いリスナーにも訴求できそうだ。
「最高だって人、手を挙げて! 後半戦も楽しんでくれ」(Imu Sam)という言葉から、ライブは後半へ。アルバム『Verse of the Koo』の収録曲「pool」「Kaminari」には即興的なフレーズも取り入れられ、ライブでしか味わえない濃密なグルーヴへと結びついていく。ラストチューン「Cannonball(feat. 寺久保伶矢)」には気鋭のトランペット・プレイヤー、寺久保伶矢も参加。熱を帯びたS.A.R.の演奏にエフェクトしたトランペットが共鳴しーーエレクトリック・マイルスを想起させるーーライブの興奮はピークへと達した。
終演後には、春に1st EP(タイトル未定)をリリースし、5月に東京と大阪でツアーを行うことを発表。このタイミングでS.A.R.は、ポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーデビューを果たす。2025年、彼らはさらに広いフィールドに進むことになるだろう。知性と肉体性、高度なテクニックと奔放なひらめきが響き合う音楽性は、“かっこいい”のひと言。S.A.R.がメジャーのど真ん中で存在感を得たとき、この国の音楽シーンは一歩進むことになると断言しておきたい。
<公演情報>
『Return of Kool Theory』
2025年1月10日(金)東京・渋谷WWW X
【セットリスト】01.Skate
02.CAP
03.Clouds
04.Kawasaki
05.3AMBLACKCAT
06.Abstract Blue
07.payrent
08.You be Kool
09.Desolate
10.Side by Side
11.Uptown
12.New Dawn(feat. Lil Summer)
13.juice
14.guano
15.pool
16.Kaminari
17.Strawberry fields
18.Cannonball(feat. 寺久保伶矢)
プレイリストリンク:
https://lnk.to/SAR_Return_of_Kool_Theory
<配信情報>
デジタル・シングル
「Side by Side」
2025年1月29日(水) 配信リリース
Pre-add / Pre-saveリンク:
https://lnk.to/SAR_SidebySide
<リリース情報>
1st EP(タイトル未定)
2025年春リリース予定
<ツアー情報>
『S.A.R. Live Tour 2025(仮)』
2025年5月17日(土) 大阪・Music Club JANUS
開場 17:30 / 開演 18:00
2025年5月23日(金) 東京・LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00
【チケット情報】
スタンディング 4,500円
※別途ドリンク代600円必要
■最速先行(先着)受付:4月17日(木) 23:59まで
https://w.pia.jp/t/sar2025/