浅倉秋成による同名小説を映画化した『六人の嘘つきな大学生』が公開中だ。成長著しいエンタテインメント企業の新卒採用に参加した6人の就活生たちの“裏の顔”が巧みに暴かれていく密室サスペンス要素と、それぞれの人生と向き合っていく青春ミステリー要素を掛け合わせた本作。6人の就活生を演じたのは、人気と実力を兼ね備えた若手俳優たちだ。MOVIE WALKER PRESSでは、主人公である嶌衣織役の浜辺美波、波多野祥吾役の赤楚衛二、九賀蒼太役の佐野勇斗、矢代つばさ役の山下美月、森久保公彦役の倉悠貴、袴田亮役の西垣匠のリレーインタビューを実施。
【写真を見る】浜辺美波が見せる“裏の顔”…?ミステリアスな表情を撮りおろし!劇中では、“1か月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをする”という最終選考に向けて交流を深めていく6人だったが、本番直前に課題が変更され、たった一つの内定の席を奪い合うライバルとなってしまう。そして迎えた試験当日、会場で何者かによる告発文が見つかり、それぞれが抱える“嘘と罪”が明らかになる異常事態となる。疑心暗鬼になる6人だったが、やがて1人の犯人と、1人の合格者が出ることに。しかし物語はそれで終わらず、最終選考から8年後のある日、衝撃の事実が明らかになる。
6人に極上のミステリーサスペンスである本作の見どころ、映画の舞台裏をたっぷり語ってもらうことで、本作の“表と裏の魅力”に迫っていく。最終回となる第6回は、早稲田大学社会学部の学生で、人並外れた洞察力を持つ嶌衣織を演じる浜辺美波。
※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。
■「原作ファンの方にも楽しんでもらたらいいなという責任感や緊張感も芽生えました」
――ミステリーがお好きということですが、本作のミステリーとしてのおもしろさや、脚本を最初に読まれた時の率直な感想を教えてください。
「原作は密室劇としてのおもしろさもありましたし、頭の中で伏線を整理しながら、6人の中の誰が犯人なのか、登場人物たちと一緒に考えていく楽しさを、ほかのミステリー作品よりも強く感じて。自分も追い詰められていく就活生の一人になったような没入感や、後半にかけてスピードアップしていく感じや、爽快感も私の好みでした。でも、今回の映画の脚本は小説と展開を変えたところもあるので、そこを原作ファンの方にも楽しんでもらえる作品にできたらいいなという責任感や緊張感も芽生えました」
――本作は6人全員の“表の顔”と“裏の顔”が見え隠れするところが大きなポイントですが、どんな役作りを意識されました?
「嶌のバックボーンも小説とは少し違うので、役作りは脚本を重視して行ったのですが、彼女を自分の中で育てていくのが難しかったです。6人それぞれが自分の役割を考え、ほかの人たちをどういう視線で見るのか?裏の顔を出し過ぎていないか?といったバランスを意識しながら演じていました。また、嶌さんに関しては、裏表があまりないような印象があって。彼女にももちろん、ほかの5人と同じように秘密が一つあります。でも、私はそれを裏の顔と捉えるのではなく、それも含めたすべてが嶌さんという感覚でキャラクターを作っていきました」
――映画の仕掛けとして、全員が観客をミスリードする役割も担っていたと思います。その点で意識したことや、佐藤祐市監督とすり合わせたことはありますか?
「ちょっとしたひと言が意味を持ったり、ミスリードにつながったりするので、セリフを言うタイミングやテンション、目線の動かし方など、その都度、監督に相談させていただきました。一つのカットだけを抜いて使われると必要以上に意味を持ってしまうし、やり過ぎると後半と結びつかなくなるような気がしたので、そこは監督やほかの5人の意見を聞きながら調整していきました」
――最終ディスカッションのシーンでは立ち振る舞いで悩まれたそうですね。
「会議室のセットの広さについては事前に聞いていたものの、実際に入ってみたら、イメージと少し違っていたんです。それこそ、お芝居もリハーサルで一度通してやったみた時は“やりやすい!”“全然行ける!”と感じていましたが、いざ気持ちを入れてセットで演じた時に言いにくいところが生まれて。その時に、『嶌さんとこの人のセリフの順番を入れ替えたら言いやすくなるんじゃない?』といったアドバイスをそれぞれいただいたりしたので、その都度、全員で相談しながら撮影しました」
■「役柄と違って、全員が“誰かを陥れよう”といった発想がない人たちでした(笑)」
――本作のように、同世代の俳優が結集してお芝居をする撮影ならではの、刺激を受けた点があれば教えてください。
「撮影の合間に、(森久保を演じた)映画好きの倉(悠貴)くんが、私が絶対に観ないような映画をいっぱい薦めてくれました。彼はお洋服にもすごく詳しいですし、そういう一つのことを極める集中力があるんです。ほかの人とは違った視点で、現場を俯瞰している感じもおもしろかったです」
――先ほど言われた話し合いのタイミングなどで、積極的に意見を出すことが多かった人は?
「みんな積極的でしたが、倉くんはそういう意見が出た時に真剣に考えて、『確かに!』って味方になってくれる人でした。常になにかを考えていて、普段はどちらかと言うと無口だけど、“間違ってない”と思ったら全力で応援してくれました。でもそれは倉くんに限らず、みんなそうだった気がします。役柄と違って、全員が“誰かを陥れよう”といった発想がない人たちでした(笑)」
――“裏の顔”を隠し、クールに物事を進める九賀蒼太を演じた佐野勇斗さんの印象は?
「佐野くんはハツラツとしていておもしろいし、身近に感じられる人でした。インスタライブとかもすごく個性的じゃないですか?でも、今回の現場では、意外とイジられキャラと言うか、みんなから茶々を入れられる役回りになることが多くて。それをクールに全部撥ね飛ばして笑いに変えちゃうのが佐野くんのスゴいところ。MCも上手いし、M!LKでのグループ活動を経て身につけたあの協調性は私も見習いたいと思いました」
――矢代つばさに扮した山下美月さんはいかがでしょうか。唯一の女性の共演者です。
「山下さんも私のイメージとは全然違う人でした。もっとアイドルっぽいのかな?と思っていたのですが、すごくさっぱりした性格で。乃木坂46の山下さんの卒業ライブで、後輩や同期の子たちが号泣していたのがわかるぐらい、気遣いができて、温かみのある素敵な人なんだろうなと、私も今回の現場で感じて。頼り甲斐があるし、なんでも聞いてくれて、おもしろく返してくれる。冗談もすごく上手いんです(笑)」
――劇中には嶌さんと矢代がバチバチするシーンもありましたが、あのあたりの撮影はいかがでした?
「怖いな~と思いました(笑)。山下さんはやっぱり目力がスゴいので、それまで優しかったのに、本番になった途端にキッて睨むから、もうその目しか見られなくなってしまって。ああいう女性同士の戦いや嫌味の言い合いみたいなものは実生活では避けがちですが、あの追い詰められた環境ではそれが出てしまうんだなということも実感しましたし、苦しかったです」
――一番最初に告発される袴田亮を演じた西垣匠さんも、そこでイメージが180度変わるような役どころでしたが、実際の西垣さんはどんな方でした?
「普段は爽やかボーイです。事務所が同じで、同郷でもあるので親近感があって、それもうれしかったです。現場では、監督から場を盛り上げるキャラの指導を何度も受けていましたが、最初のほうで初めて6人が対面するファミレスのシーンでは、西垣くんが本当に大声でみんなを盛り上げて、場の空気を作ってくれました。あれでみんなと仲良くなれるなと思いましたし、そこに説得力が出たような気がします」
――赤楚さんとのお芝居は、“嶌が波多野の好意を利用していた”という最後のオチとも関係してくるので難しかったと思うのですが、そのあたりはどうでした?
「相手の好意を利用するのって、たぶん多くの人が自然にやっていることだと思うんです。でも、みんなが当たり前のようにやっていることにも嶌さんは罪悪感を覚える良識のある人なんだろうなと、演じながら思いました。後悔や申しわけないという気持ちがあるし、それをわかっていてあんな行動に出る波多野の優しさにも苦しんでいる。そのことが伝わるように演じるのが難しかったです」
■「正解がわからないから、ずっと不安でした」
――最終ディスカッションのシーンは1週間ぐらいかけて撮ったそうですけど、あの緊張感をどうやって維持していたんですか?
「見せ場が毎日変わって、主役がどんどん入れ替わっていくような現場だったのですが、翌日が自分の見せ場の撮影になる人は前日の夜から顔色が違っていました。『明日は俺だ、明日は俺だ』って言っていたり、当日の朝も『このあと、俺の撮影だ』って言いながら緊張したり、気合いを入れたりしていたので、ゆるゆると撮影が始まる日は意外となくて。その連日の熱気がみんなを“やるぞ~!”という気持ちにまで高めていたと思います」
――浜辺さんもあの最終ディスカッションのシーンの前日や当日は緊張されたんですか?
「私は会議室に登場するシーン以外はほぼ座っているだけだったので、あの一連はそんなに緊張することはありませんでした。ただ、セリフが多い人や立ち回りがあった人たちのほうが大変だったと思うのですが、座りっぱなしでセリフが少ないからこその悩みもやっぱりあって。全員の芝居を引きで撮っている時は普通に演じられるんです。でも、嶌さんの顔をアップで抜かれた時に“他意があり過ぎないか”とか“嫌な女に見え過ぎないか”とか、いろいろなことが気になってしまいました。後半は特に、待機場所に戻ってからも『いまので合ってたかな?』と言っていたぐらい(笑)、正解がわからないから、ずっと不安でした」
――ほかにも大変だったところはありますか?
「私が大変だったのは、やっぱり8年後の現代のシーンです。しかも、8年ぶりにみんながあの会議室に集まるシーンの撮影の前日から、監督がずっと『大変だね~』って言うので、それもプレッシャーで(笑)。『イヤだ~!』って笑ってごまかしていたけれど、 “始まる、始まる”ってずっとドキドキしていました」
――8年後のあの一連はどんなことが大変だったんですか?
「後半に照明がすべて変わって、波多野が登場するシーンが、確か台本には『波多野の姿が皆の前に現われたように見える。』と書いてあったのですが、どうやって撮影するのかは聞いていなくて。しかも、登場前のくだりと登場後のくだりを先に撮って、最後にあの波多野の登場を撮影することになったので、“なるほど”と思ったけれど、動揺してしまって。みんなも赤楚さんの声だけで撮影するとか、違う想像をしていたから、倉くんなんて「『…ように見える。』じゃなくて全然いるやん!なんで来るの?」って赤楚さんに詰め寄っていました(笑)。そこから、8年前と帳尻を合わせた方がいいのか、無視してしまってもいいのか、ということを話し合っていったのですが、みんな一瞬混乱したのを覚えています(笑)」
――赤楚さんは現場に普通に現われたんですか?
「赤楚さんだけはどういう撮影になるか知っていたんです。赤楚さんは『自分が登場する前のシーンも見ておきたい』と言っていたのですが、『亡くなった波多野のことを思いながら芝居をしているので、来ないで!』と全員で断固拒否して。赤楚さんがいらっしゃらない状態で撮影に挑みました」
――続いて告発によって裏の顔が暴かれる本作に因んだ質問です。6名の中から、どなたかのあまり知られていない魅力や意外な素顔を告発してください。
「お菓子の間食が意外に多かったのは赤楚さんです。赤楚さんが毎日すごい量のお菓子を買ってくるので、その誘惑に負けて節制している人まで食べ始めてしまって(笑)。あと、みんなでご飯に何回か行ったのですが、一番人付き合いがいいのが西垣くん。赤楚さんがサウナに誘った時も一緒に行っていたみたいです」
――ちなみに、浜辺さんがもし就職活動をすることになったら、どのように自己PRをしますか?
「このお仕事をせずに、普通に学生生活を続けていたら、卒業までに就活に有利なことをいろいろしていたと思います。生徒会の役員をやったり、○○委員長とか、そういうことを頑張ってやるタイプなので、そこを最大限プッシュします」
――エントリーシートの長所や特技を書く欄にはなんと書きますか?
「“資料や物語から大事なことを読み解く力”かな。文章を読んで、そこから“学び”を得るのが好きなので、それを書くと思います」
――これまでの人生にも、これは絶対に勝ち取りたいとか、このオーディションには絶対に受かりたいと思ったことはあったはずです。そうした時に、願掛けだったり、自分の中でルーティンのように決めているようなことはありますか?
「オーディションを受けていたころは、落ちるのが当たり前になってしまっていて、いま振り返った時に、毎回100%本気で挑んでいたかと言われると、そうではなかったように思う部分があって。でも、いまもし受けることになったら自信を持つためにも事前準備をもっとすると思います。あと、緊張するとお腹が痛くなるので、そうならないように、カイロでお腹を温めるようにすると思います(笑)」
取材・文/イソガイマサト
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