12月4日(水) 11:00
2024年12月3日(火)、新国立劇場 中劇場にて『白衛軍The White Guard』が開幕した。ウクライナ出身の作家ミハイル・ブルガーコフによる戯曲の、これが日本初演となる。初日前日に実施されたフォトコールおよび囲み取材に登場した村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、池岡亮介と演出の上村聡史が、舞台への熱い思いを明かした。
戦争の中で、人は何を大事にして生きていけばいいのか幕開けは、がらんどうの舞台。奥行きのある新国立劇場 中劇場ならではの導入は、ダイナミックかつ胸に直接飛び込んでくるような仕掛けで、客席を一気に100年前、ロシア帝国崩壊後のウクライナへといざなう。描かれるのは、旧ロシア帝国軍の士官たち──白衛軍の人々、その家族の物語だ。
撮影:宮川舞子撮影:宮川舞子囲み取材では、まず俳優陣がそれぞれの役どころを紹介。
ニコライ役の村井良大が演じるのは、トゥルビン家の末っ子で、まだ18歳の兵隊だ。
「伍長として務めています。明るいキャラクターで、ギターを弾いたり歌を歌ったりするシーンが多々ありますので、ぜひ観ていただけたら」。
前田亜季演じるエレーナは、ニコライの姉で3兄弟の真ん中。
「姉の優しさ、柔らかさ、ときには母の大きさ。いろんな面を見せる女性だと思って演じています」。
トゥルビン家の長男で、父親的存在であるアレクセイを演じるのは大場泰正。
「ロシア帝国下の生活、文化が深く刻み込まれている人間。若者たちの将来について、多分一番よく考えている人物だと思います」。
池岡亮介演じるラリオンは、トゥルビン3兄弟のいとこ。
「大学進学のために突然トゥルビン家にやってきて、賑やかし散らかします(笑)。愛されるキャラクターになれるよう頑張ります」。
もしかして、これからトゥルビン家の人々と家族になるかもしれない?と紹介されたのはレオニード。
「それは私でございます(笑)」と申し出た上山竜治は、「オペラを嗜む軍人です。戦時下ではあるけれども、甘い声で歌いながら人妻を口説く、エレーナに恋している人物。敗戦を経験しながらも、すごく先を見ながら突き進む、生命力のある役」と述べた。
演出を手がけた上村聡史は、「戦争という状況の中で人は何を大事にして生きていけばいいのか、ということを丹念に、丁寧に見つめて作りました」と振り返る。「難しそうだなという印象はあるかもしれませんが、トゥルビン家の人たち、登場人物たちの生活を大事にしました。喜劇的な部分もありますし、悲劇的な部分もありますが、そのヴァリエーションを楽しんでいただければ」。
ブルガーコフが未来に託していた願い、祈りを、丁寧に届けていきたい右から)上村聡史、上山竜治、村井良大、前田亜季、大場泰正、池岡亮介(撮影:宮川舞子)俳優陣も、自身の見せ場をはじめ作品の見どころについて、それぞれにアピール。
村井は、「今回、初めて舞台上でギターを演奏したり歌ったりします!今年の9月下旬ぐらいから練習をしてきました。人前でギターを弾くのは初めて。ちょっと緊張しているけれど、楽しい時間、音楽が、いかに人々の心を救ってくれるか、皆さまと共有できたら」。
前田は作者のブルガーコフに思いを馳せ、「彼が未来に託していた願い、祈りを、観てくださる方々に丁寧に届けていきたいなと思っています」。
大場は「困難な時代に生きている人々の生きる様を生き生きと演じたい」。
池岡は「舞台美術がすごいんです!」と前のめりだが、周りからけしかけられて一言、「詩を朗読します」と照れ笑い。
上山は、「すごく緩急がある。コミカルなシーンも、歌うシーンもありますし、何しろ、新国立劇場のこの機構をフルに使った演出がすごい!セットがグワーっと出てきたり上がったり下がったり回ったりするんです!!見たことのない舞台です」と目を輝かせた。上山はさらに、「芸術とか歌が寄り添いながら、物語が紡がれてゆく。歌の威力ってすごいなと思いました」とも。これを受けて大場は、「少し真面目な話になるけれど──」と断りつつ、「帝政ロシアは、バレエ、文学といった“文化”が生み出された時代。家庭にもそうした文化がこのようにあふれている。けれど、実はそうではない階級の上に、その繁栄がある。私たちはこの生活を守りたいと思っているわけですが、そうではない動きとして、民衆が動き出したとき──私は彼らを“敵”と言う。そういう台詞があるのですが、本当は皆を巻き込んでいい国を作りたかったのに、彼らを支配し、その上に文化が成り立っている。アレクセイという役はそういうことを自覚している人間。帝政側の人間でも、思いは同じだった。そう思いながら取り組んでいます」。
面白い台詞が詰まった作品に。クリスマスにちなんだシーンも上村は、2009年から1年間の英国留学時にこの作品に出会い、いつか取り組みたいと考えていたと聞く。並々ならぬ思いでクリエーションにのぞんだに違いないが、俳優たちと実際に稽古を重ねることで新たに気づいたこの作品の一面、魅力について尋ねた。
「自分でも意外だったのは、すごくいい台詞がいっぱいある作品だなと気づいたこと。胸に迫る台詞もあれば、楽しくて笑える台詞、そしていまのこの時代に想像が及ぶ台詞、100年前のこの時代に真摯に生きた人たちの思いが伝わる台詞がたくさんあって、久しぶりに台詞で楽しめる芝居に、というのは大袈裟かもしれませんが、総勢19人の俳優が紡ぐその台詞の質感が──恐れずに言うなら、すごく、エンターテインメントになっている。台詞の聞き心地というか、面白い台詞がたくさん詰まった作品になりました」。また、劇場の機構を最大限に活かした舞台、装置へのこだわりについては、「冒頭の、何もない暗闇からある劇世界が現れて──という場面には、過去が現れて、それがいまにも繋がっているんだという思いをこめた。いま起きていることと100年前を短絡的に結び付けていいものではないということは重々わかってはいるのですが、先人たちが生きて培ってきたものがいまにも繋がっているということを、今回のコンセプトとして一番に置きました」と明かした。
最後に「舞台装置を含め、ここまで立体感のある舞台は初めてです!」と断言したのは村井。「それがS席8,800円で観ることができる。正直お得過ぎる(笑)、と感じております。観て後悔しない、心に残る作品。クリスマスにちなんだシーンもあります。皆の生きる姿、懸命に戦う姿を見ていただければ幸いです」と、締めくくった。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
『白衛軍 The White Guard』
作:ミハイル・ブルガーコフ
英語台本:アンドリュー・アプトン
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、大鷹明良/池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介/今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介/武田知久、草彅智文、笹原翔太、松尾諒
日程:2024年12月3日(火)~12月22日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2454274