12月4日(水) 18:00
初めて海外で博士号を取得された女性皇族として知られる三笠宮彬子さま。イギリスでの留学生活について記した『赤と青のガウン』は「プリンセスの日常が面白すぎる」とSNSで話題を呼び、出版から8年経った2024年になって文庫化されるなど、ふたたび注目されました。
そんな三笠宮彬子さまが京都で暮らす中で、感じたことや経験したことを京都の「通り」にまつわるエピソードとともに綴ったのが、2024年7月に発売された『新装版京都ものがたりの道』。こちらは2016年に出版されたものに加筆・修正をおこない、新書サイズで刊行した新装版です。
皆さんもご存じのとおり、平安京の昔から、東西の通りと南北の通りが直角に交差し、碁盤の目のように街路が作られている京都。彬子さまは「京都の人たちの生活は道とともにある」「通り一本違うだけで雰囲気ががらりと変わるし、それぞれの通りに独特な個性がある。どの通りを歩いても必ず史跡にあたるのも楽しい」(同書より)とその魅力を記します。
「六角通」に「河原町通」「丸太町通」「三条通」......次々と紹介される通りはどれもそれぞれに個性があって、京都という街の歴史や文化を感じさせられるものばかり。そして中には、京都以外の人とっては初めて知るようなお話もあります。たとえば、「新 今出川通」の章に出てくるのが、「京都人はパン好き」だという話題です。実際、パンの都市別消費ランキングでも京都市は1位だそうですが、その中でもパン屋さんが群雄割拠するのが「今出川通」。パリのブーランジェリーのようなお店から昭和の香りただよう素朴なお店、天然酵母系、ドイツ系、フランス系、デニッシュ系、あんぱんやクリームパン、カレーパン......ここでは実にさまざまなパンに出会えます。彬子さまはここから、「日本人ほど他国の文化に寛容な国民はいないのではないか」(同書より)と考察。
「伝統と革新は表裏一体。京都という街は、保守的なように見えて、常に新しいものに向き合い、それを取り入れることにどん欲に挑戦してきた。守るだけでは残らない。それが、京都に今も伝統が生き続ける理由であり、またパン屋さんが多い理由でもあるのだろう」(同書より)
これは、ヨーロッパでも長く暮らした経験を持つとともに、日本美術研究者としても活動する彬子さまだからこその視点ではないでしょうか。
同書には、「京都に暮らすようになって感じることがある。それは、英国人と京都人は似ている、ということ」(同書より)なんて一節もあり、彬子さまにとって京都は思い出深いオックスフォードと共通点が多く、不思議な居心地の良さが感じられる街のようです。
親しみやすい筆致でありながら、これまで培ってきた知性や品性、そしてちょっとしたユーモアを感じさせる内容で、彬子さまの人となりも自然とうかがえる同書。執筆された2014~2016年頃ではコロナやオーバーツーリズムの影響により街に変化が見られるところもあるかもしれませんが、それでも細部に息づく街の魅力と彬子さまの京都愛はこの中にギュッと詰まっています。知識人でもあるプリンセスが記したガイド本は、皆さんの心を京都へといざなってくれるはずです。
[文・鷺ノ宮やよい]