赤楚衛二が語る、映画『六嘘』の“表と裏”「本当の大学生みたいに青春してました」【『六人の嘘つきな大学生』公開記念インタビュー連載】

『六人の嘘つきな大学生』で波多野祥吾を演じた赤楚衛二にインタビュー!/撮影/宮崎健太郎スタイリング/壽村太一(COZEN inc)ヘアメイク/廣瀬瑠美

赤楚衛二が語る、映画『六嘘』の“表と裏”「本当の大学生みたいに青春してました」【『六人の嘘つきな大学生』公開記念インタビュー連載】

12月4日(水) 19:30

浅倉秋成による同名小説を映画化した『六人の嘘つきな大学生』が公開中だ。成長著しいエンタテインメント企業の新卒採用に参加した6人の就活生たちの “裏の顔”が巧みに暴かれていく密室サスペンス要素と、それぞれの人生と向き合っていく青春ミステリー要素を掛け合わせた本作。6人の就活生を演じたのは、人気と実力を兼ね備えた若手俳優たちだ。MOVIE WALKER PRESSでは、主人公である嶌衣織役の浜辺美波、波多野祥吾役の赤楚衛二、九賀蒼太役の佐野勇斗、矢代つばさ役の山下美月、森久保公彦役の倉悠貴、袴田亮役の西垣匠のリレーインタビューを実施。
【写真を見る】赤楚衛二が見せる“裏の顔”…?まっすぐすぎる眼差しを撮りおろし!

劇中では、“1か月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをする”という最終選考に向けて交流を深めていく6人だったが、本番直前に課題が変更され、たった一つの内定の席を奪い合うライバルとなってしまう。そして迎えた試験当日、会場で何者かによる告発文が見つかり、それぞれが抱える“嘘と罪”が明らかになる異常事態となる。疑心暗鬼になる6人だったが、やがて1人の犯人と、1人の合格者が出ることに。しかし物語はそれで終わらず、最終選考から8年後のある日、衝撃の事実が明らかになる。

6人に極上のミステリーサスペンスである本作の見どころ、映画の舞台裏をたっぷり語ってもらうことで、本作の“表と裏の魅力”に迫っていく。第5回は、立教大学経済学部の学生で、真っ直ぐで穏やかな性格の波多野祥吾を演じる赤楚衛二。

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

■「彼らとのお芝居は勉強になることも多いんじゃないかなとも思っていました」

――まずは本作の原作や脚本を読まれて、どんな感想を持たれましたか?

「こういう密室の会話劇は最近の映画にはあまりなかったので、そこに惹かれました。それに、人って相手のことを表面的なところだけで判断しがちですが、ちょっとでも裏の顔が見えた瞬間に“そっちが本性なのでは?”と思うことも多々あるし、そこにフォーカスしているのもおもしろかったです。もちろん誰が犯人なのか?というサスペンスとしても楽しめるなと思いましたけどね」
人気企業の採用試験に臨んだ6人の大学生たち。最終試験で思いもよらない出来事が…


――波多野祥吾役でオファーされたことについてはどう思いました?

「自分の年齢で大学生の役を演じられるかなという不安はありましたが、これまでもわりと真っ直ぐなキャラクターを演じさせていただいたことが多かったし、自分の得意なジャンルの作品でもあったので、自然に受け入れることができました。でも、今回はそれ以上にみんなと仲良くしたい、チームを大事にしたいという想いが強くて。一番年上でもあったので、彼らとのお芝居は勉強になることも多いんじゃないかなとも思っていました」

――本作は6人全員の“表の顔”と“裏の顔”が見え隠れするところが大きな見どころですが、なかでも波多野は物語を左右するキーパーソンです。どんな役作りを意識されたのでしょうか。佐藤祐市監督とは撮影前にどんな話し合いをしましたか?

「僕が演じた波多野は裏表があまりなくて。だから、自分の役のことで話し合うことはなかったけれど、逆に俯瞰で台本を読むことができました。どちらかと言うと、波多野以外の5人のキャラクターがどうしたら魅力的に映るかな?ということを考えながら、“このセリフの時、こうしてみよう、ああしてみよう”みたいな提案をさせていただきました。監督とも『ここはテンポ感が大事ですね』とか『ここで強弱をつけると、あとのシーンが活きますね』といった意見交換をしましたし、すごく客観的なスタンスで参加させていただいた印象があります」

まっすぐな性格の波多野祥吾を演じた赤楚衛二

――でも、そうやってみんなで話し合いながら作っていくのはおもしろそうですね。

「舞台みたいでした。会議室のセットに入ってからはほとんど順撮りで、1日にだいたい台本の10ページ分ぐらいずつ撮っていったので、“今日は袴田(西垣)の見せ場で、次は矢代(山下)だな”という流れが自然にできてましたね」

■「みんな、こんなひどい顔をするんだと思って、ちょっとショックでした」

――皆さん、自分の見せ場のシーンの撮影の日はすごく緊張されたようですが、赤楚さんはいかがでした?

「いや、僕はあまり緊張しなくて。波多野の見せ場はどちらかと言うと後半じゃないですか。それまでにほかの人たちの芝居の積み重ねがあったし、みんな仲間だと信じていたから、安心して臨めました。なのに、最後にあんなに冷たい顔をされるから、普通に傷つくよなあと思っていました(笑)」
信頼関係を築いていたはずの6人は、告発文の存在によって互いを疑うようになる


――アリバイがないだけで犯人扱いされて、ほかのみんなから白い目で見られる一連ですね。「えっ、ちょっと待ってよ。なんか、おかしくない?僕、いま、疑われてるの?」って動揺するあたりは、お芝居とはいえつらかったでしょうね。

「いや、めっちゃつらいですよ。本当に仲良くなりたかったし、実際、撮影の合間もすごく仲が良かったから、それも相まって、みんな、こんなひどい顔をするんだと思って、ちょっとショックでした」

――好意を持っていた嶌(浜辺)さんには目を逸らされますしね。

「そうなんです。嶌さんにちょっと好意がある設定ではあったんだけど、“友だちじゃん!”と思っていた彼女にも避けられて、けっこう傷つくことが多かったですね」

――でも、そこからの気持ちの切り替えが波多野はめちゃくちゃ速いですよね。「僕が犯人だと思っている人は手を挙げてもらっていい?」と聞き、みんなの反応を確認してから、嶌さんを守るために開封されていない彼女の告発文と写真が入っている封筒を持って退室するわけですけど、あそこの撮影はいかがでした?

「頭の回転が速いなとは思いました。追い詰められたあの最悪な状況で、嶌さんを救うために未開封の封筒をスーツのポケットに入れ、部屋を出ることなんてなかなか思いつかない。でも、それをパッとやってしまうと嘘っぽくなってしまうので、 少し間を取ってから動くようにしました」
波多野と嶌の関係性も、物語の重要なカギになる


――そのサジ加減が難しいところですよね。やり過ぎるとわざとらしいし、やらないと気づいてもらえなかったりしますから。

「こういうシチュエーションなので、芝居がどうしてもオーバーになりがちで。感情が激しく動くところだから過剰になってもいいんだけど、トリックの関係で引き算もしなければいけない。そのバランスが絶妙だったと思います」

■「本当の大学生みたいに青春してました(笑)」

――最初に「ほかの5人との共演は勉強になることもある」と言われましたが、実際に共演されて刺激を受けた点があれば教えてください。

「いやあ、とにかく皆さん達者でした。まだみんな20代ですよね?僕はその年齢の時に『仮面ライダービルド』の仮面ライダークローズを演じていたけれど、芝居であんなに絶妙なラインを突いたり、与えられたキャラクターを活かしきれていなかったと思うので、学ぶことが多かったです。それに、なによりみんなフレッシュで、いいものを作りたいという気持ちが強かったから、彼らと一緒に仕事ができて本当によかった。シンプルに波長が合う人たちでしたしね」

――撮影に入る前に、赤楚さんがみんなに「タメ口にしよう」って言われたそうですね。

「言ったかな?気を遣われるのがあまり好きじゃないっていうのもあるし、僕も相手が1歳でも年上だったら敬語になっちゃうんですけど、今回は敬語を使われると、同年代の就活生なのにチーム感が出ないと思ったので、タメ口にしてもらったのかなと。まあ、美波ちゃんと山下美月ちゃんは共演歴もあって、僕がどういう人間かもわかっているから、最初からタメ口でしたけど、(九賀役の)佐野(勇斗)くんや倉くんは途中まで敬語だったかな?でも、波多野というキャラクターはみんなと仲良くすることが一番大事だと思っていたので『タメ口にしてくれ』と頼んだはずです」
撮影を通じ、本当に仲良くなったという6人のキャストたち


――そんな仲良くなった皆さんとの撮影の合間の思い出は?

「撮影したのが去年の夏で、ちょうど近くで花火大会をやっていたから、角川大映スタジオの屋上からみんなで花火を見ながらご飯を食べたりして。本当の大学生みたいに青春してました(笑)」

■「積み上げてきたものをあそこで全部ぶつけた感じでしたね」

――続いて告発によって“裏の顔”が暴かれる本作に因んだ質問です。6名の中から、どなたかのあまり知られていない魅力や意外な素顔を告発してください。

山下美月は辛いものが大好きだそう!

「山下さんが辛い食べ物が好きだから、彼女に触発されて、みんなが辛い物を食べに行っていたんですけど、その辛さが異常なんですよ(笑)。普通では食べられないレベルのものもデリバリーしてもらっていたし、『昨日、〇辛食べた』みたいな話をしているから、スゴいなと思って。僕も辛いのは好きなんですけど、年齢もありますし、胃腸のことも考えて、そこは無理をしないようにしています(笑)」

――そうなんですね!ほかにも印象に残っている人はいます?

「倉くんはお芝居のパターンがいつもいっぱいあって。“こういうのもあります” “こんなのもあります”という引き出しが多いし、相手の芝居のこともすごく分析しているから、傍から見ていてもお芝居が好きなのがすごく伝わってくるんですよね。それが彼の魅力にもつながっていると思います。なのに、『倉ってお芝居好きだよね?』って聞くと、『いや、好きじゃないっす』って言うから(笑)、あの斜に構えた感じはなんなんだろう?なぜそこまで否定するんだろう?とも思うんだけど、彼のそんな天邪鬼なところが可愛いんです。これはたぶん、あまり表に出ていないエピソードじゃないかな(笑)」
芝居への情熱が印象的だったという倉悠貴


――映画の話に戻りますが、8年後のシーンでは、波多野は本来、いないはずですが…。

「死んでますからね」

――でも、特殊な出演の仕方をされています。あの撮影はいかがでした?

「難しかったですね。あの8年後の波多野も就活の呪縛から解かれていない状態で、8年前の最終ディスカッションのところから精神状態は地続きなんじゃないかと僕は思っていたんです。でも、いわゆる霊として演じたらいいのか、波多野の“想い”を視覚化したものとして登場すればいいのか、そこはすごく悩みました。それで監督に相談させていただいたら、どちらかと言うと、彼の“想い”が5人の意識を通して過去とパーンとつながるようなイメージということだったので、“なるほどな”と理解して。最後の最後はもう『みんな大好きだよ』っていう波多野の告白なので、後半の方に撮らせてもらいましたし、積み上げてきたものをあそこで全部ぶつけた感じでしたね」

――波多野が登場しない8年後のシーンの前半の撮影の時は、あとの5人から「現場に来るな!」って言われたそうですね(笑)。

「そうなんですよ。『行きたい』って言ったら、『来なくていい。私たちだけで楽しいから』って。まあ、『来てよ』って言われたら、それはそれでちょっと心配になるので、それぐらいの関係になれたのはうれしかったけれど、『来なくていい』は酷いですよね(笑)」

■「『観ないほうがいい』って言う人もいるかもしれないけれど、僕は逆に観てほしい」

――ちなみに、赤楚さんがもし就職活動をすることになったら、どのように自己PRをしますか?

もしも本当に就職活動をするとしたら?「僕は笑いに持っていきますね」

「『楽しい人でーす』とか言って、僕は笑いに持っていきますね。これまでのオーディションでも、掴みで笑いをとる方向に持っていくことが多くて。『赤楚衛二です。赤楚を英語で書くとAKASOですけど、逆から読むとOSAKA。大阪出身です!』って言った時に笑ってくれたら“勝った!”と思っていたし、会話にユーモアや親父ギャグをぶっ込みながら“この人と一緒に仕事をしたいな”って思わせるようにしたいんです。自分のPRポイントで攻めていくというより、“この人といたら楽しそうだな”って思ってもらうことを前面に押し出したいんですよ」

――エントリーシートの長所や特技を書く欄にはなんと書きますか?

「長所は“柔軟”です。本当に柔軟で、決断するのも早い。ただ、それは短所でもあって、優しさなのか弱さなのかわからないけれど、人から強く言われると、『じゃあ、わかりました』って簡単に折れちゃうところもあるから、そこが悩ましいところです」

――そのあたりは波多野とすごく重なりますね。

「重なりますね。本当に、まんまじゃないですか」

――そこまで言い切っちゃいます?

「はい。『フィールドワークサークル部に入ってます。あっ、ただの散歩サークルです』というセリフもありましたけど、ああいうこと実際に言いそうだし(笑)、違うのは学力の差ぐらいで、あとはまんまです。これまで演じてきた役の中でも、一番自分に近いかもしれないです」

――では、ああいう局面になったら、波多野のように嶌さんを救うような行動をとると思います?

「いや、そこは違いますね。僕も裏切られたら敵とみなすし、“好き”という感情があっただけに、“愛”から“憎”にガッと切り替わって、みんなに彼女の本性をバラします。そこが波多野との大きな違いかもしれない。彼は優し過ぎますよ」
波多野は、最後まで浜辺美波演じる嶌のことを思って行動する…


――なるほど。そこが違いですね。先ほどのオーディションの話とも重なりますが、これまでの人生でもこれは絶対に勝ち取りたいと思うようことがあったと思います、そうした時に、験担ぎだったり、自分の中でルーティンのように決めているようなことはありますか?

「ないですね。ただ、準備はします。例えば勝ち取りたいヤンキーの役があったら、あえて爽やかな格好でオーディションに行って、“これは無理だろう?”って思わせておいてから弾ける演技をしたり。そういうギャップが大事だと思っているし、そこは演出まで考えて臨みます。でも、前日にカツカレーを食べるとか、そういうことはしてこなかったですね。受験の時に母親が縁起物のお菓子を買ってきてくれて、“優しいな”って思ったことはあるけど、それぐらいです」

――でも、そうやって笑いをとりながら勝ち取ってきているのはスゴいです。

「落ち続けた結果ですね。その役に自分が合わなかったということもあるけれど、なぜ落ちたのか、ここで緊張したのがダメだったのかな?どうして緊張したんだろう?といったことをひとつひとつ掘り下げて分析し、言語化していくということを繰り返しやっていたんです。そしたら、お笑いに走るほうになっちゃいました(笑)」

――本作を実際にこれから就活する人たちにオススメしますか?内容が内容なので、就活生は観ないほうかいいと思いますか?

【写真を見る】赤楚衛二が見せる“裏の顔”…?まっすぐすぎる眼差しを撮りおろし!

「『観ないほうがいい』って言う人もいるかもしれないけれど、僕は逆に観てほしいですね。極限の状況に陥ると、人って異常な心理状態になるじゃないですか。劇中には『それが本性だ』って決めつけるシーンもあるんですけど、追い詰められると偏った見方になったり、視野が狭くなるということは、今回の映画で伝えたいですね。なので、ピンチになった時こそ、目をクッと開いて、あまり気負わずに…と言いたいけれど、気負うのが就活。大人になった僕らは、あの時気持ちをもっと大きく持っておけばよかったって思えるけれど、それを言ったところで、就活生にはやっぱり刺さらない。気づける人は気づけると思うけれど、人生の大きな選択ですから、言えるのは『我武者羅に生きてください』ということぐらいですね」

取材・文/イソガイマサト


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