『わたしは真悟』の思い出も語りたい
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、楳図かずお先生が描いた『ウルトラマン』について語る。
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ホラー漫画の巨匠、楳図(うめず)かずおさんが亡くなりました。私は作品への思い入れに加え、高校時代に吉祥寺で頻繁に楳図先生ご本人をお見かけしたことがあり("まことちゃんハウス"の誕生も定点観測しました)、勝手に親近感を抱いていたので、寂しい限りです。
『漂流教室』や『わたしは真悟』など、恐怖の本質に気づかせてくれた作品はたくさんありますが、びっくりした作品のひとつは、楳図先生が描いた『ウルトラマン』。ホラー漫画の巨匠がヒーローもの、しかもあのウルトラマンの漫画を描いていたのです。さらに驚くのが、楳図ウルトラマンが出たのは1966年。初代ウルトラマンのテレビシリーズと同時期に発表された、元祖ウルトラマン漫画なのです。
楳図ウルトラマンは、『週刊少年マガジン』で連載された作品。テレビシリーズの放送開始とほぼ同時に開始されたため、楳図先生はウルトラマンのテレビ番組を見ずに、放送前の設定資料を基に描きました。参考資料はかなり限られていたようで、ほんのちょっとのシナリオと、バルタン星人とウルトラマンの正面の写真、そして無音の動いている映像だけを頼りに描いたと本人が語っておられます。
そのため、カラータイマーのオノマトペが「カキーン」だったり、みんなが知ってるウルトラマンとは「なんか違う」ディテールの違いがたくさんあって面白いです(カラータイマーは「音が鳴る」とだけわかっていたそう)。知っているウルトラマンとの違和感が先生ならではのホラー表現と相まって、怪奇色満載の仕上がりです。
ウルトラマン自体も不気味。口元が人間で、「ただマスクをかぶってる人」感が強い。スペシウム光線ではなくほとんど素手で戦うので、暴力性がアップ。先生は「Aタイプ」と呼ばれる初期のウルトラマンを参考にしたらしいですが、なんか目も怖くて、なんともいえない不穏さが漂ってます。暴れている怪獣と戦うため最後に現れるテレビ版と違って、楳図版ではウルトラマンが最初からめちゃくちゃ出てくるのも印象的。
でも一番すごいのは怪獣!とにかく迫力に圧倒されます。怪獣たちの基本のフォルムはテレビ版と同じですが、やっぱり楳図先生が描くと違いますね。ちょっとした筋とか、ぬめった感じとか、怖すぎます。バルタン星人は昆虫っぽさが強く、血管が生々しい。メフィラス星人は脚のイボイボがグロくて、足の指も気持ち悪い。ダダは目つきがヤバすぎる。対してフジ隊員とかは目がキラキラしていて、ちょっと面白い。
お気に入りはジラースの回。ホラー的展開に力を入れすぎたのか、ページ数が足りなくなって肝心のウルトラマンとの戦闘シーンを省略。「ウルトラマンがそのあとジラースをやっつけたことはここに書くまでもありません」の文で終わります。
扉絵もたまらなくカッコいいです。2016年に出た『ウルトラマン〈完全版〉』では扉絵もすべて掲載されているのでオススメです。当時の広告を含むコマ割りがそのままなのも楽しいです(「人気絶頂の科学アクションまんが!」というキャッチコピーが特に印象的)。ホラー好きや、ウルトラマンに興味がない方もぜひ!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。怪奇漫画と怪獣漫画は1文字しか違わない、と気づく。公式Instagram【@sayaichikawa.official】
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