簡単に作れるユニークなレシピと明るい人柄で大人気の料理愛好家、平野レミさん。2人のお嫁さんたちとも仲良しなレミさんに、「家族のおはなし」を聞きました。
■子育てはヒヤリハットの連続だった
ーーレミさんの人生哲学が詰まった新刊『私のまんまで生きてきた。 』では、5年前に亡くなった和田誠さんとの結婚生活のエピソードも多く収録されています。レミさんが結婚生活で幸せを感じていたことは何ですか?
平野レミさん(以下、レミさん)和田さんはいつもニコニコ笑っている人で、私は一度も怒られたことがないんです。和田さんは、40年間毎週『週刊文春』の表紙イラストを描いていたし、ほかにもいろいろと仕事をして多忙な人だったけれど、いつも笑顔で「お母さん、ただいま」って帰ってくるの。疲れた顔は見たことないもの。好きな仕事をしていつもうれしそうな和田さんのそばにいて、私も幸せでした。
ーー本当にすてきな結婚生活だったんですね。レミさんが2人の息子さん(和田 唱さん、和田 率さん)の子育てをしていた当時のことも教えてほしいです。
レミさん初めての子育てはね、心配なことや失敗したことはいくつもありました。長男がまだ2〜3歳くらいのころ、家の近所の公園で遊んだ帰り道、長男が三輪車で坂道を下っていたんです。そしたら交差点で車とぶつかる事故にあってしまって。小さかった長男が吹っ飛ばされて、私は「ギャー!!」と叫んだらしいの。「死んじゃうかもしれない!」ってあまりに気が動転して覚えていないんだけど、あとから喉と胸のあたりが痛むくらい叫んだみたい。
だけどそのときは奇跡的に、ほとんど長男にケガけががなかったんです。ほかにも、長男をピアノのレッスンに連れていくときに、向こう側から猛スピードの車が走ってきて、自転車に乗っていた長男にぶつかりそうになったこともありました。危なかったけど、それもセーフ!
子育てしていると、突然子どもの命にかかわるほどの危険があるものですよね。こういう危険な目にあってからは、子どもがもっと愛おしくてかわいくてたまらなくなりました。子どもを大事にしなくちゃ、きちんと育てなくちゃ、という気持ちにいっそうなりましたね。
(平野レミさん提供写真)
ーー初めての子育てでは、何回も危険なことがあったんですね。
レミさんそうそう、長男のときは子育て1年生だから私もよくわからなくって。アメリカの小児科医ベンジャミン・スポックさんの『スポック博士の育児書』を読んで勉強しました。育児書と長男の子育てを通じていろいろ学んだから、次男のときは危ないことはなかったと思うけど……そうだ、そういえば次男のときも反省することがありました。
次男がまだ赤ちゃんでよちよち歩きのころ、玄関外の門扉につかまって家の前に人が通る様子を興味津々で見ていたの。私は玄関の戸を閉めて、家の中で家事をしていたんです。
そうしたら近所の女医さんが家の前を通りかかって「レミさん、赤ちゃんをあんなところに1人にしたら盗まれちゃうよ!」って、注意されました。そう言われればたしかに危ないですよね。本当に、次男が盗まれなくてよかったわ〜!
■「食べなきゃだめでしょって怒ったら、私のことを嫌いになっちゃうかもしれないでしょう?」
ーーレミさんといえばお料理。息子さんたちが小さいときに苦手な食べものはどうしていましたか?
レミさん息子たちはにんじんやしいたけが嫌いで、いろいろ工夫しました。幼稚園のお弁当にね、嫌いな野菜を豆粒くらいに小さくして入れて、幼稚園の先生に「息子が食べたら褒めてやってくださいね」とお願いしておいたんです。帰ってきて、お弁当箱を見て野菜がなくなっていたら「あっ食べてる! すごいね、えらいね〜!」ってたくさん褒めるの。そうすると息子は「このくらい食べれるよ!」って得意げになるのよね。毎日野菜を少しずつ大きくして、食べてくるたびに褒めることを繰り返したらいつの間にか食べられるようになりました。
「食べなきゃだめでしょ」って怒ったら、にんじんを見るとお母さんに怒られると思ったり、私のことを嫌いになっちゃうかもしれないでしょう?
だから褒める作戦はおすすめです。
ーーレミさんご自身が苦手な食材はありますか?
レミさん長男を妊娠中に切迫流産になりかけて1泊だけ入院したことがあったんだけど、そのとき、和田さんと仲よしでよくうちに遊びに来ていた俳優の渥美 清さんが、お見舞いに箱入りの大きなメロンを2つ持ってきてくれたのね。そのときは「うれしい、ありがとう! これを食べて元気になります」っていただいたんだけど、私、メロンが世の中でいちばん嫌いだったのね。もちろん食べないからさ、いただいたメロンは、そのまま誰かにあげちゃったの。
ーーお見舞いやお土産にメロンをくださる方って多いですけど、そんなにメロンが大嫌いな人もいるんですね……。
レミさんそれでさ、しばらくして渥美さんがうちに遊びに来たとき、ちょうど家にいただきもののメロンがあったから切って出したんです。そしたら渥美さんが「レミちゃんも食えよ」って。「私はいいんですよ」って断っても「そんなこと言わないで」って勧めてくれてさ、「いいんです」「食えよ」って押し問答になって、なんて言ったら引いてくれるだろう、と思って
「私、実はメロンを食べるくらいならウンコ食べるほうがマシです!」
って言っちゃったの。
ーーえー!!!(スタッフ一同大爆笑)
(おちゃめなレミさん)
レミさん言っちゃったのよ〜。私は前に渥美さんからメロンをもらったことをすっかり忘れてたのよね。そのあとすぐに、前にいただいたことを思い出してさ。もうその日は渥美さんの顔を見られないから、寝ちゃった。
次の日、電話で両親に相談したら「正直に謝ればきっと大丈夫よ」と言われたの。それからしばらくして渥美さんがまた「渥美でございます」って遊びに来たのよ。私は謝ろうとして、靴を脱いで上がろうとしている渥美さんに「渥美さん!」って声をかけたら、渥美さんが振り向いて「ウンコのこと? あんなこと忘れてたよ」って。絶対忘れてないよね(笑)。本当に悪いことをしました。渥美さんは「気にしない、気にしない」って言ってくれて、優しい人ですよね。
そのくらいメロンが嫌いだったんだけど、子どもを産んでからは変わりました。私が嫌いなものは子どもたちにも食べさせられないじゃない? だから、無理して目をつぶって何でも食べるようにして、今はメロンも好きになったのよ。本当に、子育ては親育てよね。
■家族仲よしの秘訣「若い者には巻かれろ、よね」
ーーレミさんが息子さんご夫婦とも仲よしの和田家は、理想のファミリーだと思います。仲よしの秘訣は?
レミさん息子たち夫婦のことに無関心なことですね。私も自分の仕事のほうが大事だから。あーちゃん(食育インストラクター和田明日香さん)とも樹里ちゃん(俳優上野樹里さん)とも、遠慮しないで本音を言い合えているから、いい関係が続いているのかもしれませんね。昨日も樹里ちゃんから電話がかかってきて、1時間も話したくらい仲よしです。すっごく話が長いのよ!あと2人とも正直だから、私がなにかおみやげを持って行っても、いらないものは「これ、いらない」ってはっきり言うのよ。
ーー「いらない」って言われたらレミさんはどうするんですか?
レミさん「はいはい、どうもすいませんでしたねェ」って持ち帰ります(笑)。2人とも全然裏表がない人なのよ。2人が私の家に来たときに部屋が散らかっていると「レミさん、ちゃんと掃除しなきゃだめじゃないですか、気が流れませんよ!」って注意されるわよ(笑)。若い者には巻かれろ、よね。素直に聞きます。
ーーよく息子さん家族たちと集まったりもしますか?
レミさん息子家族それぞれの家にみんなで集まってよく食事しますよ。樹里ちゃんの家でたこ焼きパーティをしたときには、テーブルにたこ焼き器を何台もずらーっと並べて、あーちゃんの子どもたちが自分でたこ焼きをひっくり返して、みんなで楽しく食事しました。
そういえばこの前うれしいことがありました。名古屋で仕事中に、孫から「今日は敬老の日だよ。みんなでごはん食べよう。何時に帰ってくる?」って連絡があったの。私は「そーか、じゃあはやくケーロウ」ってうきうきしながら帰りました。東京に戻って息子夫婦の家に行ったら、なんと3人の孫が自発的に、私のために料理を1人1品作ってくれてたのよ。本当にうれしくて、胸がいっぱいでうるうるしちゃいました。一番上の子が「みんなでタータン(レミさんのこと)のために作ろう」って言ってくれたんだって。
ーー優しいお孫さんたちですね。レミさんにとってお孫さんたちはどんな存在ですか?
レミさん息子2人を育てたところに、お嫁さんが2人来てくれてさ、孫もできて……切っても切れないがっちりした絆で結ばれた存在だと思います。孫たちも私のことをおばあさんと思わなくて、年とった友達だと言ってます。そんな孫たちに「みんなが結婚するのを見届けたいよ」って言うと、孫たちは「タータン、生きてられるかな〜?」なんて冗談を言って笑い合っています。家族って、本当にいいですよね。
平野レミさん/料理愛好家、シャンソン歌手
料理愛好家、シャンソン歌手。主婦として料理を作り続けた経験を生かし、NHK「平野レミの早わざレシピ! 」などテレビや雑誌などを通じて数々のアイデア料理を発信。また、レミパンやエプロンなどのキッチングッズの開発も手がける。2022年、『おいしい子育て』(ポプラ社)で第9 回料理レシピ本大賞エッセイ賞受賞。エッセイに『家族の味』『エプロン手帖』(以上、ポプラ社)、『ド・レミの子守歌』( 中央公論新社)など、レシピ本に『平野レミのオールスターレシピ』( 主婦の友社)、『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)など多数。最新刊、自身の人生哲学が詰まった言葉集『私のまんまで生きてきた。』(ポプラ社)好評発売中!
X(旧Twitter):@Remi_Hirano
(撮影:松野葉子取材・文:早川奈緒子提供写真:『私のまんまで生きてきた。ありのままの自分で気持ちよく生きるための100の言葉』ポプラ社より)
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