4年ぶりの再演『天保十二年のシェイクスピア』熱い思いの溢れる公開稽古&囲み会見レポート

舞台『天保十二年のシェイクスピア』稽古場会見より

4年ぶりの再演『天保十二年のシェイクスピア』熱い思いの溢れる公開稽古&囲み会見レポート

11月23日(土) 7:00

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藤田俊太郎演出、浦井健治らが出演する舞台『天保十二年のシェイクスピア』が12月9日(月) より上演される。日本を代表する劇作家・井上ひさしが、江戸の任侠の世界を舞台に、シェイクスピア全37作と講談『天保水滸伝』をミックスした、遊び心満載でパワフルな作品だ。藤田版は2020年に初演されたものの、当時猛威をふるい始めた新型コロナウイルスの影響で千秋楽目前に公演中止に。今回は一部キャストを新たに、4年ぶり待望の再演となる。11月20日、本作の稽古場公開と囲み取材が行われた。

この日の公開稽古では、大きく3シーン、全4場が披露された。まずは第3場「おとこ殺し腰巻地獄」。浦井健治扮するアンチヒーロー・佐渡の三世次が作品の舞台である清滝村に帰ってくる場面だ。藤田からは「時は江戸後期。価値観や時代が一気にかわっていくような時代のお話です」と解説が。冒頭早々、シーンのきっかけとして発せられた前場面のラスト、中村梅雀扮する鰤の十兵衛のセリフで「こう出りゃ(コーデリア)そう出たか、ありゃりゃりゃりゃ(リア)……」と、シェイクスピアの登場人物を巧みに盛り込んだ言葉遊びが炸裂! それだけですでにワクワクしてしまう。

清滝村では“よだれ牛の紋太一家”と“小見川の花平一家”のふたつのヤクザが一触即発状態。女郎たちが賑やかに歌い、旅人を宿に引き込もうとする中、足を引き摺ったせむし男・佐渡の三世次がやってくる……。

リチャード三世を背負った役どころの三世次は、情念的なブルース(「三世次のブルース」)で、自身の生い立ちと世の中への怨嗟を歌っていく。浦井は「平和も戦も」「きれいはきたない」と対立する二項を挙げる中「平和」「きれい」といったポジティブな言葉で皮肉めいた歪んだ笑顔を浮かべていたのが印象的。

続けて9場「浮気もの、汝の名は女」の場面。縄張り争いをしている紋太一家と花平一家、それぞれの親分が殺されたところに、紋太一家の跡取り・きじるしの王次が数年ぶりに帰ってくる、というシーンだ。「王次の登場は劇場では客席からになります。稽古場ではここ……は無理ですね。ここ……も狭いので、あちらにしましょうか。……すみません、もちろん最初から決まっていたんですよ(笑)」という藤田の寸劇(?)で報道陣を温めたあと、王次を演じる大貫勇輔が颯爽と登場!

この王次役は2020年公演では浦井が演じていて、浦井王次は少し陰鬱な雰囲気も漂わせていたが、大貫王次はフレッシュで爽やか。女たちをキャーキャー言わせるのも納得の華やかなモテ男っぷりだ。軽快な音楽にのせて歌い踊る男性陣、女性陣のダンスも楽しい。しかしそんな王次に三世次の策略の手が伸びる。三世次は、王次の父親である紋太そっくりの百姓に亡霊を演じてもらい、自分は花平一家に殺されたのではない、実の弟と自分の妻・お文に殺されたのだと告白させ、復讐をけしかけるのだ。このあたりはまさに『ハムレット』なのだが、紋太似の百姓役の阿部裕と浦井のコミカルなやりとりなどに、井上ひさしらしい遊びが見てとれる。3階まで使った演出も大迫力だ。

最後に11場「賭場のボサノバ」、12場「時よとまれ、君はややこしい」とふたつの場面を続けて披露。前半は「両家とも火種はあるものの、生活はしなければいけないので、旅籠や女郎宿、賭場という日常の仕事に戻っている。その日常を描いています」と藤田。

3階建てのセットの中、1階では主の九郎治(阿部)、その妻お文(瀬奈じゅん)の姿が。そして2階では賭場が開かれている。“賭場の場”を“ボサノバ”とかけたこのシーンは何と言っても宮川彬良による音楽が印象的!

新川將人の渋い壺振りや「丁か半か」と歌う山野靖博の低音ボイスと見どころ聴きどころもたくさんだが、さらに前景では清滝村に帰ってきたお光(唯月ふうか)と王次が意味ありげな出会いを果たしている。このお光は鰤の十兵衛の三女。十兵衛は財産を姉のお文とお里に与え、お光は放逐されてしまったものの、本当に父親を愛していたのはお光。彼女は父を殺したのは姉のお文と紋太一家ではないかと疑い、復讐のために故郷に帰ってきたのだ……。

姉の賭場でいかさま賭博を見抜き啖呵を切る唯月の威勢のよさ、その圧にも動じない瀬奈のドスのきいたセリフ回し、姉妹の火花散るやりとりが面白い。と、そこでストーリーテラー“隊長”役の木場勝己が“語り手の特権”と時を止めてしまう。お光の出生の秘密を明かし、その双子のおさちを紹介すると、二役を演じる唯月がお光からおさちに早替わり。鉄火なお光とは違う、たおやかな風情で「私の胸」を歌い上げたところで、公開稽古は終了となった。

“闇”を“光”に変えていくような演劇体験を浦井健治ら16名が登壇。思いが溢れた会見舞台『天保十二年のシェイクスピア』稽古場会見より

その後に行われた囲み会見には、音楽の宮川彬良、演出の藤田俊太郎、浦井健治、大貫勇輔、唯月ふうか、土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡、章平、猪野広樹、綾凰華、福田えり、瀬奈じゅん、中村梅雀、梅沢昌代、木場勝己の16名が登壇。藤田が「2020年に私たちのカンパニーは初演を迎えましたが、残念ながら全公演を上演することが叶いませんでした。僕は2020年の上演を共に作り、共に戦った仲間たちの思いをきちんと胸に抱き、2024-25年版をこのカンパニーで作っています。井上ひさしさんが作った、日本人のルーツを問う物語。このカンパニーでしか作れないと自信を持ってお届けできる作品です。夢は大きく“世界中の劇場で上演したい”。お客さまには劇場で大いに泣いて、大いに笑っていただけたら」と野望も織り交ぜつつ意気込みを。

前回はきじるしの王次を演じ、今回は佐渡の三世次に挑む浦井は「お稽古をしながら、やはり2020年の思い出が浮かんできます。志半ばで終わり、最後まで全うできなかった思いも含め、板の上に立つと『もう一度スタートが切れたんだな』と思いました。きっと(2020年に鰤の十兵衛を演じ、2021年に亡くなった)辻萬長さんも見てくれていると思って、笑顔で頑張りたい」と話した。

その鰤の十兵衛役を新たに演じる中村梅雀も「井上ひさしさんの言葉の力と、宮川さんの音楽が気持ちよく、カンパニーのパワーと温かさが本当に素晴らしい。私も今までお見せしたことのないような役をやっています。梅雀がやるとこんなふうになっちゃうんだ!と楽しんでいただけたら。萬長さんにも楽しんでいただけたら、と思っています」と話す。また隊長役の木場は「蜷川幸雄さんが演出をした2005年版からずっと、この役を演じています。役者を始めて55年になりますが、セリフの量の多さに今戦っています……」と控えめなコメントを。

ほか「きじるしの王次の役は、前回は浦井さんが演じられていたので、お話をいただいた時に光栄に思ったと同時に不安もありました。素晴らしいカンパニーの仲間に支えられながら、自分にしかない王次を模索しています。必死に稽古して、いい王次を見つけられるように頑張りたい」(大貫)、「前回の公演は(中止になった後に)最終日に、無観客でDVDのための撮影をしました。何かその時に抱いた崇高さと、置いてきてしまった気持ちを、今回この舞台でお届けできるということが嬉しい」(阿部)、「今の時代に生きるすべての人に元気と、明日も頑張ろうと思う気持ちをお届けできるように精一杯努めていきたい」(綾)、「最近にはなかなかない、年齢層の高いカンパニー(笑)。新人気分で挑んでいます。2020年公演の皆様の思いも大切にしながらお届けできたら」(瀬奈)等々、口々に熱い思いを話した。

また浦井の三世次の魅力を問われた藤田は「今の浦井健治さんのすべてが魅力的」と言い、「浦井さんの三世次は共感性が高く、(悪役ではあるが)自分の中にも三世次という人物がいるかもしれないと思わせてくださいました。同時に、三世次は絶対に生き続けてはいけない人物だなとも。このふたつは相反するようで、実は背中合わせのイコールだと思う。佐渡の三世次はこの世界にイエスとノーを同時に突き付けているのではないかなと感じます。そんな気づきを浦井さんの三世次は与えてくれています。人の暗部を光で抉るような、痛烈な人物が誕生しつつある。一言で言うと“好き”です」とユーモアを交えつつ表現。

演出家の絶賛を受けた浦井は最後に「木場さんが、三世次が亡くなるシーンでも井上ひさしさんはギャグをお書きになった、そこをちゃんと伝えないと泣いちゃうよとおっしゃってくれた。筆に一生を捧げた井上ひさしさんの思いを受け取らせていただいています。演劇は地続きであり、時代を映す鏡であり、時代を再生する装置。人から人に繋がり、お客さまにも伝わっていくものだなと感じていますし、亡くなった方もずっとそこにいて、忘れないでいることができる。忘れないってこんなに素敵なことなんだなと学ばせてもらっています。人間の闇を描いた作品ですが、お客さまが今の時代に闇を見たとしても、きっとそれを光に変えていくような、そんな演劇体験になればと思っています。一生懸命頑張ります」と真摯に語り、会見は終了した。

公演は12月9日(月) から29日(日) まで東京・日生劇場にて。その後大阪、福岡、富山、愛知でも上演される。

取材・文・撮影:平野祥恵

<公演情報>
『天保十二年のシェイクスピア』

作:井上ひさし
音楽:宮川彬良
演出:藤田俊太郎

出演:
浦井健治大貫勇輔唯月ふうか土井ケイト阿部裕玉置孝匡/瀬奈じゅん中村梅雀/章平猪野広樹綾凰華福田えり/梅沢昌代木場勝己ほか

【東京公演】
2024年12月9日(月)~12月29日(日)
会場:日生劇場

【大阪公演】
2025年1月5日(日) ~1月7日(火)
会場:梅田芸術劇場メインホール

【福岡公演】
2025年1月11日(土)~1月13日(月・祝)
会場:博多座

【富山公演】
2025年1月18日(土)・19日(日)
会場:オーバード・ホール

【愛知公演】
2025年1月25日(土)・26日(日)
会場:愛知県芸術劇場

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tempo/

公式サイト:
https://www.tohostage.com/tempo/index.html

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