11月22日(金) 14:16
公式ルールには存在しない、打ち直しルール「マリガン」。この記事では、マリガンが実際のラウンドのどんな場面で使われていて、そしてどのような配慮が必要なのか、を詳しく紹介します。さらに、マリガンの由来や世界各地での利用状況、日本と海外の違い、そしてマリガンを活用する際に気をつけたいマナーについても触れます。
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「マリガン(Mulligan)」は、ゴルフ用語で「ミスショットをなかったことにして、もう一度打ち直すこと」を指します。打ち直す際のペナルティがないため、まるでミスがなかったかのようにプレーが続けられます。USGA(全米ゴルフ協会)によると、この言葉自体は、1940年代から広く使われるようになったとされています。
ただし、マリガンは公式なルールではなく、ローカルルールにも含まれていません。これは、アマチュアのプライベートゴルフでみられる慣例的なものに過ぎず、もちろんプロのトーナメントや公式戦では使用されません。
ゴルフが発祥のマリガンですが、ボウリングやビリヤード、そしてカードゲームの「マジック・ザ・ギャザリング」や「ポケモンカード」など、他のスポーツやゲームにも「やり直し」や「再挑戦」を意味する形で採用されています。
アメリカでは日常会話でも使われることがあり、毎年10月17日は「ナショナル・マリガン・デー」として記念日にもなっています。
マリガンは英語圏で一般的な「姓(名字)」です。そのマリガンが、いつどのようにして「打ち直し」を指すようになったのか、明確な経緯はわかっていませんが、ここでは特に有名な2つの説を紹介します。
最も有名な説は「デビッド・B(バーナード)・マリガンにちなんで名付けられた」というものです。
デビッド・B・マリガンは、1920年代にカナダのモントリオールにあるセント・ランバートCCでプレーしていたカナダ人で、ニューヨークのビルトモア・ホテルやカナダにある複数のホテルの共同所有者兼支配人としても知られていました。
USGAの公式FAQには、彼にまつわる3つのエピソードが記されています。
ある日、いつもの4人組でラウンドを始めたデビッド・B・マリガン。最初のティショットでは飛距離は出たものの、ボールは真っすぐに飛びませんでした。彼は自分に腹を立て、衝動的にもう1球置いて打ち直します。
仲間の一人が「何をしてるんだ?」と尋ねると、マリガンは「『修正ショット』を打ってる」と答えました。続けて「それをなんて呼ぶんだ?」と聞かれ、とっさに「『マリガン』だよ」と答えてしまいます。
その後、仲間たちは笑って許し、彼らの間では「最初のショットが気に入らなければもう一度打つ」という暗黙のルールが生まれました。この行為が「マリガンする」と呼ばれるようになったのです。
※(1)は1985年6月の「USGAゴルフジャーナル」に「Around the Sport Circuit」という新聞から転載されたマリガン本人のインタビュー記事を元にしています。
ある朝、仲間を車で拾ってコースに向かったデビッド・B・マリガン。その日は悪天候で風が強く、道は悪路で、橋を渡る際には揺れる車に苦労しました。
このドライブのせいで体が震えたままプレーを始めたため、仲間たちは彼に最初のティショットでやり直しを許しました。
成功したビジネスマンだったデビッド・B・マリガンは、忙しさのためにゴルフの前日にしっかりと睡眠を取れないことがありました。時には寝過ごしてしまい、急いでコースに到着することも。
そんな疲れが影響し、最初のティショットでミスをすることがありましたが、仲間たちは彼に打ち直しを許しました。
もう一つの説は、「ジョン・A(ミドルネームは不明)・マリガンにちなんで名付けられた」というものです。USGAのFAQでは比較的新しい説とされ、信ぴょう性が低い可能性も指摘されています。
ジョン・A・マリガンは、1930年代にニュージャージー州エセックス・フェルズCCでロッカールーム係員をしていた人物です。
彼は休みの日や仕事のあとに、アシスタント・プロやクラブメンバーたちとラウンドすることが多く、ある日、仲間たちが朝から練習していたのに対し、彼だけ仕事上がりでウォーミングアップができていませんでした。そのためか、ひどいショットを打った彼は、仲間に「もう一度やり直したい」と頼みました。
このラウンドには地元新聞のゴルフ編集者デス・サリバンも参加しており、彼がこのエピソードを記事にしたことで「マリガン」という言葉が広まったとされています。
マリガンは仲間同士で気軽に使われることが多いものの、いくつかの条件とルールがあります。
まず、マリガンを使う場合は、同伴者全員の同意が前提です。ラウンド前にマリガンを取り入れるかどうか確認しましょう。競技志向のプレーヤーがいる場合、マリガンの使用は「不正」や「面白くない」と感じさせることもあるため、全員が楽しめる場面でのみ採用するとよいでしょう。
一般的にマリガンは、朝一番のティショットのみという条件で使われます。朝一のティショットのみに適用する理由は、ウォーミングアップ不足によるミスを免除するためです。マリガンの言葉の由来と合致するルールになっています。
ただし、あくまでも同伴者の同意次第となりますが、「1ラウンドにつき1回までであれば全てのティショットに適用する」などの応用方法もあるようです。
日本ではあまりみられませんが、アメリカなどのチャリティゴルフでは「マリガン(権)」が販売されることがあります。料金や回数はそのチャリティイベント次第で、収益金はもちろんチャリティ活動の一環として使われます。
海外でのマリガン使用ルールは、基本的には日本とほぼ同じですが、その受け止め方には違いがあるかもしれません。
日本ではルールやマナーが硬直的に運用される傾向にあるため、ゴルフのマリガンもまた慎重に扱われる傾向があります。ラウンド仲間全員が楽しめるように配慮することで許される場合もありますが、カジュアルに使える雰囲気とはいえません。
一方、アメリカなどではマリガンが、よりリラックスした形で使われることが一般的です。特にレクリエーションゴルファーの間では定番のルールとして受け入れられ、気軽に導入されることが多いようです。
同様の感覚はイギリスや韓国でもみられ、日本と比較すると、マリガンに対する許容度が高い傾向にあるようです。
マリガンには全員の同意や回数制限に加え、使用する際にいくつかの注意が必要です。
前述の通り、マリガンは公式ルールやローカルルールに含まれていないため、基本的に公式競技では使えません。「公式ルール上は違反である」という意識を持つことが大切です。
さらに、アメリカには「マリガン禁止」の看板が掲げられたコースも存在します。ゴルフ場が禁止している場合もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
また、禁止を明示していない場合でも、特定の規定があるゴルフ場もあります。たとえば、「ティショットがOBの場合、特設ティに移動しなければならない」といったルールがある場合には、マリガンを控えた方が無難です。
マリガンは、見失ったボールを探さずに打ち直すため、時間短縮につながる利点があります。しかし、1ホールごとにマリガンを使ったり、頻繁に使うとプレーのペースが乱れ、全体の進行に支障が出る場合もあります。
また、マリガンは公平性を欠く一面があり、頻繁に使用することで他のプレーヤーが不満を抱くこともあります。そのため、カジュアルなラウンドであっても、特定のティショットに限定して使うなど、使用する際には配慮が必要です。
後ろの組がスムーズにプレーを進めている場合は、マリガンを控える方がよいでしょう。マリガンはスロープレーにつながりやすく、ゴルフのルールに沿わないため、後続組に誤解を招く可能性もあります。後ろの組が視界に入る場合には、状況をみながら控えるのがマナーでしょう。
マリガンの利用は、仲間と気楽に楽しむラウンドや久々のコースでの緊張をほぐし、ゴルフへのハードルを下げる助けになります。ただし、過度な利用はスロープレーや周囲の迷惑につながる恐れもあるため、適度に取り入れることがポイントです。
他のプレーヤーと事前に話し合って活用し、自信を取り戻したり、新たな楽しみを見つけたりするきっかけにしてみましょう。