いままで見たことのない八木勇征が待っている――。初の単独主演映画『矢野くんの普通の日々』(公開中)で八木が演じるのは、超不運体質な男子高生・矢野くん。行く先々で不運に見舞われる矢野くんの姿は、可哀相だけど愛らしい。代表作「美しい彼」のイメージを一新するキュートな魅力に、きっと観客は心掴まれるはずだ。期待の若手から堂々の主演俳優へ。ネクストフェーズへと駆け上がる八木は、トップランナーに求められる“結果を出す”ことに対して、どう考えているのだろうか。
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■「人のためになにかをすると、みんなが幸せになれる」
ついつい周りがほっておけなくなる矢野くん。そんな愛すべき主人公を演じるうえで「ピュアさは一貫して意識していました」と八木は振り返る。声のトーンを変えたり、座り方をコンパクトにしたり、随所に工夫を施したが、なにより大切にしたのは、表情の変化だ。「物語が始まったばかりの矢野はクラスのみんなと距離をとっていた。でも、クラスメイトの吉田さん(池端杏慈)と関わって、少しずつ周りに友達が増えていくにつれて、話し方や雰囲気もどんどん変わっていく。特に夏祭りのシーンはわかりやすいですよね。始めのころとは全然違う矢野がそこにいる。そのグラデーションを意識しながら芝居のトーンを切り替えていったので、そこを感じてもらえたらうれしいです」。
道を歩けば、川に落ちる。ボールが飛んでくれば、必ずぶつかる。矢野くんが出くわす不運の数々を、胸キュン映画の名手・新城毅彦がコミカルかつポップに描き出す。八木自身が最近遭遇した不運な出来事を尋ねると「リアルな話をすると、ちょっと前にバッグを落としました」と衝撃の告白。しかし、「実はそれが本日無事に見つかりまして。大事なものがいっぱい入っていたんですけど、中身も無事でした(笑)」と、むしろ矢野くんも羨む幸運体質のよう。
運気を上げる心がけは「人のためになにかをすること」とキッパリ。「人のためにしたことで、自分が損をすることはないじゃないですか。僕は人のためにしたことは必ず自分に返ってくると信じています」と語る表情は晴れやかだ。だが、決して昔から篤実なタイプだったわけではなく、どちらかといえば「ワガママなところもいっぱいあった」と明かす。考え方が変わるきっかけとなったのは、自らが所属するダンス&ボーカルグループ、FANTASTICSとの出会い。「(リーダーの佐藤)大樹くんとか、損得関係なしにみんなの面倒を見てくれる。そういう人を見ていたら、人のためになにかをすることでみんなが幸せになれるんだなと気づきました。そこから、自分もそういう生き方をしようと思うようになりました」。
普通の日々に憧れる矢野くん。逆に、八木勇征の“普通じゃない”ところといえば「体力」と胸を張る。俳優業とアーティスト業の両立は、目の回るような忙しさ。ハードスケジュールに追われていることは想像に難くない。だが、当の本人は「先日開催したLDH LIVE-EXPOで(三代目 J SOUL BROTHERSの)ØMIさんや今市(隆二)さん、岩さん(岩田剛典)が『大丈夫?寝てないでしょ?』と心配してくださいました。三代目のみなさんもきっといちばん忙しい時は、本当に半端ないスケジュールだったと思うんです。それを経験しているからこそ、いまの僕の状況がわかるんだと思うんですけど、そんなすごい方たちから心配してもらって『あ、俺って仕事してるんだな』と実感しました(笑)」とケロリとした様子。怪物級の体力の源は「とにかく空き時間を睡眠に全振りすること」。睡眠は「時間がある日は6時間は寝るようにしている」と充実した眠りでエネルギーを養っている。
■「数字を出すだけじゃなく、中身も伴った人間になりたい」
映画出演本数も順調に増え、単独主演の映画は本作が初。テレビドラマでの演技とは「別物だと思っている」と言う。「テレビドラマには放送時間という尺がある。そこにおさめるために、ここはもうちょっと間を空けたいなと思うところでも、早いテンポを求められることがあって。より“素材”であることが求められるのがテレビドラマの演技」と冷静に分析する。一方、映画は「お芝居ファースト。間もたっぷり使えるおもしろさがあるなと思いました」と手応えを掴んだ。「もちろんこれはどっちが良くてどっちが悪いということではなくて、テレビドラマにはテレビドラマの、映画には映画の難しさとおもしろさがある。そのどちらも極めていきたい」と意欲を見せる。
初の単独主演という本作について「座長としての責任感を持ちながら、参加してくださるキャスト、スタッフのみなさんから楽しかったと言ってもらえる現場にしたい」と熱い意気込みで臨んだ。が、実際に座長を務め上げて感じたのは「みんながいるから、僕は座長にしてもらえる。座長がみんなに支えられているんだということを初めて感じました」という感謝の想いだ。「自分が助演としてドラマに出させていただいた時、クランクアップの挨拶で主演の方が『みなさんのおかげです。ありがとうございました』とおっしゃっていた意味がようやくわかったというか。僕もクランクアップの時に『みなさんのおかげで座長としてこの作品を終えることができました。本当にありがとうございます』って自然と同じことを言っていたんです。今回、この作品で座長をできたことが、僕の一つの財産になりました」。
エンタテインメントの中心地にいる身として、トレンドの変化にも敏感だ。最近観たコンテンツの中では「『地面師たち』がおもしろかった!あとは『極悪女王』も」と隆盛を極める配信作品から大きな刺激を得ている。「配信でこれだけおもしろい作品が出てくると、地上波のドラマはよりアイデア勝負になってくると感じます。そんな話を(三浦)翔平さんとよくしていて。昔から翔平さんとはずっとそういう話をしていたんです。でも当時は実感があんまりなかったのですが、いまは翔平さんの言ってることもわかるようになってきました。そこに自分の成長を感じるし、演者としても頑張っていかないといけないなって気が引き締まります」。
本作に続き、来年には映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』(2025年2月21日公開)でも主演を務める。作品の顔となり、興行の責任を背負う場面も増えた。“八木勇征”というブランドに多方面から期待が寄せられていることへ「プレッシャーを感じないと言ったら嘘になる」と胸中をあらわにする。だが、その表情に不安の色はない。なぜなら、八木は知っているからだ。ものづくりには、数字以上に大切なものがあることを。
「この作品でも撮影現場に原作者の田村(結衣)先生が見学に来てくださって、僕たちのお芝居を見てすごく喜んでくださったんですよ。僕はそれがすごくうれしかったです。田村先生にとっては、どのキャラクターも自分の子どものようなもの。その愛情をちゃんと理解したうえで、真摯に役と向き合い、役を生きることができれば、結果につながるような作品になると思いました。もちろん数字を出すにはそれだけじゃ足りないこともわかっています。でも、僕たち自身がそこを忘れなければ、きっといい方向に進んでいくんじゃないかと思います」。
1st写真集は、オリコン年間ランキング男性ソロ写真集部門で1位を獲得。ViVi国宝級イケメンランキングでは2度の首位に輝き、殿堂入りを達成した。輝かしい実績を残しながらも、本人は「数字がすべてではない」とあくまで自然体。だが、決して無欲というわけでもない。「もちろんなにかで1位になることも大事だと思いますし、上をねらっていきたいですが、ただ数字を出すだけじゃなく、中身も伴った人間になる。数字と実力の両方で一番になることが理想です」。頂は、遥か先に。その座に足る人間となるために、八木勇征は絶えず己を磨き続ける。
取材・文/横川良明
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