キックボクシングジムにシニアが殺到中!81歳女性は杖なしで歩けるように

キックボクシングジムにシニアが殺到中!81歳女性は杖なしで歩けるように

11月22日(金) 6:00

「ジャブ、ストレート、ワン、ツー!」

声かけとともに、パン、パンと、ミットを打つ軽快な音が響き渡る。

東京のとあるジムでは、シニアの女性が華麗なミット打ちをしていた。平林さんというこの女性は何と御年81歳というから驚く。

ミット打ちの相手をしていたのは、柔道整復師の資格を持つ生井宏樹さん。接骨院「豪徳寺接骨院Palledo~パレード~」代表を務める生井さんはキックボクシングライト級1位に輝いたこともある元格闘家である。「パレード」にはジムも併設しており、60代以上の利用者は30人超を数え、最高齢は94歳の女性。現在、シニアの入会が殺到しているという。

「接骨院を開業したときに施術メニューのひとつとして、キックボクシングのパーソナルメニューを作りました。当初シニア層の利用は想定していませんでしたが、平林さんが“私もやってみたい”とリクエストしてくれたことをきっかけに、シニア世代のトレーニングを開始しました」(生井さん)

トレーニングを終えたばかりの平林さんは、全く疲れた様子も見せず、次のように話してくれた。

「高齢者ができる運動といえば、ただ単調に足を動かすだけのウオーキング程度だと思っていました。でも、キックボクシングを実際にやってみると、全身を思う存分動かせて、気分爽快!楽しく体を動かせる点が魅力です。

また、悩んでいた肩こりがすっきりしたことにも驚きましたね」

シニアならではの不調や、老いへの対策にもなるという。

「ただパンチをするのではなく、相手の動きを考えて動く必要があるので頭を使いますね。脳トレにもなっていると思います。ハキハキと話せているでしょう(笑)。

あと、転びにくくなりました。以前は何もないところでもつまずいていましたが、キックボクシングを始めてから、そういうことはなくなりました」(平林さん)

80代とは思えないほど軽快なパンチやキックをくりだしていた平林さんだが、最初に接骨院に来院したときは股関節を痛め、杖をついていたというのだから驚きだ。

「平林さんは接骨院に通い、施術とリハビリで杖なしでも歩けるまでに回復。その後キックボクシングを開始しました。鍛えるうちに足腰の筋力がつき、杖はまったく不要に。その後、股関節の手術をしましたが、退院後もリハビリをしたあと、トレーニングを再開しました」(生井さん)

今は週に1回のペースでトレーニングをしているという。

「自分の足で不自由なく出かけられるので、お店で欲しい洋服を選びに行けることがうれしくて。毎日が楽しいですね」(平林さん)

キックボクシングをシニア世代に勧めるいちばんの理由は、転倒予防になる点だと生井さんはいう。

「筋力が向上して転倒防止になるだけでなく、瞬発力の向上により、万が一転んでも、とっさに手をつき大けがを防ぐことができます」

と、生井さんは続けて、この瞬発力が、昨今急増している高齢者を狙った強盗事件への心構えにもつながるという。

「万が一、強盗と遭遇したときに素早く逃げる瞬発力や行動力なども、養うことができると思います」

■手足を連動させて脳が活性化、認知機能の向上も

シニアがキックボクシングをするメリットは多々あると、理学療法士の小川内竜一さんは語る。

「高齢になると健康診断の検査項目に片足立ちがあり、体幹の筋肉が使えているかを確認します。そのとき筋力が低下していると、ふらつくことがあります。 歩行時も瞬間的に片足が地面と離れて片足立ちになりますが、ふらついて転倒の危険があります。

キックボクシングではキックするときに片足立ちになるため、バランス感覚が鍛えられて、ふらつきがなくなり、歩行が安定します。また、太もも周りの筋肉も使うので、筋力低下防止にも効果的です。

また、日常生活にはない動きをするので、ふだん動かさない筋肉を使うことができます。さまざまな筋肉を動かした刺激が隣り合う筋肉に連動して、全身が鍛えられます。手足を連動させて動かすことで脳が活性化。認知機能の向上も期待できます」

週1回のトレーニングを半年も続けると、多くのシニアが驚きの変化を遂げる様子を多く見てきた生井さん。

「コロナ禍の自粛期間中に筋力が低下してしまい歩けなくなった89歳の男性がいました。寝たままで脚を動かす筋トレを接骨院で行い、自力で立てるようになってからキックボクシングを開始し、平林さん同様に杖なしで歩けるようになりました。キックボクシングは杖をついていたとしても、自力で立てる状態であれば、様子を見ながら始めることができます。

1回のトレーニングで30分間連続して動けないというシニアもいるため、自費治療でのマッサージとキックボクシングを15分ずつにするなど臨機応変に無理なく進めて、シニアでも安心して鍛えられるようにしています」

シニアもハマる爽快感はどんなものか、キックボクシング未経験の記者が体験してみた。

生井さんが、パンチの基本姿勢から丁寧に教えてくれて安心感がある。「次はどこにパンチすればいいか」と考えて手足を動かすので、脳はフル回転する。体を数分動かしただけでも、ほかの運動では感じたことのない心地よさを感じると同時に、前向きな気持ちに。子どもに勧められ入会するシニアが多いと聞いて納得できた。

シニアに人気が出ている理由として、生井さんはこうも語る。

「“殴る蹴る”は本能に訴えかけるものなので、同世代がやっている姿を見て、自分の中の封印されていた何かが解放されて、本能が活性化するのかもしれません」

人生100年時代。輝き続けたいシニアにとって、キックボクシングは最高のエクササイズだ。

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