減少する語り手… 修学旅行で「平和」どう学ぶ?現地の学生もガイド役に

減少する語り手… 修学旅行で「平和」どう学ぶ?現地の学生もガイド役に

減少する語り手… 修学旅行で「平和」どう学ぶ?現地の学生もガイド役に

11月22日(金) 0:00



※写真はイメージです

修学旅行のテーマとして常に上位に挙げられる「平和学習」。昨今の世界情勢もあり重要性は高まりますが、その反面、戦争体験を持つ国内の語り手は減少の一途。いかにリアリティーを持って「戦争と平和」を学ぶか、その在り方が問われています。

そんななか、現場ではさまざまな試行錯誤が行われています。現状と実際の取り組みについて、日本修学旅行協会理事長の竹内秀一氏に聞きました。

広島・長崎・沖縄だけではない。修学旅行での平和学習

ーー修学旅行のテーマとして、平和学習は現在も盛んなのでしょうか。

年々高まっているように思います。日本修学旅行協会が実施した調査(※1)では、修学旅行で重点を置いた活動内容として「平和学習」は中学・高校でともに2位となっています。

この背景には、教員の方々が持つ、課題意識があります。

戦争や平和について、学校では、国語や歴史の授業の中で知識を教える程度にとどまります。そのため、修学旅行でじっくりと学んでもらいたいとの思いが強くあるようです。ロシアによるウクライナ侵攻やガザ紛争が続いていることも、学びの重要性を高めているでしょう。

また、現行の学習指導要領の柱の一つである「探究的な学習」を修学旅行で実践しようとする学校が増加していることも、平和学習へのニーズを高めています。

「探究的な学習」とは、生徒自らが課題を設定し、体験や調査を通じて情報を収集・分析し、解決策をまとめていくことで、課題発見力や問題解決力を高めていくもの。そのテーマとして、平和学習を取り入れるケースが増えています。

ーー修学旅行で行われている平和学習は、これまでとはどのような点が違うのでしょうか。

大きな特徴としてはまず、「見学型から探究型への変化」が挙げられます。

これまでの平和学習プログラムは、資料館を見学する、平和記念公園に行く、戦争体験者の話を聞くといった見学がメインの受け身的な歴史学習の側面が強かったといえるでしょう。

最近では、より主体的にかかわり、考えを深めるプログラムが増えてきています。
平和学習で訪れる場所の知識は「事前学習」で学び、課題や学びのテーマを設定したうえで、修学旅行の時に現地で体験。そして「事後学習」では、現地で感じたことや、気付きをまとめるといったものです。平和を自分ごと化して学ぶ、探究的なプログラムといえます。

2点目は、平和学習の定番である広島県・長崎県・沖縄県以外のエリアでのプログラムの増加です。戦争遺跡は全国各地に遺され、戦争の生々しい爪痕を残しています。それらの地域では、観光協会が中心となって多様なプログラムを作成しています。

たとえば、兵庫県川西市にある海軍の鶉野飛行場、日本で最も多くの特攻隊が出撃した鹿児島県鹿屋市の海軍航空基地など、枚挙にいとまがありません。プログラムの増加に伴い、これまで修学旅行の定番ではなかった地域が目的地となることにもつながっています。

進む当事者ガイドの高齢化。課題への取り組みは

ーー探究型の平和学習とは、実際にどのようなプログラムなのでしょうか。

一例として、長崎市で行われた事例を紹介します。

このプログラムでは、まずオンライン形式での事前学習で長崎の歴史などについて学びます。

修学旅行当日は、原爆資料館を見学したあと、平和ガイドとともに原爆遺構を巡ります。その後、長崎での平和推進の取り組みやその課題についてレクチャーを受け、平和ガイドやホテルのスタッフがファシリテーターとなり「平和を実現するために、自分たちに何ができるか」をテーマにグループディスカッションを実施。そして、グループごとにその内容をまとめて発表し、それぞれの意見を共有します。

さらに事後学習では、学んだ内容をさらに深め、文化祭で発表するといった活動も行われています。



※写真はイメージです

ーー現地の平和ガイドとは、どのようなかたなのでしょうか。

普段から被爆遺構巡りを案内している平和ガイドの中には、戦争を体験されていない市民もおられます。これは戦争体験を語る当事者ガイドの高齢化が進み、少なくなっているという課題に対応するものです。

平和ガイドは、被爆の歴史やファシリテーションについての研修を受けています。見学やグループディスカッションをとおして、自分とは立場の異なる人の感じ方や考え方に直接触れ、交流できることは大きな刺激となるはずです。友人と交流するだけではともすると同質化しがちな見方を広げたり、深めたりすることもできるでしょう。

他のエリアでは、現地の学校の中高生や、少し上の世代がガイドを務めるケースもあります。たとえば、舞鶴引揚記念館(京都府)では中高生が、普天間(沖縄県)では沖縄国際大学の学生がガイドをしています。年齢が近いガイドとの交流も、生徒には大きな刺激となるでしょう。

ーーこのようなプログラムは、生徒たちの今後の学びに、どのような影響を与えていくと思われますか。

単発の学びではなく、継続的な学びのテーマになっているようです。

ある学校は、平和学習プログラムへの参加をきっかけに地元の平和学習に取り組むようになったといいます。探究的な学習は、課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現というプロセスを経ることで、また新たな課題を発見していくというように、螺旋(らせん)状に学習がつながっていくものです。学びの点でも、そして平和について考えるうえでも、修学旅行での体験にとどまらず、長く向き合っていく仕掛けが大切だと思います。

(出典)
※1公益財団法人日本修学旅行協会「教育旅行年報データブック2024」(抜粋)より

プロフィール

竹内秀一(たけうちしゅういち)

公益財団法人 日本修学旅行協会理事長。神奈川県立、東京都立の高等学校の日本史教諭、都立高等学校副校長を経て校長。都立高等学校の修学旅行実行委員会に所属後、現職。

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