林陵平のフットボールゼミ
サッカー日本代表はW杯アジア最終予選のアウェー中国戦で3-1と勝利。中国の対策に苦労しながら、セットプレーの成功などで強さを見せた。試合の流れ、戦術を詳細に追いながら、日本の今後の課題などを、人気解説者の林陵平氏に徹底解説してもらった。
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【中国の守備に対する解決策を早く見つけたかった前半】
中国のフォーメーションは、最近最終予選で2連勝した際の4-4-2。中盤の4人がフラットではなく、ダイヤモンド型に組みます。これを使ってくるのは世界を見渡してもなかなかないので、珍しく、癖のあるフォーメーションでした。
日本は前戦から先発5人を変えました。中盤守田英正の位置に田中碧、シャドーのひとりが久保建英になり、相手の4-4-2に対しどんな立ち位置をとっていくかが興味深いところでした。
ゲームが始まると、日本がボールを保持する展開にはなっていました。中国は3人のボランチの両サイドが開いて守るというよりも、中を絞って久保と南野拓実へのパスコースをけん制するような立ち位置でした。中央の密度がかなり高かったです。
日本は、いつもはビルドアップ時に遠藤航と田中の2ボランチを使いながら前進できるんですけど、ここで中国のトップ下の19番の選手が必ずふたりの中間のポジションに立って、そこにパスを出させないようにしていたので、日本はビルドアップの出口をなかなか見つけにくい状態でした。また、最終ラインでのボールの動かし方のテンポが遅いと、ウイングバック(WB)に入った時には中国に全体の陣形をそちらにスライドされてしまって、サイドからもなかなか前進ができない状況でした。
遠藤、田中の2ボランチが前向きな状態で、シャドーの久保や南野にパスを入れることがなかったのは問題ではありました。これはキャラクターの面もあります。2シャドーのうち、久保はどちらかというと下に降りてきてのプレーもするんですけど、南野は相手の2ライン間(DFとMF)の立ち位置を取り続けるプレーヤー。そうしたことからボランチとシャドーが入れ替わるポジションチェンジもなかったので、4人が正方形で立ち位置を取り続ける静的な形が続きました。これで中国が少し守りやすくなった印象はあります。
あとは日本の3バックの両サイド、町田浩樹と瀬古歩夢が、相手の2トップの位置を越えてボールを運ぶこともしたかったですね。そうすることで、相手のサイドのボランチを釣り出したかった。右サイドであれば、ボールを運んでサイドのボランチが出てきたところで右WBの伊東純也かシャドーの久保を選んでパスできて、ボールを受けたふたりもいい状態でボールを持てる。これが後ろにいた状態のままパスを出すと、サイドのボランチがパスを出した先に対応できるようになってしまいます。
このサイドボランチを引き出すことによって、他の味方をフリーにする解決策を、日本はもう少し早く見つけたかったなという印象です。
そうしたなかでもセットプレーからのゴールですよね。インドネシア戦でもそうでしたが、流れが悪いなかでも大事な場面でゴールを決められるのは強さであると思いますし、日本はどんな状況でもゴールを奪えるチームになってきたなと感じる前半でした。
【後半の失点は日本のシステムが関係している】
後半の立ち上がりに日本は失点しましたが、このシーンは今の日本代表の3-2-5の構造がすごく関係しています。日本が前からプレッシャーをかけに行って、前半からボールを回収し続けていた遠藤が、このシーンだけは剥がされてしまった。そして相手の2トップが前線に残っていて、それに対して日本は3バックでの対応になりました。
この時、3バックの両脇にスペースが空いてしまうのがウィークポイントになります。それを中国にうまくカウンターで使われてしましました。抜け出した20番が右のスペースへ動いた2トップのひとり10番へ展開。そのままゴール前に入っていきます。左WBの中村敬斗も必死に戻ってきたんですけど、それよりも早くスペースを使われてしまいました。
中国10番はゴール前にパスを入れて、逆サイドへ走り込んだ2トップのもうひとりの11番がゴールを決めました。この時右WBの伊東も下がりきれなかった。やはりWBは前に出ていると戻る距離が長くなるわけで、戻りきる前にスペースを使われてしまった形です。
これは3-2-5のデメリットが完全に出てしまった。両WBも攻撃的な選手なので、後ろにいるよりも前に出て攻撃でよさを出そうという意識がある。それがこの失点につながってしまったかなと思います。
一方で日本の3点目は、中国の4-4-2のデメリットを日本が突いたシーンです。中国がボールサイドに陣形を圧縮させてきたところ、左の中村が一発のサイドチェンジで右の伊東へ。伊東は完全にフリーでボールを受けました。
久保とのパス交換のあと、伊東は切り返しで相手をかわしてからゴール前にクロス。スピードも高さも完璧でしたね。これをファーサイドにうまく入った小川航基が余裕を持って逆サイドにヘディングで流し込みました。すばらしい3点目だったと思います。
サッカー日本代表の中国戦。林陵平氏がMVP級の活躍だったと名前を挙げた遠藤航photo by Getty Images
【今後の日本の課題は?】
このあと日本はメンバー交代で鎌田大地が入りましたが、違いを作り出しました。前半に中盤の4人の正方形になかなか動きがないところ、鎌田が状況に応じて中盤を下りてきてボールを引き出したり、田中とのポジションチェンジをしたりしました。WBとの横のポジションチェンジもありましたね。
そうすることで、相手は日本を捕まえづらくなりましたし、日本のボールの循環がスムーズになりました。鎌田が入ることで周りの選手たちがプレーしやすくなっている。潤滑油です。
また、古橋亨梧が久々に日本代表で試合に出ましたが、よかったと思います。ゴール前でシュートを決めるとか、チャンスを作るというのはなかなか難しかったですが、彼の特徴はすごく出ていました。
やはり一瞬の動きですよね。鎌田が前を向いた時の相手DFラインの背後への飛び出し。惜しいシーンもありました。この一瞬の動き出しは、相手は捕まえづらいです。常にゴールを意識して動き出しを行なっているので、個人的にベンチには入れておきたい。苦しいな、点が取れないなという時に彼が入ると、必ずゴールに向かって常に得点を狙ってくれますから。「いいな、古橋」「もっと見たいな」と感じさせるプレーをしたと思います。
この試合でMVPを挙げるとすると、2ゴールを決めた小川はもちろんMVP級の活躍をしましたが、個人的に遠藤です。本当にすごかったです。前半からボールを回収するスピードや、相手の攻撃をつぶす能力を発揮しました。
所属のリバプールで試合にあまり出られていないので、試合勘が心配と言われますが、それを微塵も感じさせなかったですし、中盤に遠藤がいるだけでチーム全体が引き締まり、彼がいるといないとでは全然違うチームになるんだと感じさせるゲームになりました。
このあとの日本代表は、やはり最適解をどういう風に見つけるかだと思います。今の3バックのシステムはアジア最終予選用というか、自分たちがある程度ボールを保持して相手を押し込める状況で使えている。これが相手が強くなって両WBが後ろに閉じ込められるような状況になった時は、4バックとの併用もすごく大事になってきます。
挙げたらキリがないくらい、いい選手がたくさんいるので、この選手たちをどのように使っていくのかはこれからの課題ですね。うれしい悩みだと思うんですけど、その最適解を見つけるのは本当に難しいですよ。
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