「106万円の壁」撤廃でパート主婦の手取りはどう変わる?徹底試算!

(写真:mono/PIXTA)

「106万円の壁」撤廃でパート主婦の手取りはどう変わる?徹底試算!

11月21日(木) 6:00

「国民民主党が公約とした、所得税や住民税の支払い義務が生じる税金の壁『103万円』を『178万円』に引き上げることで、手取りが増える期待が膨らんでいます。

ところが、そんな期待に水をさすように、11月8日、厚生労働省はパート主婦などが健康保険や厚生年金に加入する『106万円の壁』を撤廃する方針であることが報じられました。

これが実施されれば、新たに社会保険に加入して、手取りが減ってしまう対象者が200万人ほど増えることになります」

こう指摘するのは、近著に『共働きなのに、お金が全然、貯まりません!』(三笠書房)がある、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんだ。

■「週20時間以上」の壁が新たな障害となる

「106万円の壁」とは、年収106万円(月収8万8000円)以上、労働時間が週20時間以上、勤め先企業の従業員が51人以上などの要件を満たすと、社会保険に加入する義務が生じるというものだ。

「しかし、新たな方向性として打ち出されているのが、年収要件、企業要件をはずし、単に労働時間が『週20時間以上』であれば、社会保険に加入しなければならなくなる制度です」(柏木さん)

つまり、年収の壁ではなく「週20時間の壁」が設けられるという印象だ。

直近まで「106万円の壁」の企業要件は101人以上だったが、今年10月に51人以上と適用拡大されたばかり。

急速に適用拡大が進められている印象だが、これは既定路線だと語るのは、社会保険に詳しい関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。

「『106万円の壁』撤廃は厚労省が推進してきた政策で、突然降ってわいたものでは決してありません。

就職氷河期世代、自営業の夫と死別・離別した単身女性などのなかには、非正規雇用で国民年金しかなく、資産を作れなかった人たちも多くいます。そういった人たちが、年金だけで老後の生活を送ることができないのは明らかです。

苦しい状況にある方々にある程度の年金額を保証しようとすれば、企業が保険料を折半する厚生年金の適用拡大が必要になります。

ただし、国民年金制度の失敗を厚生年金に押し付けようとする案ですから、企業にとっては人件費負担増となり、人員削減や働かせ控え(週20時間未満)、賃上げの凍結など、人手不足が加速し“適用拡大倒産”が起きる可能性があります」

もちろん、適用拡大には年金財政の危機も関連している。かつては1人の高齢者を10人の現役世代で支えていたが、少子高齢化が進み、現役世代2人で支えているのが現状だ。

パート主婦にも年金保険料を支払ってもらい、年金制度を維持させたい厚労省の思惑もあるのだろう。

では、週20時間ほどのパートをしている主婦の社会保険料負担は、いくら増えてしまうのか。

ケース(1)最低賃金がもっとも低い秋田県(時給951円・年収約91万2000円)、ケース(2)これまでの年収の壁(時給1100円・年収約106万円)、ケース(3)最低賃金がもっとも高い東京都(時給1163円・年収約111万6000円)、ケース(4)50人以下の企業で、少し稼いでいる場合(時給1250円・年収120万円)の4パターンを、ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんに試算してもらった。

「現状、どのケースも週20時間以上の労働になるので、雇用保険が発生します。雇用保険料は、年収に対し一律0.6%で計算しています。

税金面に関しては、ケース(1)の場合は所得税も住民税もかかりません。もっとも年収が高いケース(4)であっても、所得税と住民税を合わせても年間3万5000円ほどで、月換算すると3000円程度です」

だが「週20時間以上」に社会保険加入義務が生じることになれば、手取りが大きく減ることになる。

「ケース(1)~(4)のすべてで、厚生年金の保険料が新たに年間10万円ほど発生し、健康保険料も5万?6万6000円ほど支払わなければならなくなります。

こうした社会保険料は控除対象となるので、所得税や住民税の負担が軽減されます。とはいえ、社会保険料の負担があまりに大きいため、日々の生活に影響が出る家庭も多いでしょう」

年間手取り額は、適用拡大されることで、ケース(1)で約90万6000円から約75万9000円と約14万7000円もマイナス、ケース(2)で約103万5000円から約88万9000円と、じつに約14万6000円もマイナスになってしまうのだ。

一方、社会保険加入対象から外れるため、週の労働時間を19時間にセーブした場合はどうか。

ケース(1)では手取り額は年間約86万7000円となり、週1時間、少なく働いているのに、週20時間の労働と比べ、年間約10万8000円も手取り額が増えることになる。

同様にケース(2)で約10万円、ケース(3)で約10万5000円、ケース(4)で約10万6000円も増える。

物価高が続く日々の生活が厳しく、手取りが減る影響が大きい場合は、労働時間で調整することも一つの方法だ。

だが、週20時間以上働き、社会保険料を納めることには、老後資金が手厚くなるというメリットがあると、内山さんが続ける。

■いま必要なお金か将来に備えるかの選択

「厚生年金保険料を支払うので、65歳から受け取る年金は生涯にわたり上乗せされます。

たとえば55~60歳の5年間働いた場合を試算すると、ケース(1)では年間約2万5000円、ケース(2)、(3)で約2万9000円、ケース(4)で約3万2000円上乗せされます」

社会保険料で減った手取り額を、将来上乗せされる厚生年金でカバーするまでの年数も、内山さんは試算している。

「損益分岐点は、たとえばケース(1)で28.6年です。65歳から受給開始した場合、94歳まで生きれば、手取りが減った分を回収でき、それ以降は“得”をする計算です」

ケース(2)では90.3歳、ケース(3)では89.4歳、ケース(4)では87.4歳が損益分岐点。

女性の平均寿命である87.14歳を超えれば得をすることになる。

前出の柏木さんはこう補足する。

「健康保険に加入することで、傷病手当金が受け取れます。病気やケガで3日連続で休むと、4日目以降からの休みに対し、最長1年6カ月間、給与の約3分の2が支給される制度です。

また厚生年金では、障害を負ったときに障害厚生年金、死亡したときには遺族厚生年金を受け取ることができます」

厚生労働省は、働き控えが発生する年収層のパートに限って、会社が支払う保険料の負担割合を柔軟に変更できる特例を導入するとしているが、手取り優先で労働時間を調整するか、将来のため年金を上乗せしていくのか、判断が必要となりそうだ。

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