アカデミー賞受賞作『グラディエーター』(00)の24年ぶりの続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の日本公開が始まった。本作は、巨匠リドリー・スコットの剛腕演出が冴えわたる歴史スペクタクルだ。ローマ帝国を舞台に、数奇な運命に導かれてグラディエーター(=剣闘士)となった男の復讐ドラマが展開する。そんな本作で、暴君として歴史に名高いカラカラ帝を演じたのが、「フィアー・ストリート」シリーズなどで売りだし中のフレッド・ヘッキンジャー。若き注目株が、どんな思いを抱いて本作に臨んだのか?来日した彼にインタビューを行なった。
【写真を見る】1作目公開時はまだ赤子!若き注目株、フレッド・ヘッキンジャーが明かす舞台裏とは?
■クレイジーな皇帝を演じるためセックス・ピストルズを参考に役作り!?
ヘッキンジャーは現在24歳。すなわち1作目の『グラディエーター』が作られたころは、まだ赤子だ。そんな彼でも、リドリー・スコットの作品に出演するという魅力的なオファーにはあがなえなかった。「スコット監督が唯一無二の存在であることを改めて思い知りました。僕は彼を“混沌の指揮者”だと思っています。とてつもないローマのセットを作ったこと自体がカオスでしたが、そこで起こる様々な混乱をまとめて、一つの作品にしてしまう。それに監督は、常にやる気満々で、この映画を作ることに興奮しているんです。僕もそれに感化されました」と、現場に渦巻くエネルギーの凄まじさに圧倒されたと彼は語る。
ヘッキンジャーが演じる皇帝カラカラも、ある意味エネルギッシュなキャラクターだ。弟のゲタ帝とともにローマを共同統治しているが、民衆のことなどまったく考えず、己の欲求のみで行動している。気まぐれかつクレイジーな皇帝だ。「パンクバンド、セックス・ピストルズの現存する映像を見て役作りをしました。カラカラには、今日は機嫌よく人を宴に誘ったと思えば、明日は処刑台に送るような、次になにをするのか予測できない危うさがあります。どっちに転ぶかわからない、そういうキャラクターのおもしろさを出せたと思います」
本作におけるカラカラ帝とゲタ帝は相乗効果で、クレイジーさを増していく。ゲタ帝役のジョセフ・クインとのテンション高めの共演(狂演?)も見どころだ。「僕にとって運が良かったのは、ジョセフと早い段階で顔合わせができたことです。世代が一緒なので会ってすぐに意気投合したし、彼は本当に“いいヤツ”です(笑)。カラカラとゲタには、どこかコンビ芸のような要素がありますから、そういう点では相性の良さが生きたと思います」歴史に詳しい方なら、共同統治のあとにカラカラ帝とゲタ帝が陰惨な決別をするのはご存知だろう。本作ではそれをアレンジして、より鮮烈なかたちで提示している。
■大きな刺激を受けたという大先輩、デンゼル・ワシントンの存在
キャリアの長い大先輩、デンゼル・ワシントンとの共演シーンも少なくないが、彼からどんなことを学んだのだろう?「すべてにおいて無駄がないことですね。彼は現場ではすでに役の準備ができていて、準備してきたことのすべてを、意欲をもってその場で使うんです。そういう意味では、リドリー・スコット監督と同様ですね。想像力と集中力の凄まじさに大いに影響を受けました」
“共演”の点で、もう一つ聞いておきたいことがある。それはカラカラと、彼のペットの子ザルとのかかわりだ。「僕は撮影よりも2~3週間早くロケ地のマルタ島に入ったのですが、その理由はサルとの信頼関係を築くためです。あのサルはシェリーという名の雌ザルで、とてもかわいいんですよ。彼女も僕と一緒で、こんな大作に出演するのは初めてなので緊張していたようです。だから、まずは彼女と打ち解ける必要がありました。しかし、映画を観ればわかるとおり、この映画での彼女は、まさにスター誕生という感じです(笑)」思わず笑ってしまう彼らのかけあいは、ぜひ映画館で確認してほしい。
穏やかに語る目の前のヘッキンジャーからは、初の大作出演で緊張している姿が想像できない。その緊張はどこからきたのだろう?「やはり、偉大なスコット監督との仕事です。自分は監督の期待に応えられているのだろうか?そう考えることは、やる気にさせる一方で、時にはプレッシャーにもなります。振り返れば、撮影現場から逃げだしたくなることもありました。でも、俳優にとってもっとも困難なことは、もっとも大きな喜びにもなるんです」
目標にしている、もしくは指標にしている俳優や映画人についても訊いてみた。「映画監督はもちろん、多くの俳優からも影響を受けてきましたが、目標としている俳優はいません。月並みな答えで申し訳ないですが、誰でもひとり、ひとり、それぞれの道を拓いていかなければいけない。なので、ほかの俳優と比較されたくないと思っています。一つ言えるのは、僕は安易な道と困難な道のどちらかを選ぶなら、これまで後者を選んできたし、これからもそうやって挑戦していくでしょう」カラカラ帝役を選んだ背景には、そんな彼の姿勢があったのだろう。
■今後もヘッキンジャーの活躍から目が離せない!
今後もヘッキンジャーの挑戦は続く。マーベルコミックの原作に基づく次回作『クレイヴン・ザ・ハンター』(12月13日公開)では主人公クレイヴン(アーロン・テイラー=ジョンソン)の弟で、スパイダーマンの敵としても知られているカメレオンに扮している。こちらは日本公開間近だ。更に全米では12月に『Nickel Boys』という新作が公開されるが、こちらはすでに賞レースを賑わせている作品で、ヘッキンジャーも自信作と胸を張る。「『Nickel Boys』は僕が大好きだった、ドキュメンタリー出身の監督ラメル・ロスが演出を手掛けていますが、とにかく映像がすばらしい。いままでに見たこともないようなビジュアルが繰り広げられています。日本でいつ公開されるかはわかりませんが、とにかく大きなスクリーンで観てほしいですね」
今後が楽しみな存在であるヘッキンジャー。半年先、1年先、さらに先には、どんな俳優になっているのだろう?まずは『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の意欲的な怪演を、ぜひ目にしてほしい。
取材・文/相馬学
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