日本イーライリリーは11月7日(木)、ベルサール八重洲にて、メディアセミナー「世界と日本における小児用医薬品開発の現状と課題の比較〜リリーが目指す小児用医薬品開発の未来〜」を開催しました。
日本における小児用医薬品開発には、多くの課題が
日本における小児用医薬品開発には、少子化の加速や小児を対象とした臨床試験実施の難しさなど、多くの課題が存在します。
それらは、日本の小児医療において、海外では流通している薬が手に入りにくい、使用しづらいという、いわゆる「ドラッグ・ロス」や「ドラッグ・ラグ」の一因となっています。
そこで今回、世界と日本における小児用医薬品開発のそれぞれの現状と課題、また今後の開発促進の重要性についての理解を含め、一緒にその未来を考えていく機会としてメディアセミナーが開催されました。
同セミナーでは、まずは同社の研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部の坂口佐知氏が、小児用医薬品開発の現状や課題、同社が取り組む小児用医薬品開発について説明。
また、日本小児科学会専門医として、小児医療分野の最前線で活躍している独立行政法人国立病院機構三重病院の長尾みづほ先生が、小児アトピー性皮膚炎を例に日本の小児用医薬品への期待を説明しました。
小児用医薬品開発の現状と課題/日本イーライリリーの取り組み
まずは、同社・坂口佐知氏が登壇。「小児用医薬品開発の現状と課題/日本イーライリリーの取り組み」ついての説明が行われました。
世界の人口に占める子どもの割合は約1/4であり、15歳未満の子どもの数は約20億人であることが示され、その上で、小児用医薬品開発における世界共通の課題として、
・「成人と比較すると対象患者数が少ないことが多い」
・「一人あたりの投与量が少ないため採算性の確保が難しいことが多い」
・「対象が新生児から思春期までと多様で幅広い」
・「臨床試験の計画や同意取得等に小児特有の配慮を要する」
・「医薬品の剤形、用量等、各年代に応じた対応が必要」
を指摘。また、日本の独自の問題点として、
・「欧米と異なり小児用医薬品開発について日本では法制化されていない」
・「日本において、小児に使用される医薬品の6〜7割が適応外使用と言われている」
・「小児の用法・用量が添付文書に記載されたものは全体の約30%にすぎず、小児剤形のない医薬品が多く存在している(現場の剤形変更⇒安定性、吸収、味などの問題がある)」
ことを提起しました。
さらに、日本の子ども(15歳未満)の数が43年連続で減少していることや、2023
年 3 月時点において、欧米では承認されているが日本では承認されていない医薬品(未承認薬)は143 品目にのぼるなど、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの実態、日本における小児用医薬品の主な開発支援策などについて、図表を交えて解説を行いました。
これらの状況を踏まえ、同社が小児用医薬品開発を行う背景として、
・「子どもたちのアンメット・メディカル・ニーズに応えるため」
・「科学・技術に関する専門知識を製薬会社として進化させるため」
・「規制当局の求めに応じるため」
の3点を挙げています。
最後に、同社の小児用医薬品開発・治験実施の状況を示すとともに、
「有効性及び安全性が適切に評価された医薬品を、今後も成人患者だけでなく、小児患者にも届けたい」
と、その思いを語りました。
小児用医薬品に対する想い〜小児アトピー性皮膚炎を例に〜
続いて、独立行政法人国立病院機構三重病院の長尾みづほ先生による講演がスタート。「小児用医薬品に対する想い〜小児アトピー性皮膚炎を例に〜」と題して、以下のテーマに即した説明が行われました。
・小児科医として小児医薬品開発に対する想い
・小児アトピー性皮膚炎について
・患者さん、親御さんの負担
・小児アトピー性皮膚炎の治療法
・新しい治療選択肢(全身療法)によってもたらされた変化
・今後の小児開発について、臨床医の立場で望むこと
・ Key Takeaways
小児科医として小児医薬品開発に対する想い
まず、成人から薬品開発が進むことには理解を示しつつも、「対象患者が成人より少ない」「身体的・生理的な違いにより、小児治験が必要」「症例登録や検査が大変」「費用対効果の問題」などにより、小児治験へのハードルが高い実態を指摘。
「効果が期待できそうなことがわかっているのに、年齢の制限で使えないのはとても残念」
と、その心情を明かしました。
小児アトピー性皮膚炎について
続いて、アトピー性皮膚炎の定義として、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と説明。
アトピー素因として、
(1) 家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)
(2) IgE抗体を産生し易い素因
を挙げています。
また、「アトピー性皮膚炎の有症率」「年代別重症度の割合」「アトピー性皮膚炎の湿疹」などを実例とともに解説しました。
長尾先生は、アトピー性皮膚炎のかゆみによる集中力低下や、顔(眼のまわり)の湿疹による白内障や網膜剥離の可能性、さらにはいじめ、不登校などに至る危険性など、長期化・重症化するほどリスクが高まることを指摘。早期に、適切に管理することが重要であると述べています。
患者さん、親御さんの負担
患者本人や保護者に対する負担については、以下を指摘しています。
【養育者の負担】
・毎日の外用が大変。自分の努力が足りないのか。
・子どもが掻いているのをみるのがつらい、イライラする。
・寝てくれない。夜、途中で起きる。自分も熟睡できない。
・通院の負担。
・親からの遺伝のせいなのか。
・子どもの状態がよくないと、親が悪いのかと思ってしまう。
【子どもの負担】
・ 学校を休みたくない。
・肌をみられるのが嫌。
・塗るのは面倒。
・薬を塗るように言われるのが嫌。
・病院・クリニックで責められている気がする
小児アトピー性皮膚炎の治療法
小児アトピー性皮膚炎の治療法では、
「スキンケア」の重要性
を解説。皮膚表面の汗や汚れ、黄色ブドウ球菌などを取り除く「皮膚洗浄(入浴・シャワー浴)」と、皮膚のバリア機能を補う「保湿剤」を適切に組み合わせ、「洗って塗る」を習慣化することをすすめています。
また、小児アトピー性皮膚炎の治療薬の承認状況について、図表による解説も行いました。
新しい治療選択肢(全身療法)によってもたらされた変化
さらに、新しい治療選択肢(全身療法)によってもたらされた変化として、「患者・保護者からの感想」として、
【患者・保護者からの感想】
・「子どもに対してイライラすることが減り、親子関係がよくなりました」
・「いい状態で病院・クリニックに行くのは嬉しい」
・「目を見て医師や看護師と子どもが話せるようになりました」
・「痒くないってこんなに楽なんだと初めてわかりました」
・「ぐっすり眠れるようになって、集中力がつきました」
などの声を紹介しました。
今後の小児開発について、臨床医の立場で望むこと
ここまでの講演を受けて、長尾先生は以下のポイントをまとめました。
・子どもは、ターゲットとする疾患以外は元気なことが多いので、そこをしっかり治すことで、健やかな成長が期待できる。
・薬のメリット・デメリットを評価した上で、「なるべく薬を使わずに我慢する」のではなく、「我慢せずにしっかり治療する」ことも大切。
・小児を対象とした臨床試験の増加が不可欠。特に、早期に治験を開始できるシステム作りや、長期使用の安全性データの収集が重要。
その上で、
「たとえ製薬会社の利益は少なくても、小児科開発が遅れをとることなく進められるような支援がもっと進んでほしい」
と、臨床医の立場での希望を述べました。
最後に
最後に、この日の講演におけるKey Takeaways(重要な学び)として、以下を示して講演を終了しました。
・小児の医薬品開発においては、小児の特有のニーズに応じた安全で効果的な治療法が求められており、成人とは異なる視点が必要。
・小児アトピー性皮膚炎を例に挙げると、全身療法の登場により患者や家族の生活の質が大きく改善された。
・小児用医薬品の研究開発が進み、より多くの子どもたちが安全で適切な治療を受けられる未来を強く期待したい。
まとめ
講演終了後には、長尾先生、坂口氏への質疑応答の時間が設けられ、参加者からの活発な質問が寄せられました。
日本イーライリリー
https://www.lilly.com/jp/
(マイナビ子育て編集部)
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