◆Brand-new Winery 2024
日本のワイナリーは、年々増加し、2024年9月末時点で約540軒にもなりました。今年、新たに誕生したワイナリーは24軒。その中から特に注目のワイナリーを3軒ピックアップしてご紹介します。
◆〈北海道・北斗市〉torocco winery
外観は道南杉をふんだんに使用。初めて北斗を訪ねたときに見た山並みを再現したデザインになっている
ものづくりを極めるように
ワイン造りを追求
ワイン造りが広がりつつある函館・北斗周辺。ここに2024年誕生したのが、torocco wineryです。オーナーはフレンチレストラン「aki nagao」やワインバーなどの人気店を札幌で経営するシェフの長尾彰浩さん。
きっかけは2007年、ソムリエだった石田幸子さんとの出会いでした。2人は意気投合。夜な夜なナチュラルワインを飲みながら、ワイン造りや夢を語り合いました。
左/石田さんはソムリエを経て、フランスのワイナリー、ボワ・ルカで仕込みも
経験。10Rワイナリーでも学んだ右/ナイアガラとアコロンのワインには、そ
れぞれ世界で唯一の専用グラスを開発。自社醸造ワインは来春初リリース予定
そして、2021年、長尾さんはついに立地のよい畑を入手。当時、東京にいた石田さんも意を決し北海道に移住して、ブドウを育て始めます。2023年までの2年間は10Rワイナリーへ研修に通いながら醸造を委託。
そして2024年、とうとう自社ワイナリーでの初仕込みを迎えたのです。造りを担う石田さんは、あふれんばかりのエネルギーの持ち主。体と頭を総動員して、醸造に向き合っているのが伝わってきます。
上/敷地面積は9ha。ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ムニエ、ピノ・ノワールなど14品種を栽培 下/建物内部は大きく3つに分かれ、室温が異なる。発酵から熟成の段階に応じて発酵タンクを移動する
2人がめざすのは、最高の食材で料理を作るように、最良のブドウでワインを造ること。料理に添加物を使わないのと同様に、ワインに添加物は使いません。
「“トロッコ”という名前には、ゆっくり走りつつ、ワインに想いをのせて、どこにでも届けたいという願いを込めています」
torocco winery
トロッコワイナリー
住所/北海道北斗市向野183
◆〈長野県・上田市〉Sail the Ship Winery
左/田口航さんがワイン造りを志したのは2011年。京都府のワイナリーを経て独立。長野県の「千曲川ワインアカデミー」の1期生右/赤は丸みがありつつも凝縮感があり、白はリッチで余韻が伸びやか。いずれも忘れ難い個性を持つワイン
待望のワイナリー設立!
造り手の新たなスタート
2024年、秋、田口航(たぐちこう)さんは、長野県上田市に満を持してワイナリーを設立しました。32歳で独立を決心してからすでに10年の月日が流れています。
ブドウを植えたのは2016年。その後6年間、南向醸造などで委託醸造をしてきました。
広々とした東山の畑の眺望は素晴らしい。来年、東山の今の畑に隣接した畑が増え、自社畑は全部で3.4haになる
ワイナリーに足を踏み入れて驚くのは、高く積み上げられた樽。全部で44 樽と新規の個人ワイナリーとしては異例の多さ。彼はワインをすべて樽で熟成させているのです。
「僕が好きなのは、赤も白もこっくりとした味わい。そのために野生酵母で発酵させて、樽でゆっくりと寝かせることで味わいを仕上げていきたい。第一印象だけが強いのではなく、中身がしっかりとあり、時とともに真価を発揮するワインを目指している」と語ります。
上/ワイン用ブドウ品種に注力し、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・フランなど8品種を有機相当で栽培下/ワインや果汁に負担をかけないように、ポンプを使わずに重力を活かす工夫が随所に施されている醸造所
だからこそ、ワインのおいしさの本質を決めるブドウには妥協はなし。原料ブドウはすべて自身が育て、化学農薬、化学肥料は不使用。それにもかかわらず、ワインの価格は2000円台からと比較的お手頃。
「日本ワインだから、生産量が少ないから、高いという言い訳はしたくない。誰でもが手に取れるワインにしたくて」。栽培、醸造そして販売まで一貫したワイン造りが始まります。
Sail the Ship Winery
セイル・ザ・シップ・ワイナリー
住所/非公開
◆〈長野県・原村〉kifutato wines
左/日達桐子さんは、原村生まれ原村育ち。土を触る仕事は性に合うという。原村の可能性を信じ、唯一無二のワイナリーをめざす右/収穫したソーヴィニヨン・ブラン。可能性を感じているのは、この品種とピノ・グリ。畑の面積は現在2ha
ほぼ前例のない1000m超えの高地で
26歳の若き造り手の挑戦が始まる
2024年の10月、八ヶ岳山麓の原村に小さなワイナリーが誕生しました。ワイナリーとブドウ畑は日本ではまだ珍しい標高1015mの高地にあります。
ブドウ栽培とワイン醸造を一手に引き受けているのは日達桐子(ひたちきりこ) さん。まだ26歳の若き造り手です。
ラベルデザインは、双子の妹、楓子さんが担当。ファンキーなイラストは、一度見たら忘れられない
始まりは父の俊幸さんがワイン用ブドウを植えたこと。当時、彼女は高校生でした。大学時代にワイナリーのインターンを経て、両親の畑を引き継ぎ、ワインを造っていこうと決心。両親に思いを伝えました。
卒業後はブドウを育てながら、醸造の技術を貪欲に学びます。ニュージーランド、長野、そして山梨のワイナリーでも研修を受け、彼女が行き着いたのは、「汚さず、磨きすぎず、不必要と思ったものは添加しない造り。冷涼な高地ならではの伸びやかな酸のブドウを素直に表現したい」と思いを語ります。
上/標高1015mの高地に佇むワイナリー。畑からもワイナリーからも八ヶ岳の美しい稜線が望める下/醸造施設には白い卵形の樹脂タンクや小型タンクが並ぶ。ときにはタンクを外に出し、太陽光を当てて発酵を促す
「やっとスタート地点に立てた」と言う桐子さん。今までは委託した醸造所の都合も加味して決めていた収穫時期も、樽での熟成期間も自由度が俄然上がります。
「仕込み期間はあまり睡眠も取れませんが、自分がめざす造りができると思うと期待しかありません」。彼女のワインのリリースが楽しみです。
kifutato wines
キフタトワインズ
住所/長野県諏訪郡原村払沢11151(※訪問の際は要事前相談)
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