【写真】二宮和也演じる西郷昇が妻・花子を抱きしめる(「硫黄島からの手紙」より)
これまで40本近くの映画を世に送り出し、その才能をいかんなく発揮してきたクリント・イーストウッド監督。もともと俳優としてワイルドかつ渋い演技で多くの観客を魅了してきた彼は、いつしか主演と監督を同時に務めるようになり、“映画界の二刀流”として数々の功績を残してきた。そんな彼が手掛けた5作品を、映画専門チャンネル「ムービープラス」では11月23日(土)より「クリント・イーストウッド監督特集」と題して一挙放送。本記事では放送ラインナップとともに、“二刀流”だからこそなせるイーストウッドのこだわりの演出や魅力に迫っていく。
■落選続きのオーディション…つかみ取ったチャンスは“マカロニ・ウエスタン”
1930年にアメリカのサンフランシスコで誕生したイーストウッド。14歳ごろ俳優を志すようになるが、オーディションは落選続き。そんな中ジャック・アーノルド監督作品「半魚人の逆襲」(1955年)でついにスクリーンデビューを飾る。その後も何度か映画出演の機会に恵まれるが、どれも端役ばかりで下積み時代を送ることになる。
そんなイーストウッドに転機が訪れたのは、西部劇「ローハイド」シリーズへの出演だった。ギル・フェイバー隊長(エリック・フレミング)の補佐として活躍する副隊長・ロディ・イェーツが当たり役となり、一気に注目を集める。その後は「荒野の用心棒」(1964年)や「夕陽のガンマン」(1965年)など西部劇への出演が相次ぎ、“マカロニ・ウエスタン”ブームの立役者としても知られるように。
そして1967年には自身の制作会社マルパソ・プロダクションを設立。プロデュース業にも乗り出し、製作・監督・主演を務めた映画「許されざる者」(1992年)では「第65回アカデミー賞」で初の監督賞を受賞。ハリウッドの巨匠として確固たる地位を築いていった。
■突然恋に落ちたらあなたはどうする? イーストウッド初の本格的な恋愛映画「マディソン郡の橋」
俳優のみならず、監督としても高い評価を得ているイーストウッド。ムービープラスでは、名女優メリル・ストリープとタッグを組んだ映画「マディソン郡の橋」(1995年)を、11月23日(土)夜11時から放送する。
ロバート・ジェームズ・ウォラーのベストセラー小説を映画化した本作は、イーストウッドが俳優として初めて挑んだ本格的な恋愛映画。フォトグラファーとして活躍し世界中を飛び回るロバート(クリント・イーストウッド)と、アイオワ州マディソン郡に住む平凡な主婦・フランチェスカ(メリル・ストリープ)が夫の不在時に運命的な出会いを果たし、大恋愛をする――。ロバートに「一緒に来てほしい」と誘われ、荷物もまとめたフランチェスカだが――。2人の選択は、そしてその後の人生は?
夢見る時期はとうの昔に過ぎ去り、人生にドラマなど求めていなかった2人が過ごしたたった4日間、しかし“永遠に燃え続けるロマンス”を、イーストウッドは回想シーンを取り入れながら語っていくという巧みな手腕で表現。原作で繊細に描かれた情緒の美しさを忠実に再現したことや、マディソン郡の美しい景色も相まって、原作ファンも納得の完成度となった。特に、雨の中で描かれるクライマックスに注目だ。
■「感覚で捉えて描くのが大切」監督デビュー50周年記念作品「クライ・マッチョ」
11月23日(土)夜8時56分ほかからは、イーストウッドの監督デビュー50周年を記念したヒューマンドラマ「クライ・マッチョ」(2021年)をCS初放送。
アメリカ・テキサス州でロデオ界のスターだったマイク(クリント・イーストウッド)は、落馬事故以来孤独な一人暮らしを送っていた。そんなある日、元雇い主から「別れた妻が引き取りメキシコで暮らす息子ラフォを連れ戻してくれ」と依頼される。犯罪スレスレの誘拐まがいの仕事だったが、ラフォ(エドゥアルド・ミネット)を見つけたマイクは2人でアメリカ国境への旅を始める――。
イーストウッドの監督デビュー50周年というアニバーサリーイヤーにふさわしく、“生きる上で必要な「強さ」とは何か”を見る者に問いかける作品となっている。ちなみに本作のメイキング映像において、「私の仕事は全てをまとめて、興味をもってもらって、自由にやってもらうことだ」と自身の監督としての立ち位置を語っていたイーストウッド。また「登場人物やその関係性を感覚で捉えて描くのが大切」とも明かしており、これまでの経験を経て培ってきた“感覚”を何よりも大切にしていることがうかがえる。
■リハーサルや撮り直しは一切ナシ? 二宮和也ら、俳優陣に信頼をおいた独特の演出
イーストウッドが自身のキャリアの中でも壮大なテーマに挑んだ作品として、11月23日(土)昼1時からは映画「父親たちの星条旗」(2006年)を、11月23日(土)昼3時30分からは映画「硫黄島からの手紙」(2006年)をそれぞれ放送。第2次世界大戦末期に日本とアメリカの両軍が激闘を繰り広げた硫黄島での戦争の様子が、日米それぞれの視点で描かれている。
2部作で構成された両作品。まず1作目となる「父親たちの星条旗」では、一枚の戦場写真が人々の運命を翻弄していく悲劇を映し出す。1945年、硫黄島の戦いに赴いたジョン・“ドク”・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)は、そこで撮影された1枚の写真によって英雄だと讃えられたが、彼は最期まで戦争や写真について沈黙を守り通した。それは何故なのか…彼の息子が真実を辿り始めるというストーリーだ。
そして2作目の「硫黄島からの手紙」は、硫黄島の激戦を戦う日本兵の姿を描いた戦争人間ドラマで、渡辺謙と二宮和也が出演したことでも大きな話題に。2006年、硫黄島の地中から、61年前にこの島で戦った男たちが家族宛てに書き残した手紙が見つかった。そして時代は遡り1944年、日本軍の最重要拠点である硫黄島の指揮官・栗林(渡辺謙)は、アメリカ兵を迎え撃つため島中に過酷な地下要塞を張り巡らす防衛戦略を立てるのだが――。
本作の製作にあたり、硫黄島での戦争をリサーチする中、栗林という人物に興味を持ったイーストウッド。彼が戦地から家族に宛てた手紙に心を打たれ、日本兵の当時の状況や心理について猛勉強を重ねたと言われている。
また撮影の際は、二宮が「台本に書いていないことをやって良いか?」とイーストウッド監督に尋ねた際、彼は当然のように「YES」と答えたそう。彼自身が俳優として“台本に書いてないこと、自分のアイデアを提案することが好き”だったことから、監督を務める際も俳優に自由に役作りをするよう伝えたそうだ。
さらにイーストウッドは“早撮り”を行う監督としても知られており、本作でもリハーサルや撮り直しをほとんどせずに進行。俳優たちに信頼をおいて、演技や表現の部分で身を委ねる手法をとったのは、俳優の気持ちが分かる彼だからこそなせる演出方法なのかもしれない。
なおムービープラスでは11月23日(土)夜6時30分から、殺人事件を通して再会した幼なじみの男3人の運命が描かれる重厚なサスペンス映画「ミスティック・リバー」(2003年)も放送。いずれも、イーストウッドの手法により俳優たちの魅力が存分に引き出され、感情移入せずにはいられない作品に仕上がっている。
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