今中慎二が語る「中日の現在と今後」前編
ピッチャー陣について
今年、3年連続となるセ・リーグ最下位に沈んだ中日。チーム得点もリーグ最下位の373得点と打線の援護が少なかったとはいえ、期待されたピッチャー陣でふた桁勝利を挙げたのは髙橋宏斗のみと精彩を欠いた。今年の春季キャンプで11年ぶりに古巣を指導するなど、かつて中日のエースとして活躍した今中慎二氏に、ピッチャー陣について振り返ってもらった。
髙橋宏斗は12勝4敗と奮闘したが、他の先発陣は勝ち星が伸びなかった photo by Sankei Visual
【甲子園未勝利など、低調に終わった先発陣】――今中さんは以前、中日は球威のあるピッチャーが多いため「ゾーンで勝負するべき」と言われていましたが、その点についてはいかがですか?
今中慎二(以下:今中)できている部分も多かった一方、できなくなった部分も見受けられましたが、全体的には「ちょっとできるようになったのかな」という印象です。
――ピッチャー陣の四球の多さも指摘されていましたが、今季は昨季より少なくなったとはいえ、まだ少し多い印象です(昨季445個、今季384個)。
今中春先に首位に立った時は、異常なくらいフォアボールを出しませんでしたね。ただ、その後に打たれ出したら増えていった。ひとりのピッチャーが出し始めると、他のピッチャーたちにも連鎖反応みたいなものがあるんです。ただ、頑張っていたほうなんじゃないですか。
――フォアボールが増えるのは精神的な部分、技術的な部分、どちらの問題ですか?
今中みんな能力はあるので、やはり精神的な部分でしょうね。「打たれたくない」と思えばボールになるし、「打たれるわけがない」と思えばど真ん中でもどんどん投げられる。かわしにいくほど、悪い方向にいくようなところはありますね。
特に今年は、甲子園での阪神戦が散々だった(0勝10敗1分け)。そこだけでも解消していればチーム成績も変わるのですが、甲子園に行くと雰囲気に呑まれてしまうというか......。たまにしかやらない球場ならまだしも、試合は毎年やるわけなので、克服しないといけません。チーム防御率も、甲子園では異常なほど高いですよ(6.04)。
――甲子園に苦手意識があるのでしょうか?
今中阪神のバッターが甲子園での試合だと何か変わる、ということもあるかもしれませんが、過去にはマツダスタジアム(広島の本拠地)でも同じようなことがありましたけどね。中日に限らず各チームは苦手な球場があるんでしょうけど、ひとつも勝てなかったのは響きましたね。
【髙橋宏斗は「開幕一軍で投げなくて大正解」】――髙橋投手はフォームの修正などの調整に時間がかかり、シーズン序盤は出遅れながらも、終わってみればキャリアハイ(12勝4敗、防御率1.38)でした。
今中開幕二軍スタートだったので、本人も相当落ち込んでいましたよね。ただ、中途半端な状態のまま、開幕一軍で投げなくて大正解でした。あの状態で仮に開幕一軍でスタートしていたら、今季のような数字は残せなかったと思いますよ。
しっかりと調整できて、一軍での初登板でいいパフォーマンスができた(7回無失点)。次の試合も含めて好投が2試合続いたことも自信につながったと思います。
――フォーム修正もそうですが、精神面の復調も大きかったでしょうか?
今中そう思います。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などでもあれだけのボールを投げていたわけですから。フォームをいじったぐらいで極端に変わるわけではないと思います。
今年の春季キャンプでは状態が悪かったのですが、「ちょっと実戦で投げれば変わるかな」と思っていたんです。でも変わらなかった。そこでようやく本人が気づいたというか、「これではダメだ」という部分があったんだと思います。結局のところ、自信を持って投げられるようになれば、あれだけのパフォーマンスを発揮できるということ。いかに、そういう部分を一軍の試合で出せるかじゃないですか。
――シーズンを通して自信を持って投げているように見えました。
今中投げて、抑えてを繰り返して自信がついているので、どんどん勝負ができる。フォアボールを出してしまっても、切り替えて抑えていました。シーズンの最後はちょっとバテていたので抜けるボールも増えていましたが、シーズンを通して投げていれば当然あることなので。
――今中さんはいいピッチャーの条件のひとつとして、「ギアの上げ下げができること」を挙げていますね。
今中彼は、状態がいいときは特にそれができるピッチャーです。シーズン中に、そういう駆け引きができるようになったと思います。
【柳、小笠原などの課題】――一方、髙橋投手以外の先発ピッチャーが軒並み勝てませんでした。
今中最下位に沈んだ要因のひとつですね。特に初回の失点が多かった。出だしの失点は、試合の流れを相手に渡してしまうことになります。試合の中盤、後半まで劣勢が続くと、どんどん苦しくなりますから。近年は中盤以降にいいピッチャーが出てくるチームが増えてきましたし、そう簡単に点を取れないので。
――開幕投手を任され、いいスタートを切った柳裕也投手も勝ち星が伸びませんでした(4勝5敗、防御率3.76)。
今中昨季一度しかやらなかった「中5日」で登板した(4月18日の)ヤクルト戦で打ち込まれましたよね(4回途中6失点)。それまでの試合では安定していましたが、中5日が影響したのか......。それと、結局は坂本勇人の一発に沈んだな、とも思うんです。(4月25日の巨人戦)東京ドームでいいピッチングをしていて、チームも2-0とリードしていたのですが、坂本に逆転の3ランを打たれた。あそこから狂いが生じてしまったのかなと。
その時は、(キャッチャーのサインに)首を振ってインコースに真っすぐを投げたんです。自信を持って投げたボールをとらえられてしまって、それ以前も兆候はあったものの、以降にフォアボールが増えました。柳の場合はコーナーを狙いすぎるピッチャーなので、坂本に打たれてから歯車がかみ合わなくなったなと思います。
――小笠原慎之介投手もなかなか勝てませんでした(5勝11敗、防御率3.12)。
今中小笠原に関しては、特に初回の失点の多さが気になりました。春先は打線の援護がなくてかわいそうな部分もありましたが、初回の失点が何試合か続くと「またか......」となるので、改善しなければいけません。
負けが11個もつくのは当然よくないです。勝ち星は打線の絡みもあるから理解できますが、負けがつくということは先に点取られているということ。それをひっくり返すことができずに負けてしまう試合が多かった。
小笠原は昨季も10敗以上していますよね(昨季は7勝12敗)。4年連続で規定投球回を達成している点は頑張っていると思いますが、今の中日は"勝てるピッチャー"が必要なんです。宏斗と、もうひとりいるだけで全然違ってくると思うのですが......。
【リリーフ陣も含めた起用法も改善を】――開幕前は、勝ちが期待できる先発ピッチャーが多かった印象です。
今中そうですね。ただ、大野雄大や梅津晃大は近年に手術をしたこともあって、登板間隔を空けたりする問題もつきまとうじゃないですか。それをやるとローテーションがどんどん変わるので......。登板しては抹消するケースも多かったですし、そういうことも尾を引いていた気はします。先発ピッチャーが軒並み負け越しとなると、なかなか勝負になりません。
――一方、リリーフ陣はいかがでしたか?
今中リリーフ陣はみんな頑張ったんじゃないですか。ライデル・マルティネスは別格として、松山晋也や清水達也をはじめ、藤嶋健人や齋藤綱記、橋本侑樹なんかも頑張りましたね。齋藤は、シーズン終盤あたりはバテバテでしたけどね。
勝野昌慶は開幕からフル回転で起用されていましたが、甲子園で投げた時(4月20日の阪神戦)に壊れてしまいましたね。2-15で大敗した試合ですが、勝野が5失点したんです。大差をつけられている試合で投げさせるのはどうだったのかなと。登板間隔が空いた、などの理由があったのかもしれませんが、あれでバランスが崩れてしまったような気がします。勝ちパターンに組み込んでおけば、もっといい成績を残せるピッチャーだと思います。
――中日のピッチャー陣が本来の力を発揮できれば、他球団と十分に戦える?
今中先ほどもお話しましたが、みんな能力はあります。勝ち星がついて自信がつけば、ゾーンでどんどん勝負できるはず。味方が点を取れるかどうかという問題もあるのですが、ピッチャー陣も初回に点を取られて相手に流れを渡さないようにしなければいけませんし、勝ちにつながるピッチングを意識してほしいですね。
(中編:根尾昂の現状とドラ1・金丸夢斗への期待理想の育成・起用法や課題は?>>)
【プロフィール】
◆今中慎二(いまなか・しんじ)
1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。
【関連記事】
鍵山優真、坂本花織、りくりゅう...2024NHK杯フォトギャラリー
国立競技場が世界一のスタジアムである理由 神宮外苑地区の樹木伐採はその価値を貶める
【プレミア12】井端ジャパン4連勝でスーパーラウンド進出 絶体絶命のピンチで見せた藤平尚真の成長の証
江川卓の全盛期を知る田尾安志は、野茂英雄のストレートに「この程度か...」と速さを感じなかった
閑散とした国立競技場でなでしこジャパンが一変 日韓戦で感じたサッカー界の「組織の問題」