11月19日(火) 3:00
亡くなった人の銀行預金は、相続人の1人が勝手に引き出して使うことはできません。なぜなら遺産の分割協議が未成立のまま使ってしまい、ほかの相続人の権利を侵害すると、後々トラブルに発展する恐れがあるからです。
まず、預金を管理している銀行は、口座の名義人が亡くなっている事実を確認した時点で口座を凍結し、遺産のトラブルを未然に防止します。
凍結された口座から相続人が預金を引き出すには、金融機関ごとに手続きが定められており、提出する書類の1つには相続手続きに関する書類もあります。その書類の名称や様式は金融機関ごとに異なりますが、いずれにしても相続人全員の署名・捺印が必要です。
相続人の1人だからと言って、ほかの相続人の承諾がないままでは預金を引き出すことはできません。預金が遺産である以上、相続人が1人である場合を除き、引き出すためには遺産分割協議の成立は欠かせないのです。
遺産分割協議については「遺産分割協議書」として合意内容を書面にするほか、口頭で済ませることも可能です。トラブルが心配なら書面にしておくのが無難かもしれません。
遺産分割の基準には「法定相続分」があり、親と子ども2人なら、親2分の1、子どもはそれぞれ4分の1です。ただし、相続人全員の合意が優先するため、遺言書がある場合も含め、必ずしも従う必要はありません。
また、生命保険金は相続遺産に含まれません。例えば、父が亡くなった際、保険金の受取人である母が生命保険金をいくら受け取ったとしても、遺産分割協議での考慮は不要です。むしろ、母が受け取った生命保険金を子どもに渡してしまうと、贈与とみなされ贈与税が課される恐れがあるため、遺産とは分けて考えましょう。
それでは、遺産分割協議が成立するまで、相続人1人では遺産の銀行預金を一切引き出せないのでしょうか。実は「預貯金の仮払い制度」を利用すれば、相続人1人でも一定の範囲内で預金の引き出しが可能です。
家庭裁判所に遺産分割の調停などの申立てがなければ、金融機関に被相続人や相続人全員の戸籍謄本などの必要書類を提出することで、預金の払い戻しを受けられます。金額の上限は「預貯金残高×3分の1×法定相続分」であるため、今回の例であれば、図表1のとおり、引き出せる金額の上限は1000万円×3分の1×4分の1=約83万円です。
図表1
父が亡くなった際の相続人(例) |
遺産となる
銀行預金総額 (A) |
法定相続分
(B) |
遺産分割成立前の
預金引き出し可能額 (A)×(B)× 3分の1 |
---|---|---|---|
母 | 1000万円 | 2分の1 |
約166万円
※同一の金融機関からの払い戻しは150万円まで |
子ども(姉) | 4分の1 | 約83万円 | |
子ども(妹) | 4分の1 | 約83万円 |
国税庁、一般社団法人全国銀行協会HPより筆者作成
ただし「預貯金の仮払い制度」が創設されたのは、被相続人の葬儀費用や、相続人の当面の生活費といった資金需要に速やかに対応するためです。もし制度を利用するのであれば、制度の趣旨も十分理解した上で活用するように心がけましょう。
遺産が銀行預金である場合、ほかの相続人の承諾なしに1人の相続人が銀行預金の多くを勝手に引き出すことはできません。現在は法律も改正され、一定の金額であれば相続人1人で預金を引き出すことも可能ですが、あくまでも葬儀費用や相続人の生活費などにあてるための限られた範囲の金額です。
そのため、遺産で何か高額な買い物をしたくても、まずは遺産分割の話し合いが先決です。遺産でのトラブルは、親しい遺族間でも関係性に悪影響が及ぶかもしれません。まずは故人をしのび、葬儀や法事などが落ち着いた折に、遺産分割について遺族間で話し合ってみてはいかがでしょうか。
一般社団法人全国銀行協会 Q.亡くなった親の預貯金、すぐに引き出すことは可能ですか?
国税庁 No.4132相続人の範囲と法定相続分
執筆者:松尾知真
FP2級
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