今中慎二が語る「中日の現在と今後」中編
根尾昂とドラ1・金丸夢斗について
(前編:中日のピッチャー陣髙橋宏斗以外が勝てなかった理由を分析した>>)
中日の元エース・今中慎二氏に聞く中日の現在と今後。その中編では、今季の根尾昂に対する見解やドラフト1位ルーキー・金丸夢斗について語ってもらった。
根尾昂は今季、8月の広島戦で先発も3回6失点だったphoto by Sankei Visual
【根尾昂は先発にこだわりすぎた?】――今季、根尾昂投手が一軍で登板したのは3試合で、そのうちの1回が先発でした(8月4日の広島戦に先発し、3回6失点で負け投手に)。二軍での登板を含む今季のピッチングをどう見ていましたか?
今中慎二(以下:今中)根尾はどうしてもフォアボールを出してしまうのと、先発にこだわりすぎていたことが気になっていました。自分が臨時コーチとして春季キャンプで指導した時も、「彼はリリーフのほうがチャンスがある」と思っていたんです。
たとえば、ロングリリーフ。今の野球では、ロングリリーフは大事なポジションです。まずは先発が崩れてしまった後の2イニングなどを投げるポジションで頑張って、結果を出してから先発へ、という順序のほうがいいと感じていました。先発にこだわりすぎて、慌ててしまったかなという印象です。
――春季キャンプで「リリーフのほうがチャンスがある」と思われたのは、先発ピッチャー陣の層が厚かったからでしょうか?
今中そうですね。キャンプで先発ピッチャーのメンツを見た時に、「ここに根尾が食い込んでいくのは現時点では難しいな」と。ただ、大野雄大や梅津晃大ら近年に手術をしたピッチャーは登板間隔を空けなければいけないし、「その部分はチャンスかな」と思っていたのですが......。結果的にはハマらなかったということですね。
――フォアボールを出してしまう原因はどこにあると思われますか?
今中先ほど(前編で)もお話しましたが、根尾の場合も精神的な問題が大きいような気がします。今の選手は技術がありますし、メンタルを強くすればストライクは入るんです。根尾も高校の時はそうだった。アマチュア時代にストライクを取るのに四苦八苦していた投手が、プロに入る例はあまりないですから。
では、なぜプロ入り後にストライクに入らないことが起きてしまうのか。自分も若い頃そうだったのですが、やっぱり"怖さ"なんです。ずっと「打たれちゃいけない」「フォアボールを出しちゃいけない」という意識があると、そうなってしまうんですよ。
――登板を重ねるなかで自信をつけていくしかない?
今中そう思います。今はいろいろな球種を持っていますが、一番投げる球種はやっぱり真っすぐ。そこに自信がないとしんどいです。いい真っすぐは、バッターが狙っていてもタイミングが合わなければ差し込まれたり、打ち損じたりするので、そこを突き詰めていかないと。
ファームで変化球を投げてコソコソ打ちとったところで、一軍ではなかなか通用しません。そこは、根尾がしっかり課題を持って投げていたかどうかが大事です。結果欲しさにファームで投げていたら、一軍では答えが出ない。ファームでは打たれてもいいですし、「自分が何をすべきか」が明確になっているかどうかを重視すべきです。もちろん結果を出して自信をつけて一軍へ、という選手もいますが、根尾はもう何年もやっているわけですし、大事なところはそこではないのかなと。
――来季はプロ7年目、投手としては4年目のシーズンを迎えます。
今中新しい部分をなんとか見せていかないと。監督が代わったからといって、基本的に根尾を見る目はあまり変わらないと思います。井上一樹監督が何か新しい部分を伸ばそうというように見てくれれば、またちょっと違った面が出る可能性はありますけど。今までと同じようなイメージで見られるとなれば、それを覆していくのはなかなか難しいと思います。
【ドラ1の金丸は「コンディションが万全になってから」】――続いてドラフト1位で指名した金丸夢斗投手についてお聞きします。ピッチングを見たことはありますか?
今中今年3月に、侍ジャパンのトップチームが欧州代表と強化試合をやりましたよね。その試合で投げていたのは少し見ました。
――同じ左ピッチャーとして、印象はいかがでしたか?
今中「いいボールを投げているな」と思いましたよ。特に真っすぐです。ただ、今年は腰痛に苦しんだとも聞きます。気になるのはそこなんですよ。腰をやってから、球威がガタっと落ちたという話を聞いていたので。
腰痛は、プロとしてやっていく上でつきまとう部分です。とはいえ中日も、それをわかったうえで指名しているわけですけどね。要は、今後どのようなプランでやっていくかということ。育成法しかり、起用法しかり、どういうポジションを与えてやっていくのかというのも注目です。
――開幕ローテーションに入れれば理想的だと思いますが、無理は禁物でしょうか。
今中入れればいいですが、先々のことを考えたら無理してそこに合わせる必要はないのかなと。仮に開幕ローテーションに入れたとして1カ月でパンクしてしまうよりも、じっくり調整して6月の交流戦明けぐらいからでもいいから、コンディションが万全になってから出すほうがいいと思います。
メディアや世間は「開幕一軍」「目標は新人王」などと言うと思いますが、周囲がそれをどう止めるかですね。大物ルーキーで注目されるので、首脳陣も使いたくなる気持ちも出てくると思いますが、止めることも必要です。根尾もそうだったじゃないですか。1年目の新人合同自主トレでの(右腓腹筋の)肉離れで出遅れていましたが、オーバーワークは禁物ですし、絶対に故障させたらダメ。金丸についても一番心配している部分はそこです。
――コンディションを整え、パフォーマンスをしっかり発揮するための準備が必要?
今中コンディションが整いさえすれば、1年目からでも通用すると思います。なので、ちょっと時間を要してでも慎重に起用していくのがベターかなと。特に"入り"が大事だと思います。どのあたりのタイミングで一軍へのゴーサインを出すか。焦らせてはいけませんし、1年やってバーンって終わってしまうようなことは避けたいところです。
――先ほど(前編で)、髙橋宏斗投手以外にもうひとり勝てるピッチャーがいれば全然違う、というお話をされていましたが、金丸投手もその候補に挙げられるかと思います。
今中宏斗と同学年ですよね。同学年といえば、松木平優太も来年どんな成長した姿を見せてくれるのか楽しみです。若いピッチャーたちが切磋琢磨してピッチャー陣を引っ張っていくようなことになれば理想的ですけどね。
――ただ、金丸投手の起用に関しては焦ってはいけない?
今中そうですね。柱になれる先発ピッチャーが揃っていないわけではないですから。今年は、宏斗以外は軒並み成績を伸ばせなかったのですが、全員が平均点より少し上ぐらいのピッチングをしてくれれば勝負になるはずです。そこにプラスアルファとしてルーキーや新戦力が何人か加わっていけるかがポイントになると思いますし、ルーキーに"おんぶにだっこ"みたいな状態は避けたいところです。
(後編:井上一樹新監督への期待立浪和義前監督が残したものを継承しつつ「自分の色を出せるか」>>)
【プロフィール】
◆今中慎二(いまなか・しんじ)
1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。
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