11月19日(火) 11:55
掌屈(しょうくつ)は手首を手の平(ヒラ)側へ曲げる動きですが、フェースが開いてスライスしてしまうゴルファーのほとんどが、この掌屈をうまく使えていないようです。とはいえ、掌屈し過ぎてもボールは左へフックしてしまうので、この加減が難しいのです。そこで本記事では、「左手首の掌屈」に焦点を当てて、メリットとデメリットやアマチュアが掌屈を使うべきタイミングをわかりやすく解説していきます。
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掌屈とは、手首を手の平(以下、ヒラ)側に曲げる動きを指し、ゴルフスイングにおいてクラブフェースの角度やボールの飛び方に大きく影響を与えます。英語では、手首を弓状に曲げることから「Bowed Wrist」と呼ばれ、特にスイングのトップやインパクトで重要な役割を果たします。
二の腕に力コブを作るときの手首の形を思い出すと、掌屈がイメージしやすいかもしれません。
左手首を掌屈するとクラブフェースは閉じる方向へ動くため、結果としてドローやフックのような左への球筋が出やすくなります。プロゴルファーでは、コリン・モリカワ(米国)やダスティン・ジョンソン(米国)、リー・トレヴィノ(米国)などが、トップで左手首を大胆に掌屈しています。
ゴルフスイングの手首の動きは掌屈だけでなく、いくつかの基本的な動きがあり、それぞれがスイングで重要な役割を担っています。
背屈は、手首をコウ側へ反るように曲げる動きで、英語で「Cupped Wrist」というため、カッピングと呼ばれることもあります。左手首を背屈するとクラブフェースが開くため、スライスに悩むゴルファーは、ダウンスイングでこの背屈が強くなっていることが多いといいます。
ウェイターがトレイを持つときの手首の形を想像すると、背屈がイメージしやすいです。
橈屈は手首を親指側へ曲げる動きで、アッパーヒンジやコッキングと呼ばれることもあります。橈屈は、スイングのタメに関わる動きなので、スイングのパワーを生む手首の使い方とされています。
一方の尺屈は、手首を小指側へ曲げる動きで、ダウンコックとも呼ばれています。インパクトでボールに向かってクラブをリリース(開放)するときに使います。
回内は、前腕を内側へ回す動きで、手のヒラを下に向けるときの動きです。
もう一方の回外は、前腕を外側へ回す動きで、手のヒラを上に向ける動きです。
回内と回外は、主にシャフトが寝たり立ったりする角度やフェースの開閉に影響します。
掌屈の使い方次第で、ショットの安定性や飛距離は大きく変わります。適切に使えば、ミスショットを減らし、飛距離を伸ばすことができますが、使いすぎると逆にミスショットや体の負担になることもあるため加減が重要です。
ここでは、掌屈のメリットとデメリットについて、それぞれ解説します。
掌屈のメリット
【1】クラブフェースが閉じやすくなる
【2】インパクトでボールを潰して打てる
【3】ハンドファーストに強くインパクトできる
掌屈のデメリット
【1】フックや引っかけのリスク
【2】飛距離が落ちることもある
【3】手首や腕への負担
掌屈を使うと、クラブフェースが閉じやすくなるため、スライスに悩むゴルファーは、スライスのミスを減らし、安定したドローボールが打ちやすくなります。
飛ばし屋のミンジー・リー(オーストラリア)もダウンスイングで掌屈をうまく使ってボールを捕まえているといいます。詳しい解説は、関連記事より「メジャー2勝のミンジー・リー、「掌屈」でシャフトを左に回し続けて平均265Y飛ばす!【世界で戦うドラテク】」をご覧ください。
掌屈を使うとロフト(フェースの傾いている角度)が立ち、ボールを強く潰して打てるようになります。これによりボールのコンプレッション(圧縮)が高まり、ボールをより遠くへ飛ばすことができます。
掌屈を適切に使うと、インパクトでハンドファーストの形が作りやすくなります。ボールをしっかりと押し込む力が増すので、力強いインパクトを生み出すことができるのです。
石川遼はコンパクトなトップから左手の掌屈を増やしたダウンスイングで、タメをより長く維持できるようになったといいます。少し古い記事ですが、関連記事より「3年間でどこが進化した?石川遼の静かで効率的に飛ばせるスイングを大検証【ちょっと細かい連続写真解説】」をご覧ください。
掌屈を強く使いすぎると、クラブフェースが過度に閉じてしまい、フックや引っかけ、低い弾道になりやすくなります。特に左に曲がるミスが多くなったときは、掌屈の大きさを調節する必要があります。
インパクトで左手を掌屈するとロフトが立つので、ヘッドスピードが十分でないゴルファーだと、球が上がらず飛距離が落ちてしまうことがあります。ヘッドスピードが十分でないゴルファーは、この点を考慮して掌屈を適度にコントロールできるといいでしょう。
掌屈を意識するあまり無理に手首を使いすぎると、手首や前腕に過剰な負担がかかり、痛みやケガにつながる可能性があります。手首のケガは、治りづらく再発しやすいので無理なく取り入れることが重要です。
「トップで左手首を掌屈することは必須だ」と考える人もいますが、実際には必ずしもそうではありません。
掌屈は、スイングでクラブフェースの向きをスクエアに保つための一つの手段に過ぎず、その必要性はグリップの握り方によって変わります。
グリップの握り方には、ストロンググリップ、ニュートラルグリップ、ウィークグリップの3種類がありますが、握り方によって、フェースの向きを調節できる範囲が異なります。
トップでフェースの向きをスクエア(リーディングエッジが斜め45度に向いた状態)にできるように、それぞれの握り方に合った手首の使い方を学びましょう。
3種類のグリップの握り方については、関連記事「ゴルフグリップの正しい握り方とは? 代表的な3つの握り方と手順、注意点を解説」で詳しく解説しています。
正面から見たとき左手のナックルが2個見える程度の握り方で、最もシンプルな基本の形です。ニュートラルグリップの人は、トップで左手首をフラット(平ら)な形にすると、フェースがスクエアになりやすいです。
このグリップは、トップで掌屈や背屈を意識しなくても、安定したショットを打つことができるスタイルといえます。
ストロンググリップは、左手のナックルが2〜3個以上見える握り方で、左手を上からしっかり握る形です。この握り方は、トップで左手首を少し背屈させると、クラブフェースがスクエアになりやすいのが特徴です。
ストロンググリップは、もともとフェースが開きにくい握り方なので、あえて掌屈を意識してスイングする必要はありません。スライスに悩んでいる人に向いている握り方といえます。
ウィークグリップは、左手のナックルが1個以下に見える握り方で、左手を下から握る形です。クラブフェースが開きやすい握り方なので、トップでは掌屈を意識的に取り入れて、フェースをスクエアに保つことが大切です。
特にウィークグリップでスライスに悩んでいるアマチュアは、左手をしっかり掌屈してフェースを閉じる必要があります。
アマチュアが掌屈を使うベストなタイミングは、スイングの「切り返し」です。このとき左手の掌屈を意識すると、ダウンスイングの早い段階でフェースをスクエアに整えることができるので、インパクトの精度を高めることができます。
ここでは、バックスイングからダウンスイングにかけての掌屈の使い方について解説します。
バックスイングでフェースが開きやすい、またはスライスに悩んでいる人は、まずフェースをスクエアにテークバックすることが大切です。手が腰の高さにきたとき、リーディングエッジが自分から見て11時〜12時を指す状態がスクエアなので、これよりも開いている場合は、左手首を少し掌屈してフェースの向きを調節しましょう。
また、バックスイングの後半でフェースが開く人は、手が胸の高さに達した時点で、左手を少しずつ掌屈し始めると、トップから切り返しの間でフェースをスクエアに保つことができます。バックスイングでフェースが開いてしまうと、ダウンスイングでの調整が難しくなるため、早い段階でスクエアなフェースをキープする意識が大切です。
ダウンスイングでは、インパクトに向けて徐々に掌屈を増やすことがポイントです。アマチュアに多く見られるミスは、左手を背屈してフェースが開いたトップから、ダウンスイングでさらに背屈を強めて打つスライスです。このようなスイングでは、インパクトの直前にフェースをスクエアに戻すことが非常に難しく、多くの場合成功しません。
ダウンスイングの初期段階から少しずつ掌屈を増やし、フェースをスクエアに保ちながらスムーズにインパクトを迎えることが理想的です。
バンカーショット、ピッチショットやロブショットなど、球を高く上げたいショットでは、左手の掌屈を使わずに背屈を意識する方が有効です。掌屈はフェースを閉じてしまうため、球を低く抑えるショットには適していますが、高い弾道を求めるショットには不向きです。
逆に、低く抑えた球を打ちたいときは、掌屈をしっかりキープすることで、低い弾道を打つことができます。
ゴルフスイングにおける手首の動きには、掌屈や背屈だけでなく、他にもさまざまな手首や前腕の動きが関わってきます。これらの動作は、スイング中のクラブの位置やフェースの向きに大きな影響を与えるため、タイミングよく使うことが大切です。ここでは、手首や前腕の主な動きがどのタイミングで使われるのかを詳しく解説します。
背屈はクラブフェースを開く動きなので、悪い動きだと考えられがちですが、通常、アドレスでは多くのゴルファーが左手首を軽く背屈しクラブを握っています。また、上級者やプロゴルファーの中には、フォロースルーで左手首を意識的に早く背屈することでフェースが返り過ぎないようにコントロールしてショットを打つ人もいます。
橈屈は、一般的にコッキングの動作として知られています。バックスイングでは、この橈屈を強めながらスイングしますが、アドレスからトップで変化する橈屈の角度は、20度ほどが理想とされています。過剰にコックを深くすると、橈屈すると同時に左手首が背屈してしまうため、結果としてクラブフェースが開いてしまう可能性があるためです。
尺屈は、手首を小指側に曲げる動きで、ダウンスイングからインパクトにかけてクラブを解放する動作に関わります。ただし、尺屈が早すぎるとタメが解けてしまい、インパクトで手元が浮くためダフリなどのミスにつながるリスクがあります。
前腕の回内と回外は、スイング中のシャフトの角度を調整するための重要な動作です。ダウンスイングで左前腕を回内する(右に捻る)とシャフトは寝た状態になり、反対に回外する(左に捻る)とシャフトが立ちます。また、インパクト直前に左手を回外(左に捻る)すると、クラブフェースが閉じやすくなります。
ここでアマチュアが気をつけたいのは、テークバックで両前腕を右に回旋し過ぎて、クラブヘッドをインサイドに引いてしまうミスです。フェースが大きく開きやすいので、スライスや右への打球に悩んでいる人にとっては注意が必要な動きの一つです。
トップで掌屈を使うべきかは、それぞれのスイングの癖やショットの傾向によって変わります。ここでは、自分に合った手首の使い方を見極めるための5つのステップを紹介します。
【1】ショットの傾向を分析する
【2】スイングを撮影し、トップのフェースの向きを確認する
【3】必要ならグリップを調整する
【4】スイングを3分割して掌屈を徐々に入れる練習をする
【5】道具を使って強制的に背屈を防ぐ
まずは、自分のショットの傾向を把握することから始めます。特定のターゲットに向かって20球ほど打ってみて、球筋や方向性のパターンを確認しましょう。芯に近い打点のショットを選び、明らかにミスヒットしたショットは除外します。この過程で、フックや低い球が多い人は、今以上に左手の掌屈を意識する必要はないといえます。
次に、スイングを撮影してトップでのフェースの向きを確認します。ここで、トップのフェースがスクエアでショットも安定しているなら、手首の形を変える必要はありません。
トップでフェースが開いているなら、掌屈を取り入れてフェースをスクエアに調節しましょう。鏡を見ながらトップの形を作り、フェースがスクエアになるまで手首の角度を調整します。このとき、必ずしも完全に手首を掌屈の形にする必要はありません。フェースがスクエアになったときの手首の形が、あなたに適したトップの形です。
この場合、ダウンスイングでの手首の使い方に問題があるかもしれません。フェースが開かないように掌屈を意識してダウンスイングを行うことで、右への曲がりが改善されるはずです。
手首の調整をしているとき、痛みや違和感がある場合は、グリップの握り方に問題があるかもしれません。グリップトレーナーなどの矯正器具を使用して、正しいクラブの握り方を確認し、その後もう一度スイングを撮影して、トップのフェースの向きをチェックしましょう。
スイングを「テークバックからトップ」「トップからハーフウェイダウン」「ハーフウェイダウンからインパクト」の3つに分けて、フェースの向きを確認しながらゆっくりと掌屈を取り入れる練習をします。
トップではリーディングエッジが斜め45度を向くようにし、ハーフウェイダウンではリーディングエッジが11時〜12時の方向を指すように調整しましょう。インパクトでは、出球が右に出るならフェースが開いていますし、左に出るならフェースが閉じているとわかります。手首の見え方にこだわらず、あくまでフェースがスクエアになるように、スイングを調整します。
どうしてもトップで背屈してフェースが開いてしまう人は、グローブと手のコウの間にボールペンを挟み、手首が背屈しないように動作を確認してみてください。そのままボールを打ったり、速いスピードでスイングすると手首をケガする可能性があるので、無理な練習はしないように注意して取り組みましょう。
掌屈は、クラブフェースを閉じ、インパクトでボールをしっかりとらえるための重要な動きです。特にスライスに悩むゴルファーは、適切なタイミングで掌屈を取り入れることで、フェースコントロールが向上し、安定したショットが打てるようになるでしょう。
自分のグリップタイプやショットの傾向を理解して、自分に合った手首の使い方を身につけることが上達のための大切なステップです。