『Octane』UKスタッフによる愛車レポート。今回は1969年アルファロメオ・スパイダーに乗るサムが、自分の愛車のレストア状況を神話になぞらえる。
【画像】丹念に進められているアルファロメオ・スパイダーのレストア(写真3点)
大学でアート&デザインの学位取得のために勉強していた頃、20世紀フランスの偉大なエッセイストであり、哲学者や記号学者でもあるロラン・バルトの本を読んだことがある。彼は、神話に登場するアルゴーという船についてのイメージを簡単に論じていた。アルゴナウタイ(アルゴの船員たち)の航海中、修理が必要になると、彼らは船の板や釘を少しずつ代用して修理に充てていった。その結果、船はまったく新しいものとなったが、おそらく”アルゴー”に対するイメージは変わらないだろうとバルトは考えている。
閑話休題。ケント州を拠点とするターナー・クラシックで、私のアルファは大きな局面を迎えた。シャシーとシェルの上部はほぼ無事だったが、この年代のアルファの多くがそうであるように、下部の4分の1程度は腐敗し始めていた。
最悪の錆と何度も失敗したMoTの修理箇所(多くが4〜5層の鋼鉄で構成)は、現在では切り取られ、新しい強固な部品に置き換えられている。3分割されたシルは、両方とも所定の位置にあり、車をまっすぐかつしっかりと支えている。フロント側シャシーの脚とアンチロールバーのマウントは、新調されている(バルトに言わせれば 「代用 」かもしれない)。前後のジャッキポイントは、再加工されている。床から落ちる可能性もあったので、両方のフロントフロアパンは新品にした。
しかし、これらの構造的かつ記号論的な置き換えにおいて、興味深いのはここからだ。ターナー・クラシックスのスタッフたちは、熱心に金属を除去してきた。腐敗した部分の周囲にある、問題ない、あるいは使用可能と思われる金属を、すべて取り除いて再加工した。例えば、古いフロアパンの上のオリジナルのシートスライダーブラケットは修理され、新しいフロアパンの上に固定された。ペダルボックスのプレートなどは錆を落とし、補強された。後部ははまだ多くの作業が必要だが、トランクリッドには事故と修理不良の様相が残っている(どちらも私の仕業でないことを強調しておく)。トップスキンの最後の8インチを除き、交換ではなく修理をしていく。
この原稿を書いている間にも、サスペンション、ブレーキ、トランスミッションなど、機械的なパーツの最後の部分が取り除かれている。私たちは、レストアやリニューアルについて再び話し、特に車のフィーリングに注目している。このアルファは、博物館の作品にはならないだろうが、間違いなくツーリングには出かけるだろう。なので、オリジナリティと経済的な現実のバランスを取りながら、安全性と信頼性を鑑みつつ、すべてのことを決めていく。
これは”アルゴー”でいうところの完全な代用品ではないが、何年も前に私がヨーロッパ中を走り回ったのと同じ車に戻るか、それとも、最新のパーツによって新しい車に生まれ変わるのか。一体どうなることだろう。
文:Sam Chick
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