11月18日(月) 11:50
何かを目指してめちゃめちゃがんばっているとか、正義のために闘っているということはない。ポジティブな発言で周囲の空気を変えたり、風変わりな行動で困惑させるということもない。小さな苛立ちやどうしようもないやりきれなさを持て余しながら、日々働き生活している。そんなごく普通の人々が登場する短編集だ。心がざわざわするようなことが起こるのだけれど、読み終わるとどの人もなんだか好きだなあと思う。根っこの部分にある真っ当さとか、近くにいる誰かに暑苦しくない程度に寄り添う優しさとか、そういうものをちゃんと持っている人たちだからなのだろう。
表題作「うそコンシェルジュ」と「続うそコンシェルジュ」の主人公・みのりは、趣味のイベントで知り合った女性・相沢さんにワンピースを作って渡す約束をしていた。しかし、相沢さんのある行動(SNS時代にありがちなヤツである)を知ってしまい、ワンピースを渡すことも会うこともしたくないと思うようになる。そこで、ばれないうそをついて円満に約束をキャンセルし、作ったワンピースは大学生の姪・佐紀にあげることにした。みのりのうそは、相手への気遣いもしてあり上手だ。事情を知った佐紀もそう思ったようで、みのりに相談を持ちかけてくる。
佐紀は女性ばかりの山歩きサークルに所属しているが、周囲からは人格者と思われている代表者が佐紀にだけちょっとした小言をいつも言ってくるのがストレスなのだという。やめたいと言っても引きとめられてきたが、ようやく退会できることになった。しかし、最後のお別れ旅行に誘われてしまい、それを断るためのうそを考えてほしいというのだ。
そんなサークルは嫌だなあ。行きたくないから「行きません」じゃダメなの?もしくは、お腹痛いとか言ってドタキャンしちゃえばいいじゃん......と単純な私は思ってしまうが、そうもいかない事情が佐紀にはある。みのりはユニークなうそを考えて自ら大学に乗りこんで協力する。そこまでしなくても......、と思うくらい手がこんでいるが、そのおかげで学生生活に悪い影響が及ぶことなく、佐紀はサークルから自由になれる。その後、みのりはさらに複雑で解決が難しい問題に、うそを考えるのが得意という立場で関わることになる。それぞれの顛末は大変読み応えがあり、解決方法はよく練られている。さすがうそコンシェルジュ!と拍手したいところだが、華麗なうそでみんながハッピーに......という気分爽快な展開にはならないのである。
「他人にうそをつくことは、それ以前にまず自分にうそをつくという工程を必要とする。それが平気な人もいるし、苦痛な人もいる」
あることがきっかけとなり、みのりはそのことに気がつく。たとえ誰かのためであっても、うそをつくことは自分の心に負担をかける。うそを考えることは得意だが、平気でつける人間ではないみのりは、人を助けることに成功しても、スッキリした気持ちにはなれないのだ。
しょうもない理由で2回も約束をキャンセルしてきた友人に対し、みのりが「うそをついてくれる方が楽だ」と思う場面が印象に残った。私も他人に対して全く同じように思ったことがあるし、相手に嫌な気持ちになってほしくないという理由で、うそをついたこともある。そんな自分の心の中には、何があったのだろうか。この小説を読まなければ、一生思い出さなかったかもしれないことについて、ずっと考えている。
(高頭佐和子)