11月17日(日) 22:20
国の遺族年金には遺族厚生年金のほかに、もう一つ、遺族基礎年金という制度があります。遺族基礎年金については、変更はありません。なお、遺族厚生年金を含む社会保障制度における「夫婦」とは事実婚が含まれるため、記事内の配偶者は事実婚の配偶者を含みます。
また、遺族厚生年金や遺族基礎年金における子とは「18歳になった後の最初の3月31日を迎えるまでの子(子に障害のある場合は20歳まで)」を意味します。これらの定義も、変更はありません。
今般の遺族厚生年金の見直し案で、対象になったのは「子のいない夫婦」です。では、「子のいない夫婦」は、どのようなときに遺族厚生年金を受け取ることができるのかについて、現行の制度を見ていきます。これは、男女で異なります。
まずは、女性から解説します。配偶者を亡くしたとき、女性が30歳以上の場合、遺族厚生年金を生涯にわたって受け取ることができます。配偶者を亡くした時点で30歳未満の場合、遺族厚生年金は5年間だけ受け取れます。
続いて男性です。配偶者を亡くした時点で男性の年齢が55歳以上の場合に、遺族厚生年金を「受け取る権利」が生じます。実際に受け取れるのは、60歳になってからです。なお、55歳未満の男性は遺族厚生年金を受け取ることができません。
先述の「子のいない夫婦」のうち、配偶者を亡くした時点で30歳未満の女性は、「遺族厚生年金は5年間だけ受け取れる」と書きました。この定義を「配偶者を亡くした時点で、20~50代の男女」に当てはめようというのが、今般の見直し案です。
つまり、「配偶者を亡くした時点で20~50代の者は、遺族厚生年金を5年間だけ受け取れる」というように見直されるのです。なお、女性については、時間をかけて段階的に見直し案に移行することになっています。
また、すでに遺族厚生年金を受け取っている方や、「子のいる夫婦」については、今般の見直しの対象になっていません。
厚生労働省は今般の見直し案の背景として、「女性の就業の進展、共働き世帯の増加等の社会経済状況の変化や制度上の男女差を解消していく観点を踏まえて」ということを挙げています。
確かに、夫婦ともに高年収なパワーカップルという言葉を散見しますし、さらに最近は、専業主婦(あるいは専業主夫)という言葉を聞く機会が減ったからかもしれません。
この見直し案が「現実のもの」となった場合、当然、生命保険や資産の保有の仕方などで見直しが必要になる可能性があります。先ほどから「子のいない夫婦」と書いていますが、皆さんが想像されているのは「実際に子どものいない夫婦」だけかもしれません。
しかし、当稿の冒頭を今一度ご確認ください。仮に20歳を過ぎた子どもがいたとしても、遺族基礎年金・遺族厚生年金の制度では「子ども」ではありません。
もし諸般の事情で、20歳を過ぎた子どもが働くことが難しい場合でも、あるいは配偶者のどちらかが働くことが難しい場合や、十分な収入を得られない場合でも、遺族厚生年金をあてにできるのは「配偶者を亡くしてから5年間」だけなのです。
一方で、子どもたちが自立した夫婦がともに50歳代の場合、夫婦のどちらかが亡くなっても、準備していた老後資金でカバーできるかもしれません。
逆に、年の差カップルは注意です。年下の配偶者が亡くなった場合は、もしかしたら5年間の遺族厚生年金でも何とかなるかもしれません。しかし、年上の配偶者が亡くなった場合には、残された年下の配偶者は、残った人生は長くとも、遺族厚生年金は5年間だけです。
「見直し案」が現実のものになるか断定はできません。しかし、これをきっかけに。生命保険や資産、場合によっては住宅の保有の仕方やローンなども見直しておいたほうがよいでしょう。
厚生労働省 遺族厚生年金制度等の見直しについて
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役
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