「変な脚」友だちの何気ない言葉で摂食障害に…。女子高生の闘病記『精神科病棟の青春』に、著者が込めた想いとは?

へん…か…?/(C)もつお/KADOKAWA

「変な脚」友だちの何気ない言葉で摂食障害に…。女子高生の闘病記『精神科病棟の青春』に、著者が込めた想いとは?

11月17日(日) 21:15

へん…か…?
【漫画を読む】『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』を最初から読む

身近な人にも理解されないことが多い、心の病。自分にはまったく関係のないことだと思っていませんか?日常のささいなきっかけで自らが当事者になったり、実は大切な人が苦しんでいたり…意外と身近に存在しているのです。

『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』は、摂食障害で体調を崩して精神科病棟に入院した高校生の物語。本作の主人公も、どこにでもいる普通の女子高生でした。摂食障害に陥ってしまったきっかけはなんだったのでしょうか…。

作品を描いたのは、話題のコミックエッセイ『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』の著者であるもつおさん。精神科病棟での入院生活をリアルに描いた本作は、自身の経験をベースにしたセミフィクションです。本作を通して、もつおさんが読者に伝えたいこととは?



■摂食障害に陥った女子高生の入院生活を描く

変な脚のままだよ⁉︎

急に息が苦しい…

「変な脚」
友だちが何気なく放ったひと言をきっかけに、摂食障害に陥った高校2年生のミモリ。体重は33kgにまで減り、体調を崩して入院したのは、大きな総合病院の精神科病棟でした。
鉄格子の窓が、お前はここから出られないと言っているようで…

まるで「ここから出られない」と言われているように感じる鉄格子のかかった窓、患者を一時的に隔離するための鍵のかかる部屋など、そこには他の病棟にはないものが…。

さらに、奇妙な行動をする他の入院患者たちに、「こんなところ、怖くて変な人しかいない」と、入院生活を受け入れらないミモリ。制限が多い入院生活に絶望し、逃げ出したい衝動に駆られ、涙する日々を送っていました。
自分が入院する時を思い出して…

ここ、そんなに怖くないですよ

しかし、そんなミモリの気持ちに少しずつ変化が訪れます。彼女が希望を見出せたのは、「怖くて変な人」だと思っていた入院患者たちとの交流のおかげでした。



■病棟での思い出が退院後の支えに

行ってらっしゃい

――現在は、ご自身の体験をもとに素晴らしい作品を描いているもつおさん。作中で「退院が闘病のゴールではない」とおっしゃっているように、退院後も辛い思いをしたり、過去の自分に戻ってしまいそうになったりしたこともあったと思います。そのような時は、どのように乗り越えてきたのでしょうか?

もつおさん:退院後のほうが辛いと思った時もあったし、また入院したいと泣いた日もありました。だけど退院する時に、元気になった私の姿を見て喜んでいた病棟の先生や看護師さん、見送ってくれた患者さんたちの顔を思い出すと、「頑張らなきゃ!」と思えてなんとか踏ん張っていたような気がします。全然ダメな日もありましたが…。

――入院していた当時の自分に声をかけてあげられるとしたら、どんなことを伝えますか?

もつおさん:当時を振り返ると周囲の人にたくさん心配をかけてしまったと感じていて、その後悔から過去の自分を責めるように思うことが多かったです。でも、この作品を描き上げてから読み返した時に、主人公に対して「頑張ったね」と背中を撫でてあげたくなったし、応援したくなりました。だから当時の自分にも色々言いたい事はあるけどとりあえず一旦置いておいて、「頑張ってるね」と言ってあげたいです。
頑張っていること、みんなわかっているからね


――まさに今、摂食障害に向き合っている方へのメッセージもお願いします。

もつおさん:よく同じ病気で闘っている方、つらい想いをされている方から、メッセージや感想をいただきます。難しいと感じることが多い病気なので「絶対治る」とは言い切れないけど、「絶対に良くなる道はある」と言い切ることはできると私は思っています。そのことを、これからも伝えていきたいです。



■まずは病気のことを知ってほしい

もう頑張ってるのに

こんなことなら、面会しなければよかった

―――主人公・ミモリの父親は、精神科病棟に娘が入院した事実を受け入れられないでいます。当時、もつおさんのお父様も同じような状況だったのでしょうか?

もつおさん:私の父も心の病気に理解があるほうではなかったので、当時の私はこれが普通なんだと思っていました。退院してからも、父の前では食事がとれなくなった時もあったりしました。

――作中に登場するトガワさんやモモタさんもそうですが、心の病気は家族や友人にもなかなか理解してもらえないことが多いのですね。もつおさんにとって辛い経験だったと思いますが、それを本作で描くことで読者に伝えたかったこと、感じてほしいことは何ですか?

もつおさん:なかなか本人の気持ちをわかってもらうことは難しいと思うし、家族を含め、周囲の人が全部を理解することはできなくて当たり前だと思います。だけど、もし病気について詳しく知らない・わかっていないという人がいたら、まず「知ること」が病気を理解することにつながると思うので、こうした本を描くことでもっと世の中の人が病気を知るきっかけになって、理解につながったらすごく嬉しいです。
少しずつちゃんと変わっているんだ


――今後はどのような作品を描いていきたいですか?

もつおさん:まだまだ入院していた時のエピソードはあるので、絵日記のような形で描いてSNSに投稿していきたいなと思っています。また、今までは自分の経験をもとにした作品を描いてきましたが、取材をして描くこともしてみたいし、ギャグに振り切った作品なんかも描いてみたいですね。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

もつおさん:この作品が好きだと言ってくださる方が多くて、本当に嬉しいです。自分の過去を、作品を、受け入れてもらえるか不安に思う時もありますが、読者の方に支えられて作品を描き続けることができています。これからも好きだと言ってもらえるような作品をお届けできるように頑張ります!

***

家族や周りの人たちに、病気のことをなかなか理解してもらえず苦しんできたもつおさん。入院生活で出会った人たちとの思い出を糧に、退院後も辛い時期を乗り越えてきたのですね。「病気を理解することは、その病気を知ることから」という、もつおさんの言葉が印象的でした。

取材・文=松田支信


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