劇場公開中の「SHOGUN 将軍」プロデューサーが明かす、真田広之の“すごみ”からシーズン2の進捗まで

劇場公開される「SHOGUN 将軍」のプロデューサー、宮川絵里子にインタビュー!/[c]Everett Collection/AFLO

劇場公開中の「SHOGUN 将軍」プロデューサーが明かす、真田広之の“すごみ”からシーズン2の進捗まで

11月16日(土) 11:30

アメリカのドラマ界最高の栄誉であるエミー賞で、史上最多の18部門を制した、ディズニープラスのドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」。日本でもこの快挙は大々的に報道され、祝福ムードが広がったことで、改めて大きな注目を集めた。そんな「SHOGUN 将軍」の第1話と第2話がエミー賞受賞企画として、11月16日~11月23日(土)の8日間、全国の一部劇場にて上映される。安土桃山時代から江戸時代に変わろうとしている日本の激動期を描いたこのドラマは、どんな軌跡をたどって作られていったのか。プロデューサーのひとり、宮川絵里子に話を聞いた。
【写真を見る】大量のトロフィーと共に記念撮影!エミー賞授賞式での「SHOGUN 将軍」チーム
クエンティン・タランティーノやマーティン・スコセッシらの作品に携わった経験を持つ宮川絵里子プロデューサー


■「現場での真田さんのキャパの大きさは唯一無二だと感じました」

『キル・ビル』(03)の映画製作に携わったことで映像制作の世界に飛び込んだ宮川は日本を描いた海外作品に多く関わる。「SHOGUN 将軍」の話が舞い込んだのは、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』(16)に関わっていたころのこと。「FXが『SHOGUN 将軍』の映像化の権利を手に入れて、製作が決定したのが11年前で、私が参加したのはその後の2016年ごろです。当時はジャスティン・マークスではなく、イギリス人のショーランナーの方が企画を進めていました。『沈黙-サイレンス-』とは時代設定も近いし、日本が舞台ですが海外で撮ったという共通点もあり、その流れでお声掛けしていただきました。真田広之さんと同じタイミングでの参加だったと思います。当初、真田さんは俳優としてのオファーでしたが、話し合いの中でプロデューサーも依頼されることになったんです」。

コロナ禍での撮影は苦労が絶えなかったと明かした

そもそもプロデューサーとは、なにをする仕事なのか?その仕事の幅は多岐に及ぶうえに、人によって役割が異なる。「私の仕事は、ざっくり言えば日本側のまとめ役です。スタッフやキャストをまとめる、そんな役回りでした。日本を描くうえで、関係者間での日本語の翻訳がスムーズに進むよう整えたり、日本から来たスタッフやキャストが現場で仕事をするうえで、最大限の力を発揮できるよう努めたり、ということですね。撮影後はポストプロダクションの現場にも入りましたし、マーケティングにも関わりましたから、振り返ると本当にいろいろなことをやってきたと思います」。まさに縁の下の力持ちである。

「SHOGUN 将軍」のショーランナー、ジャスティン・マークス

製作が本格的に動きだしたのは、『トップガン マーヴェリック』(22)の原案を手掛けたジャスティン・マークスがショーランナーに就任してから。しかし、そこにパンデミックが立ちはだかる。「日本からスタッフを呼ぶには特殊なビザが必要になった時期でした。日本も、撮影地のカナダも、人の行き来を禁じていましたからね。そんな状況で撮影するとなると、やはり大変でした。撮影期間は2021年の9月から10か月です。感染状況によって撮影が完全に止まったことも何度かありました。コロナ対策を設置して、週3回のPCR検査や濃厚接触の確認をやっていただいたのですが、それがとても厳しい基準で、濃厚接触者と認定されると撮影現場には行けなくなる。出演者がコロナに感染したことで降板し、その代わりを見つけなければならなかったこともあります。そうすると撮影スケジュールを変更せざるをえない状況にもなりますから」。大規模な作品だけに現場にいるスタッフやキャストの数も多くなる。そこに重なるパンデミック。製作管理を想像するだけで、こちらも胃が痛くなってくる。

主演、プロデューサーとして惜しみない情熱を本作に注いだ真田広之

「真田さんは、そういうなかで二重マスクにゴーグルをして、現場を動き回っていました。現場を離れても、レストランはもちろんスーパーにさえ行っていないと話していらっしゃいましたね。3か月程度ならいいけれど、それを10か月続けたのですから、本当にストイックに作品に打ち込んでらっしゃったんです」。製作の要であり、主演でもある彼がいなくなると現場の痛手も相当なものになる。真田広之の責任感の強さを物語るエピソードだ。

真田広之が並々ならぬ情熱をもって本作に取り組んだのは、多くのメディアで語られているとおり。「いつ寝てるんだろう?と思うほどでした」と、宮川は振り返る。「主演という大きな仕事をされながらも、撮影前にはセットからカメラまですべてをチェックして回っている。こんな細かいことまでしなくても…と思うこともありましたが、その姿がいつも本当に楽しそうで、イライラしている姿は一度も見たことがありません。ハリウッドで20年仕事をしてきて、初めてつかんだプロデューサーの仕事を存分に楽しんでいらっしゃいました。エキストラの方たちは、真田さんがそこにいるとは気付かなかったと思います。普段はスタッフらしい黒いジャージでマスクをして動き回っていらっしゃいましたから、ほかのスタッフと見分けがつかないんです」。

カメラの前の真田広之のすごみは、唯一無二!

そしてもちろん、武将・虎永を演じる真田のすごみは、ドラマに触れた方ならばよくご存知だろう。「一緒に製作の仕事をしながら、テントに入って皆で『寒い、寒い』といいながら談笑したりしていると、ついつい忘れてしまうんですが、一度虎永の衣装を着てカメラの前に立つとオーラがすごいんです。私たちも見ていて“おーっ!”となりますし、そんなふうに、スターだなあと思う瞬間は何度もありました。刀をひと振りしただけで、どこからともかく拍手が起こったり。現場での真田さんのキャパの大きさは唯一無二だと感じました」。

■「ストーリーそのものは普遍的だったと思います」

徹底的な歴史考証を重ね、ハリウッドスケールで描かれた「SHOGUN 将軍」

2024年2月に「SHOGUN 将軍」は配信が開始された。「配信当日はスタッフとワシントンDCにいました。皆でホテルのジャスティンの部屋に集まって、配信開始と同時にシャンパンで乾杯して、一緒に第1話を観たのはよい思い出です」と宮川は振り返る。その後、1週間おきに最新話が配信され、最後の第10話が公開された4月には注目すべきドラマとしての地位を築いていた。「SNSの盛り上がり方はすごかったと思います。とくに9話目でヒロイン、鞠子に起こる出来事の反響は本当に大きかった。北米の反応を見ていると、社会現象として広まっているような、そんな感覚はありました」。ほとんどが日本語のセリフである「SHOGUN 将軍」が英語圏で受け入れられたという事実は驚くほかない。「日本の戦国時代という、ビジュアル的にも哲学的にもおもしろい背景がありながらも、ストーリーそのものは普遍的だったと思います」と宮川は語る。「ゲーム・オブ・スローンズ」と比較して語られることもあったのは、そのためだろう。

クセ者の藪重を好演した浅野忠信

虎永や鞠子は人気キャラクターとなったが、インターネット・ミームとしては浅野忠信が演じた虎永の家臣、藪重や、穂志もえかが扮する藤がファンの間では人気だったという。「藪重も藤もそうですが、撮影している段階から楽しかったんですよ。藪重は浅野さんがすごく考えて、役を作り込んで演じられていましたが、その姿がおもしろいので、私たちもモニター越しに見ているだけでニコニコしてしまうんです。藤も同様です。リアクションの表情が独特で、見ていて楽しくなる。そのような要素が実際に作品の中でも活きていたので、世界中の視聴者が私たちと同じような反応をしているんじゃないでしょうか」。

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インターネットの“祭”の状態は配信が好評であることの表われ。しかし、本物の祭は、やはりエミー賞だろう。最多25部門にノミネートされたことからも、「SHOGUN 将軍」の注目度の高さがうかがえる。「メリル・ストリープやジョディ・フォスターのようなビッグネームがたくさんレッドカーペットを歩いているようところで、皆が『「SHOGUN 将軍」、すごくよかったよ』と声をかけてくれる。中心的な作品に関わった立場として、そんな場に自分がいることが正直、信じられませんでした。あの舞台に立ったことは、“すごい経験をしてしまった”という想いがありましたね」と宮川は振り返る。作品賞を受賞した瞬間は、「もちろんうれしかったのですが、むしろホッとしました」とのこと。長きにわたって携わってきた大きな“祭”が、ひとまずここで終了した。

■「こだわりのディテールが、大きなスクリーンではさらに楽しめると思います」

この好評を受けて、「SHOGUN 将軍」は、いよいよ映画館のスクリーンで上映されることになる。その際の見どころはどこになるのだろう?「大画面でぜひ観ていただきたいです。エミー賞では撮影賞や美術賞、音響賞などの技術部門も受賞しましたし、それほど技術的にもクオリティの高い作品ですから。照明にもこだわりがあって、あの時代の灯りの度合いを再現していますし、音に関しても刀を抜く音や振る音など、ひとつひとつを真田さんがすべてチェックして作っています。そんなディテールが、大きなスクリーンでは、さらに楽しめると思います」。

「SHOGUN 将軍」の世界を大スクリーンで観られるチャンス!

気になるのは製作が決定したというシーズン2。虎永や按針のその後や、関ケ原の戦いがどう再現されるかなど、興味は尽きないが現時点では内容についてはなにも決まっていないという。「脚本の制作は7月から進めていて、ジャスティンら脚本班が鋭意制作中です。それがある程度かたちになった段階でスタジオに提出し、撮影にゴーが出ると思いますが、現段階では脚本の完成を、首を長くして待っている状態です。とにかく、シーズン1を超えるようなおもしろいものを作ろうと、私たちも盛り上がっているところですね」。シーズン1のファンはさらに首を長くして待つことになるだろうが、ともかく楽しみでしかない。

取材・文/相馬学


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