経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社ペッパーフードサービスの業績について紹介したいと思います。
ペッパーフードサービスと言えば、「ペッパーランチ」や「いきなり!ステーキ」などの新業態店を生み出した企業です。価格破壊をもたらし、手頃でいつでも食べられるステーキを提供してきました。しかしオープンから僅か6年で500店舗を目前としていた、いきなり!ステーキも現在では約180店舗しかありません。同社を代表するペッパーランチも2020年に売却済みで、他社が運営しています。急成長からなぜ転落したのか、ペッパーフードの歴史を振り返りたいと思います。
「客が焼く」スタイルで大成功
ペッパーフードサービスは1970年に開業した「キッチンくに」がルーツです。創業者は山王ホテルで修業し、独立を経て開業に至りました。1987年にはステーキレストランの「ステーキくに」を両国で開業します。とはいえ多店舗展開には至らず、数店舗の規模でとどまりました。同社が世に知られるようになったのは94年に「ペッパーランチ」を開業してからです。
当時は不景気下にあり、牛肉の輸入自由化でステーキ価格が低下していた時代。ステーキ業態を展開する同社も価格競争にあえいでいました。その切り札として開業したのがペッパーランチです。電磁調理器で客が自ら焼くスタイルを確立、プロのコックを減らすことに成功したほか、サッと食べるスタイルで高回転率化に成功しました。当初のランチ価格は680円で、ステーキに価格破壊をもたらしました。
ペッパーランチはFC展開し、2003年にはフードコート業態を開発。2004年には100号店を開店しました。海外展開にも積極的で、2003年から2005年にかけて韓国・中国などに出店、東南アジアを中心に展開しました。むしろ海外の方が店舗数は多く、ペッパーフードから別会社に移る前の19年2月末段階で525店舗中、339店舗が海外店です。主な出店先はインドネシア、フィリピン、タイ、中国などです。
いきなり!ステーキで急成長
ペッパーフードサービスは「いきなり!ステーキ」事業でも成功しました。初出店は2013年12月の銀座4丁目店。米と肉を一緒に提供するペッパーランチに対し、いきなり!ステーキは名称通り、ステーキを主軸としています。「俺のフレンチ」に着想を得たとされ、当初の立ち食いスタイル(2016年頃から座るスタイルが主となる)とオーダーカット制が注目を浴び、同社のヒット作となりました。狭い店舗を高い回転率で運営することにより低価格化に成功。1,000~2,000円台でステーキを気軽に食べられる店舗は少なく、瞬く間に店舗数を拡大しました。
出店から僅か2年後にはいきなり!ステーキ事業の売上高が84.5億円と、ペッパーランチ事業の52.0億円を上回り、同事業が主力事業となりました。2016年度には100店舗、18年度には300店舗を達成し、2019年12月期末時点で490店舗となりました。
拡大を続けた結果、「共食い」で業績が悪化
規模拡大を続ける一方、いきなり!ステーキの収益性は悪化していました。18年度で53.1億円だった同事業のセグメント利益は19年12月期には19.2億円まで縮小し、20年12月期にはコロナ禍も影響して赤字に転落します。業績が急に悪化したのは、過剰な出店によって店舗同士の「共食い」が発生したためです。
400~500店舗といえば現在の「かつや」や「なか卯」と同じ程度の規模。そもそもステーキを食べる習慣は定着しておらず、話題性に支えられていたいきなり!ステーキは、急に業績が悪化することとなりました。19年度は既存店の客数が前年より3割も減りました。FCより直営店が多いことも、業績悪化に拍車をかけました。
前述の通り19年度末時点で店舗数は490。再建のため、当時339店舗を展開していたペッパーランチ事業をPEファンドに売却せざるを得ませんでした。ちなみに現在ではホットパレットが運営しており、国内外で500店舗を運営するなどペッパーランチは今でも健在です。
不採算店を閉鎖し、着実な成長を目指す
近年はコロナ禍の影響もあって事業は悪化。ペッパーフードサービスは不採算店の閉鎖を進めました。2019年12月期から23年12月期の業績は次の通りです(数値はいきなり!ステーキ事業単体)。
売上高:571億円→270億円→175億円→136億円→138億円
セグメント利益:19.2億円→▲17.3億円→3.7億円→2.4億円→8.7億円
国内店舗数:490店→287店→226店→206店→186店
再建過程で「肉マイレージカード」のサービスを改悪したほか、オーダーカットを撤廃するなど、固定客を掴んでいた施策を取りやめ、メニューも以前より大幅に絞り込みました。こうした施策はファンからの批判が多かったものの、不採算店の閉鎖で見事に収益は改善しました。今年9月末時点で177店舗を展開し、規模縮小も落ち着きつつあります。
急な出店で失敗したいきなり!ステーキですが、都市部において同種の業態は少なく、固定ファンも多く存在します。以前ほどの規模にまで再拡大することはないでしょうが、今後は細々と事業を続けることでしょう。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。Twitter:@shin_yamaguchi_
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