11月16日(土) 11:00
「台本を読んだとき、自然と涙が流れました。私が演じるのり子は、ハルという少女に救われたんだろうなあ、と。何にもとらわれない、素直でありのままのハルの優しさにグッときて、台本の最後のページに『のり子、ハルに出会えてよかったね』と感想を書いてしまうほどでした」
最新主演映画『ルート29』(公開中)で、他人とのコミュニケーションが苦手な女性・のり子を演じた綾瀬はるか(39)。ひとりぼっちののり子が、風変わりな女の子・ハル(大沢一菜)との旅で強まる絆によって、空っぽな心に初めてさまざまな“感情”が満ちていく。笑顔を封印し、抑制の利いた演技で新境地を開いた綾瀬は、「これまでの経験を全て手放す作業だった」と振り返った。
「撮影初日、のり子が旅に出るきっかけとなる女性と会話をするシーンで、監督から『そこに存在するだけでいい。伝えようとしないでください』と言われて、最初は難しいなあと思ったんです。でも、やっているうちに、他者の存在を全く意識しないのがのり子という人なんだな、とだんだんつかめてきて。彼女を演じるには、これまで培ってきたものを、一度壊すことが必要なんだなあと思いました」
苦労したが、やりがいもあったという難役。完成した映画を見終わったとき、「10代のころの自分の芝居を思い出した」とも。
「経験を積むと技術は身につきますが、作り込むことが多くなります。でも、昔の私は、ぬぼーっと何も考えずにお芝居をしていたなあと思って(笑)。のり子の、そこにいることに気づかないほどさりげなく存在している感じと重なって、懐かしい気持ちになりました。このタイミングで、そういう役に出合えてよかった……」
――自分のなかに大きな宇宙があって、そのおかげで心が満たされているような豊かな人――。監督はのり子をそう表現したというが、綾瀬自身がそういう人ではないだろうか。
「監督もそう言ってくださったんですけど、私自身、意外に周りの目や意見を気にしておびえているタイプなんです。今回、監督が発する言葉が本当に素敵で、ハッとさせられることが多くて。心の小さなひだみたいなものを繊細に捉えてくださる演出がすごく好きでした」
そして、これから迎える40代の抱負を聞くと、ふだんどおり気負いのない言葉が返ってきた。
「こういう役がやりたいみたいなものは、相変わらずあまりないんです。ただ、見てくださる人が、何かしら心が動くようなものはやりたいなあって、それだけですね」
(ヘアメーク:中野明海/スタイリング:吉田恵)
【衣装協力】
ジャンプスーツ:デ・プレ(デ・プレ)