「13万円で幸せに暮らす」を支援する不動産屋さん、「仕事4割は地域活動」280超のプロジェクト行う大里綜合管理・千葉県大網白里市

(画像提供/大里綜合管理)

「13万円で幸せに暮らす」を支援する不動産屋さん、「仕事4割は地域活動」280超のプロジェクト行う大里綜合管理・千葉県大網白里市

11月15日(金) 7:00

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千葉県に「お役に立つのは当たり前」と考え、障がい者や低所得者、高齢者など、住宅を借りたいけれど借りられずに困っている人の支援を行う大里綜合管理という不動産会社があります。その活動は、本業である不動産管理・仲介、住宅の設計・施工管理のほか、280以上の地域活動など、多岐にわたります。

会社としてこれらの活動にどのように取り組んでいるのか、大里綜合管理の代表取締役会長野老真理子(ところ・まりこ)さん、代表取締役社長石井俊晴(いしい・としはる)さん、居住支援担当の笠置健人(かさぎ・たけひと)さんにお話を聞きました。

280を超える地域活動「仕事の4割は地域活動に充てる時間」

大里綜合管理は、千葉県大網白里市で不動産の維持管理や売買・賃貸仲介を本業とする会社です。
1975年、野老さんの母が遠方に住む土地所有者の代わりに草刈りをするなど、不動産の管理を請け負う会社として創業。現在、約5500件の土地と300件ほどの建物を管理する会社に成長しました。

経営理念は「一隅(いちぐう)を照らす」。これは、困っている人の「お役に立つ」ことだと言います。周りの「困った」という声に耳を傾けているうちに、大里綜合管理の取り組みは不動産の管理・仲介にとどまらず、280以上に及ぶ地域活動やボランティアにまで広がりました。全ての社員が「仕事の4割は地域活動に充てる時間」として取り組んでいます。

その活動はイベント開催のほか、駅前の交通整理や近所の外国人労働者への日本語教育など、実にバラエティーに富んでいます。現在は、社員とパート合わせて20人弱。広告費ゼロで年商4億円~5億円を上げているそう。

「ポイントは、お金をかけるのではなく、できることをやること。自分たちの時間と労働はマイナスだと思っていません。もちろん、無理に義務化して活動しているわけではなく、社員にはライフワークの範囲で取り組める内容を、と伝えています。ライフワークとして取り組むうちに、自分たちで何でもできるようになります」(石井さん)

2024年5月に50周年記念イベントを開催したときの様子。老若男女、多くの人が集まった(画像提供/大里綜合管理)
2024年5月に50周年記念イベントを開催したときの様子。老若男女、多くの人が集まった(画像提供/大里綜合管理)

1階は事務所兼コンサートホール、2階はレストランの不動産会社社屋

活動が広がったきっかけは20年前、大網白里市に本社の社屋を建てるために土地を購入したこと。広さは約200坪と、20人弱の規模の会社としては広すぎる印象ですが、活動の主軸が困っている人の「お役に立つ」ことなので、余裕のあるスペースは、さまざまな取り組みに活かされるようになりました。

大里綜合管理の社屋外観(画像提供/大里綜合管理)
大里綜合管理の社屋外観(画像提供/大里綜合管理)

訪れる人から「料理が得意で、昔はよく人にふるまっていたけど、今は家に誰もいないからつくることもなくなった」という話を聞けば、会社の2階を利用して社員に食事をふるまうレストランを始めます。そのうち、同じように食事を提供したい地域の主婦が日替わりでレストランを営む「ワンデイシェフレストラン」として、地域の人たちが集う店になりました。

大里綜合管理の社屋の2階はレストランになっている。最初は社員のためのものだったが、今では多くの人が訪れるように(画像提供/大里綜合管理)
大里綜合管理の社屋の2階はレストランになっている。最初は社員のためのものだったが、今では多くの人が訪れるように(画像提供/大里綜合管理)

また、社屋にあるグランドピアノを見た主婦が「私の娘は音楽大学を卒業したけど、活躍する場がないの」と漏らせば、1階の打ち合わせスペースを活用。5分でコンサートホールに変え、さまざまなコンサートを開催しています。

1階の打ち合わせスペースを活用してコンサートを実施。有料で月に数回、無料のお昼休みコンサートはほぼ毎週開催している(画像提供/大里綜合管理)
1階の打ち合わせスペースを活用してコンサートを実施。有料で月に数回、無料のお昼休みコンサートはほぼ毎週開催している(画像提供/大里綜合管理)

住まいに困る人を自社の所有物件と管理物件を中心に受け入れ

地域の人たちの「困った」に応えているうちに、大里綜合管理にはさまざまな相談が寄せられるようになりました。不動産の相談などに訪れる人は年間約6000人、レストランやコンサートなど地域活動に関わりのある人たちは年間3万人にのぼります。それぞれの「困った」を拾い、それに「なんとかして応えられないか」「役に立てないか」と取り組んでいるのです。

大里綜合管理には自社や会長の野老さんが所有する物件が20戸ほどあり、大家さんから管理を任されている住宅が約300件あります。これらの物件を活用できないかと考えたこともそのひとつです。

大里綜合管理の所有物件で、住まいの確保に配慮が必要な人たちにも提供しているアパート(画像提供/大里綜合管理)
大里綜合管理の所有物件で、住まいの確保に配慮が必要な人たちにも提供しているアパート(画像提供/大里綜合管理)

「グループホームに住んでいた40代の精神障がいのある男性が『自立したい』ということで、その希望に応えるために自社の所有物件に受け入れ、就労継続支援作業所に通うサポートなどをしていました。また、車中泊をしていて辛いという人に貸すこともあります」(笠置さん)

働くところが見つからない人には、自社の仕事を任せることも。
以前、生活保護を受けて、引きこもりのような生活をしていた青年を案じたケースワーカーから相談を受け、青年に草刈りの仕事をお願いすることにしました。結果、青年は引きこもりから脱出し、今や同社のチームリーダーに育っているそうです。

創業当初から大里綜合管理の主業である土地の管理と草刈りの仕事が、働き先がない人の受け皿となることも(画像提供/大里綜合管理)
創業当初から大里綜合管理の主業である土地の管理と草刈りの仕事が、働き先がない人の受け皿となることも(画像提供/大里綜合管理)

「不動産屋が“家を借りたい人に貸す”のは当たり前」

入居に配慮が必要な人たちを受け入れることは決して簡単ではないはずです。それでも石井さんは「不動産屋が借りたい人に貸すのは当たり前」だと言います。

「先日は、うちでアパートを紹介して入居した人のゴミの出し方について、近隣に住む人から『ルール通りじゃない』と苦情がありました。そのように苦情を受けることは日常茶飯事です。多様な人が入居しているので、いろいろなことが起こるのは当然。生活への配慮が必要な人でなくても、家賃滞納などは起こります。何かあるたびになんとかするだけです」(石井さん)

大里綜合管理は、2017年の住宅セーフティネット法の改正とともに居住支援法人(※)を指定する制度が始まってすぐに申請手続きを行い、千葉県より指定されました。野老さんが生活困窮者自立支援法を制定する際の審議員の一人だったこともあり、申請をして千葉県からの指定を受けましたが、居住支援法人になる20年前から地域活動に取り組み、配慮が必要な人たちの住まいのサポートを行っています。

「管理をしている物件の大家さんにはいろいろな方がおり、配慮が必要な人の入居を敬遠する大家さんもいます。しかし、『もし何かあったときには、私たちに連絡をいただければ対応するから』と説明すれば貸してくれる方も多いのです。『どうすれば住まいを提供できるか?』と考え、自社の所有物件を有効活用したり、家賃保証会社と連携するなど、検討できる方法がたくさんあります」(石井さん)

※居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等

「気づく訓練」でスタッフ育成。「地域活動=社員教育」

常に地域の「困った」とその解決に奔走する大里総合管理のスタッフですが、従事する業務の4割が地域活動と聞くと、事業の収支が成り立つのかどうかが気になります。しかし、石井さんは「不動産会社なので、きちんと家賃を払っていただければ確実に収益につながる」と言います。また、「収益を上げられなければ続かないので、地域活動においても収益性はシビア見ている」とも。

「コンサートをやるなら、1人2,000円で50人を集めます。そうすれば、収入は10万円です。そのほとんどは演奏してくださる方に払う費用になりますが、コンサートなどのイベントを開催するために必要な『集客』の業務はあらゆる事業につながる社員教育として、社員総出で徹底的に行います」(石井さん)

大里総合管理では社員教育として他に「気づく訓練」を行っています。これは20年以上前、草刈りの現場で人身事故を起こしたときに、業務の危険性に気づけなかった反省からできた訓練だと言います。

「気づく訓練として、毎日1時間、環境整備(会社の掃除)を行います。掃除をして、掃除をする前と後で何が違うのか、何か問題に気づいたか、その問題をどうしたかを問う訓練です」(笠置さん)

毎日1時間掃除をする、業務の4割は地域活動に充てるなど、独自の考え方や教育方法に「ついていけない」と会社を辞める人もいましたが、一方で「正しいことを誠実に一生懸命やる、困っている人のお役に立つ」という同社の思いに共感して集う人もまた大勢います。そのため、採用で困ることはないそうです。

気づく訓練として毎日1時間行われる環境整備(会社の掃除)の様子(画像提供/大里綜合管理)
気づく訓練として毎日1時間行われる環境整備(会社の掃除)の様子(画像提供/大里綜合管理)

さらに大里綜合管理ではエリア内外の多くの人へ向けて「13万円の小さな暮らし」というプロジェクトを推進しています。これは「所得が低くても、豊かに暮らす」をコンセプトに、家賃・食費・通信光熱費など含めて1カ月13万円で暮らすことを提唱するもの。1週間のうち4日間働いて、3日間を休日に。その休日を人助けに充てることで、地域で「お互いさま」の仕組みをつくります。

「昨今、日本全国で起きていることですが、お給料が上がっても物価が上がれば、実態として『豊か』とはいえません。右肩上がりの経済にこだわらず、世の中のお役に立ち、『ありがとう』の言葉や気持ちと一緒に賃金を貰えばいいのです。

所得が低くても豊かに暮らすためには、マイホームが安く買えたり、低い賃料で借りられたりすることが大事。空き家問題がクローズアップされている昨今、世の中には借り手のつかない住宅も出てきています。そのような空き家・空室を貸してもらうことで、3万円でも大家さんの収入になり、借りる人にとっては居心地のいい場所になるようにするにはどうしたらいいのかを考え、実践しています」(野老さん)

住まいの確保に配慮が必要な人が抱えている事情は人それぞれですが、「低所得でも豊かに暮らす」という考え方は、これからの暮らし方を考えるうえで一つの指針を示しているように感じます。大里総合管理では、「13万円の小さな暮らし」プロジェクトを含め、あらゆる取り組みであえて仕組み化を行わず、属人的にその時その時の「困った」に適した方法を考えて行動しています。スタッフ一人ひとりの「気づき」を活かし、豊かな暮らしを追求するその姿勢には、学べることが数多くあるのではないでしょうか。

●取材協力
大里綜合管理株式会社


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