今回で3回目の開催となる「日本ホラー映画大賞」の授賞式が11月16日にグランドシネマサンシャイン池袋にて開催され、大賞並びに各賞の最終選考を務めた選考委員長の清水崇監督、選考委員の堀未央奈、映像クリエイター・監督・声優のFROGMAN、Base Ball Bearの小出祐介、映画ジャーナリストの宇野維正、ゆりやんレトリィバァが出席した。
【写真を見る】大賞は片桐絵梨子の『夏の午後、おるすばんをしているの』が受賞!大賞受賞を励みに新しい映画を作っていきたいと語った
「日本ホラー映画大賞」はホラー映像作家の発掘、支援を目指し、“ホラー”ジャンルに絞った一般公募による日本初のフィルムコンペティション。大賞授賞者には商業映画監督デビューが約束されており、「第1回日本ホラー映画大賞」大賞を受賞した下津優太監督は『みなに幸あれ』(23)で長編映画監督デビューを果たし、「第2回日本ホラー映画大賞」大賞を受賞した近藤亮太監督も、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年1月24日公開)での商業監督デビューが控えている。
選考委員長を務めた清水監督は、授賞式前の挨拶で「大賞をとれなくてもめげないで!」と呼びかけ、今回受賞を逃したとしても次、次と作品を作り続けて欲しいと念押し。学生時代には作品完成させることができず、自身は「友達の映画制作を黙々と手伝っていた男」だと振り返り、「そんな男が25年ホラー映画を作ってきました。めげなくて大丈夫です!」と笑顔でエールを送った。
授賞式では大賞を含めて9つの賞が発表された。本年度の大賞は片桐絵梨子の『夏の午後、おるすばんをしているの』が受賞。選考ポイントについて清水監督は「実は、彼女をよく知っている」と前置きし、「だからと言ってひいきではないです!」とキッパリ。選考委員全員の意見がほぼ一致していたと強調し、「皆さんが『いや、もうこれは!』という感じで。文句なしにこの作品が対象になりました。僕はちょっと複雑な想いもありましたが、選考委員の皆さん全員の『間違いない!』との言葉に納得したし、僕も彼女には才能があると改めて再認識させていただきました」と文句なしの大賞受賞だと伝えた。
清水監督の賛辞に「光栄に思います」と答えた片桐監督は「清水監督のことを20代のころから尊敬しています」と感謝。子どものころの不安や孤独、記憶を夏の情景のなかで描きたいと思ったところからスタートしたという本作は、小さな奇跡の瞬間を積み重ねての完成だったとしみじみ。時折涙声になりながら「私にとっては宝物のような作品です。映画館のスクリーンで上映され、皆さんに観ていただき嬉しく思っています」とニッコリ。続けて「これを励みに新しい映画を作っていきたいと思います」と力強く宣言し、大きな拍手を浴びていた。
受賞後には選考委員による講評トークショーを開催。清水監督は「今回はレベルが高い!」と興奮気味に語り、個人的には大賞をはじめ受賞作と同じくらいの点数をつけた作品があると告白。レベルの高さは選考委員全員が感じ、実際に話題にも出ていたようで、宇野は過去2回の大賞受賞者が完成させた作品に触れ、宇野は「長編映画が商業作品として実現する。こんな賞はない。清水監督の監修も利いているけれど、レベルが上がっているし、気軽に出せなくなっている感じがある」と語り、応募のハードルが上がっている印象を受けているようだ。2人の話に大きく頷いた小出は「レベルが高いがゆえに選考会の時間も長かった」とも話し、選考委員らは3回目の開催にして、かなりハイレベルなコンペティションになっているとも指摘していた。
小さいころからホラー映画が大好きでたくさんの作品を観てきたと明かした堀は「シンプルに怖いものが多かった。手で(目を)隠して隙間から観るくらいクオリティがあがっていました」と笑顔。作品を観る際には1人では観られないと予想し、ホラー好きの友人を誘って一緒に観るほど、怖い作品が多かったとホラー映画好きとして、大満足の選考時間だったとも話していた。2度目の選考委員となるゆりやんレトリィバァは「全部怖いし、おもしろい!」と大きめの身振り手振りを交えて感想を伝える。ホラーにはたくさん種類があると気付いたとし、「技術的なことは分からなかったので魂が揺れたのを重視してコメントを書きました」と自身の審査方法を解説する場面もあった。
FROGMANは映像、音などの技術的な部分のレベルが上がっているとし、「我々の審査のレベルも上がった」と説明。「芝居が、脚本が、まで求めるようになったくらい」と補足したFROGMANは、「ハイレベルな戦いだった。3年目でこれ。10年20年続いたら末恐ろしい…」と、応募作品のレベルの高さに唸っていた。
傾向としては黒沢清監督作品的なものが多かったとの声も。宇野は「A24が始めたアートホラーのようなものっていうのかな。海外にも通じちゃうよ、と感じるものも多かった」とコメント。「オチは観客に委ねるものも多かった」と感想を語った清水監督は「エンタメとしてのバランスも必要。商業映画になると、分かりやすいジャンプスケアを入れるようにとのオーダーもある」とし、分かりやすいもの、オチを委ねるのではなく作品内で完結させるものも欲しいと正直な気持ちも伝えていた。このコンペティションの特徴は商業映画デビューができること。それを踏まえて小出は「せっかく商業映画デビューができるので、派手な作品を作って欲しい!」とエンタメ系作品の応募もリクエスト。FROGMANはツールの発達に触れ「カメラもツールもよくなっている。いまはスマホでも劇場映画が撮れる時代。映像で差をつけるのはできないってなると、大事なのは本の部分」と話し、作品にいるもの、いらないものを見極め、ちゃんと切れるかどうかも重要な作業になってくるとも指摘していた。
締めの挨拶で清水監督は「回を重ねるたびに、楽しがって(自分の)ライバルを増やそうとしているのかと思ってしまって…」と苦笑いしながらも前日の上映会にも足を運び、映画館のスクリーンで作品を楽しんだと笑顔を見せる。「いろんな方に挑戦して欲しい。大賞を目指して応募するだろうけれど、大賞を目指して媚びるより自分にしかないものを作って欲しい。僕も勉強になるものがありました」と伝え、第4回の開催をいち観客としても楽しみにしていると微笑んでいた。
取材・文/タナカシノブ
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