「松本人志VS文春」裁判記録に書かれていた“衝撃の事実”。松本氏側が提出した“異例すぎる証拠”も明らかに

写真/産経新聞社

「松本人志VS文春」裁判記録に書かれていた“衝撃の事実”。松本氏側が提出した“異例すぎる証拠”も明らかに

11月15日(金) 8:54

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お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏(61)の性加害を報じた「週刊文春」の記事をめぐり、発行元の文藝春秋などに対して約5億5000万円の賠償を求めた裁判について、11月8日に松本氏側が「訴えの取下げ」を公表。今年1月の提訴から291日に及んだ裁判は、意外な幕引きとなった。

「事実無根なので闘いまーす」と表明した松本氏が、なぜ自ら闘いに終止符を打つに至ったのか。

そして、“松本人志裁判はなんだったのか”。筆者は、「訴えの取下げ」を公表後に裁判記録を閲覧して、核心に迫ろうとした。

「訴え取下げの理由」を弁護士がコメント

11月8日、午後1時過ぎ。ネットニュースに、「松本人志さん訴え取り下げへ」という見出しが躍った。

同日夕方、松本氏の訴訟代理人の田代政弘弁護士らは、連名で「松本人志氏と㈱文藝春秋らとの間における訴訟に関するお知らせ」と題したコメントを法律事務所の公式HPに掲載。同様に、被告の文藝春秋社もコメントを「文春オンライン」に掲載した。

田代弁護士らはコメントで、次のように発表した。

「松本人志は裁判を進めるなかで、関係者と協議等を続けてまいりましたが、松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました。そのうえで、裁判を進めることで、これ以上、多くの方々にご負担・ご迷惑をお掛けすることは避けたいと考え、訴えを取り下げることといたしました」

続けて、「松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました。参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます」と謝意を表した。

松本氏は、「週刊文春」による性加害報道で名誉が毀損されたとして、損害賠償請求と謝罪記事の掲載を求めて、今年1月22日に東京地裁(高木勝己裁判長)へ提訴。請求額は、5億5205万円。裁判終結まで4・5年の長期間を要すると予想されたが、提訴から291日にして“呆気ない”結末となった。

訴えの取り下げは「最善の策」との見方も

法律上、「訴えの取下げ」は、双方の同意を必要とする。それゆえ、被告の文春側も「訴えの取下げ」に同意したということになる。

仮に、文春側が白黒を判決でハッキリさせたいとして同意しなければ、裁判は継続される。そして、松本氏側が立証に失敗した場合には「敗訴」となってしまうのだ。それだけはどうしても避けたい、松本氏側はそう考えたのだろう。

実際に、今回の発表されたコメントは、松本氏側が9行に対して、文春側は4行と短い。「訴えの取下げ」について文春側は、「女性らと協議のうえ、被告として取下げに同意することにしました」と週刊文春編集長のコメントだけだった。

松本氏側のコメントについて、X(旧Twitter)では「松本さん側が白旗をあげたように読み取れる」との投稿が散見された。このまま争っていても勝ち目がないのならば、判決で「性加害」の可能性が言及される前に、裁判を終わらせたい。むやみに、松本氏の活動休止期間を長引かせないためにも、立証手段として有効な証拠がない以上は、「訴えの取下げ」は最善の方法なのかもしれない。

裁判記録から紐解く“松本人志裁判の全貌”

名実ともに芸能界の頂点に君臨している松本氏。そんな人物が活動を休止してまで邁進した今回の裁判は、一体なんだったのか。筆者は、松本氏側の「訴えの取下げ」の核心に迫るべく、11月13日に裁判記録を閲覧した。

これまで多数の裁判記録を閲覧してきた筆者は、裁判記録の綴りの厚さを見て、「5億円の裁判にしては薄い」と感じた。表紙から数ページ開いていくと、11月8日付けで松本氏側の「取下書」と、文春側の「同意書」があった。

「頭書事件につき、原告は、都合により、被告らに対する訴えの全部を取り下げます」(「取下書」(2024年11月8日付け))

「頭書事件につき、被告らは、原告の訴え取下げに同意します」(「同意書」(同日付け))

「原告は、都合により」、詳しい理由は記載されていない。ただ、裁判記録をめくっていくと、松本氏側が自ら終止符を打った理由が見えてきた。

松本氏は「女性のLINEアカウント」も文春側に要求

この裁判は、開始段階から先行きが怪しかったのかもしれない。

松本氏側が提出した「訴状」には、賠償額について「筆舌に尽くし難い精神的損害を受けたのであるから、原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は5億円を下らない」と書かれていた。しかし、約5億円もの高額を請求しているのに、その内訳は不明のまま。

松本氏が性加害をしていないということを立証する証拠はなく、週刊文春の該当ページを引用して「原告の名誉を毀損するものであることは明らか」と主張するだけ。松本氏が性加害をしていないことなどを具体的に説明せず、あまりにも歯切れが悪いのだ。

さらに、松本氏側は「準備書面1」(2024年3月28日付け)で「審理の迅速化」と「記憶喚起」を理由に、記事上で「A子さん」「B子さん」と氏名が伏せられていた被害者とされる女性の氏名だけではなく、「LINEアカウント」や容貌・容姿が分かる写真までも文春側へ要求。文春側を「原告の上記主張は信じ難いものである」と呆れさせていた。

暴露系配信者のSNS投稿も証拠として提出

しまいには、松本氏側が「被告らが異常なほど感情的に反発してきたことに、困惑しているところである」と述べつつ、甲第6号証として暴露系配信者がSNS上にA子さん・B子さんの氏名を特定したと投稿した内容を証拠として提出した。

ただ、そんな暴露系配信者の真偽不明な投稿を、裁判官が証拠として評価するわけがない。松本氏側もわかっていたはずでは……。当然、個人が特定されるものとして、証拠説明書にも閲覧制限がかかり、黒塗りとなっていた。

文春側の「準備書面」に書かれていたこと

双方でA子さん・B子さんの氏名などを開示の有無で押し問答が続いていた最中、8月14日の弁論準備期日を前に文春側が動き出した。

文春側は全19ページに及ぶ「準備書面」(2024年8月7日付け)と、取材メモなど20点の証拠を提出。これまでの押し問答とは異なり、記事内容の「真実性」という、最大の論題へ舵を切ったのだ。

この書面には、2020年7月の取材から2023年12月の記事掲載まで、取材の経緯や方法などが事細かく記述されている。例えば、2020年7月中旬にとある芸人の不倫記事を読んだA子さんが、知人の弁護士を介して週刊文春へ「ある女性が『○○さん(注:筆者で名前を伏せた)のことが記事になるのであれば、私はもっと酷いことをされた』と話している。その相手は松本人志さんです」と告発したことなど。

他にも、文春の記者はA子さんに、ホワイトボードに現場見取図を書かせるなどして、実際に現場同様のホテルの一室で実況見分をしていた。取材メモは、まさしく刑事事件の裁判記録のような緻密さ。

さらには、B子さんの交際相手にも取材をしており、「当時の僕が推察するに、彼女が泣きながら電話をしてきた時点で『これは松ちゃんとの間で何かあったな』と感じた」などの証言を得ている。

文春側は「原告の主張が全くの虚偽である」と主張

文春側は、A子さんが当時のことについて、参加者が金髪にした松本氏に対して、「芸能人でこれだけ金髪の似合う方はいませんよ」とおべっかを使っていたことを記憶しているなどから、女性らの証言は「具体性、迫真性に富んだもの」と評価。同書面で、「原告は、個別具体的な認否を避け、(略)概括的な否認をするにとどまるが、この原告の主張が全くの虚偽であることは明らかである」と結語した。

同書面の提出を受け、8月14日の弁論準備期日は取り消しに。改めて、11月11日に指定されたが、松本さん側はその3日前の同月8日に「訴えの取下げ」をした。

この裁判は、大御所芸能人「松本人志」に文春側や世間が振り回された、不毛な争いだったのかもしれない。“松本人志裁判はなんだったのか”、意味を見出すのには時間がかかりそうだ。

文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。

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