江戸時代の平均寿命は30歳代だったと言われているそうだ。今は人生100年時代となり、昔よりも遥かに人間の寿命は伸びている。寿命が伸び便利で暮らしやすい社会になった一方で、「老害」という言葉があるように、身の回りでは老人によるいただけないトラブルが多発しているようだ。
両親と二世帯住居で暮らしている田口圭吾さん(仮名・50歳)は、「最近、強烈に記憶に残る出来事がありました……」と、ばつが悪そうな様子で口を開いた。
駐車場で起こった些細な出来事で様子が急変
親子三世代でショッピングセンターに食事に出かけていた時のことだそうだ。
「75歳になる父は『そろそろ免許返納だよね』と言いながらもよく運転するんです。その日の帰りも父が運転することになり、駐車場から車を出そうとしていました。僕は会計時に駐車場代の無料サービス券をもらったことを思い出し『サービス券もらったよ』と運転席にいる父に渡しました。本来であれば先に駐車券を入れてからサービス券を入れるという順序なのですが、この時父は不注意でサービス券を駐車券よりも先に入れてしまったんです。すると機械が止まって動かなくなってしまいました」
慌てる周りの家族に対し、田口さんのお父さんはため息をついて明らかに機嫌が悪くなったそうだ。
70代男性二人の言い争いがヒートアップ
「機械がうんともすんとも言わなくなってしまったので、呼び出しボタンを押して係員を呼んだのですが、その時の父はかなり逆ギレモードでした。江戸っ子育ちの父は喧嘩っ早いところがあり、『こっちはちゃんと入れたのにおたくの機械が動かなくなったんだけど!』と状況説明もかなり攻撃的で……。家族の前ということもあり、自分の非を認めなくなかったのだと思いますが、これからやってくる方が不憫でなんだか申し訳ないなと感じていました。
数分後、やってきたのは父とちょうど同い歳くらいの70代くらいの警備員です。ここで驚いたのは、警備員も父に負けないくらい好戦的な態度でやってきたという点です。定年退職はしてそうでしたが、体格がよくてまだまだ元気いっぱいという感じの男性でした。喧嘩口調の父に対し『何だこの人は……』と向こうも威圧感を全面に出してきたのだと思います(笑)。『あのね、あなたがサービス券を先に入れてしまうからいけないんですよ。わかります?』と警備員による圧が強めの返しに対し『何をっ!』と睨み返す父。その場は最悪な雰囲気になりました。『やろうってぇのか!この野郎!』と父が声を荒げると、『あなた恥ずかしいですよ。いい歳なんだから』とピシャリと返す警備員。戸惑っている家族をよそに、二人はどんどんヒートアップしていきました」
静かに時が過ぎるのを待つしかなかった
どちらも一歩も引こうとしない老人同士の不毛なバトル。田口さんたちは『一刻も早くその場を去りたい……』と羞恥心を感じつつも、静かに時が過ぎるのを待つしかなかったという。
「結局車は手動で出してもらいましたが、父はあからさまに舌打ちをし、その後も不機嫌モードでした。途中から後続車が列をなして待っていたので、老人同士の言い合いは自分の親ながらかなり恥ずかしかったですね」
地獄のような10分間でした、と苦笑する田口さん。
歳を重ねるにつれ、自分のミスを素直に謝れない人は少なくない。しかし、いくつになっても「素直さ」や「思いやり」は人間として当たり前の感覚として忘れずに持っておきたいものだ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。趣味はポーカーとサウナ、ホラー映画鑑賞。広告代理店・制作会社を経てフリーランスのブロガー兼ライターに。婚活ブログ『アラサー女の婚活談義』と生きることをテーマにした『IKIRU.』を運営中。体験談の執筆を得意としている。X(旧Twitter):@IKIRUwithfun
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