閉ざされた飛行機内で、隣の乗客が異臭を放っていると、快適なはずのフライトが不快になる。筆者は過去に当サイト(日刊SPA!)で「飛行機の隣に“太りすぎた客”が来たら?」を執筆したが、今回の対象者は目に見えるものではない。
臭気を放つ顧客のため、チェックインカウンターや搭乗ゲートを気付かれずに進み、機内に入ってしまうケースがある。このような場合でも慌てず冷静に行動することが大事だ。
世界の香水市場の消費を知る
ニオイといえば香水だ。世界的に見て日本市場での香水の消費量の大小はどうなのだろうか。欧州の調査会社「ユーロモニター」の調べでは、
香水を日常的に使用する量が多い国には、ラテンアメリカ、中東、北アフリカが含まれる。
特にラテンアメリカや中東・北アフリカの地域では、香水の使用が日常的な習慣であり、西ヨーロッパも香水の使用量が多い地域とされ、フランスやイギリスなどでは香水は高価で高品質なものが好まれると言う。
日本を含む東アジア系人種の体臭はさほど強くないのが調査結果に出ていることから、日本発着の機内では本事例は稀なケースであることと言えるのだろうか。実は、インバウンド旅行客の増加で往復ともに他国の旅行客の搭乗は多く、可能性は大きい。
異臭が健康に及ぼす影響
飛行機は閉ざされた空間であり、異臭が他の乗客の健康へ影響し、頭痛や吐き気、さらには呼吸器系に重篤な影響が出る場合まである。アメリカのWEBメディア「Live and Let's Fly」では、異臭の起こる原因として、体臭だけではなく、きつい香水や整髪料の使用だけでなく、マリファナ、トリメチルアミン尿症疾患などがあると紹介している。
予防策として、飛行機に乗る際には、自分を守るためのアイテムを用意することも重要だ。マスクや消臭スプレー、好みの香水を用意して使用することで異臭を和らげることが出来る。例えば、持参したマスクに少量の香水をしみ込ませたティッシュを挟めばかなり耐えられるものだ。
また、ヘッドフォンを使って音楽を聴くことで、精神的な負担を軽減することも可能となる。
航空会社の防衛
エアライン側の対応にはどのようなものがあるのか。機内では、特に搭乗時にボーディング・アロマなどと宣伝することで客室内全体に香料を使用し、お客様を迎えるというサービスが行われたことがあった。
これは幾度となくアイデアには上がったものの、乗客全員が心地よいと感じる香気を作るのはとても難しいという結論に至り、断念した航空会社がある。飛行機の搭乗時に音楽が流れる「ボーディング・ミュージック」は一般化し、搭乗時の一時的なものとして耳からの情報は受け入れられやすいものの、匂いの好みはとても複雑であることが関係しているようだ。
布おしぼりが一般的であったころ、しみ込ませていたオーデコロンは、地中海の強い日差しをイメージさせるという「4711 ポーチュガル」であることが多かった。
現在で残されているのは、一部のエアラインにてラバトリーに置かれたコロンやほぼ全てのエアラインで用意のあるソープの匂いであることが多い。
覚えておきたい約款の存在
前回の記事で体格の良い客が隣に来た場合にも述べた内容であるが、
エアラインには「運送約款」が存在する。これは輸送の責任範囲を述べた文章であり、この内容に準じることで、搭乗者の権利として快適な輸送を保証されており、同時にエアラインは利用者に快適な輸送環境を整える必要があることを述べている。
主な対応としては、満席便以外であれば座席の変更がある。飛行中のトラブルに備えて航空会社の運送約款や対応策を事前に確認しておくことが推奨される。ほぼどのエアラインもホームページの最下段から閲覧することができる。
結論として、単純と思われるかもしれないが、隣席の乗客が強い異臭を放っている場合の最も適切な対応は、早急に客室乗務員への報告をすることである。不快感が強いものの、実際に目に見えるものではないため、他の乗客と協力することも有効である。複数で報告することで、迅速な対応が促進されることが多い。満席便でないかぎり、別の席が用意されるだろう。
離着陸時のトラブル事例
異臭問題は、さらに複雑化することがある。前述の旅行サイトの情報では、アムステルダムからモロッコ王国のカサブランカに向かうエア・アラビア・モロッコ航空の機内で発生したある事例では、着陸の準備でシートベルトサインが点灯している際に、乗客がトイレに行こうとし、客室乗務員に制止されたにもかかわらず、強行した事例が発生した。
離着陸時はラバトリーの鍵を客室乗務員がロックすることがあり、使用できなかった当該旅客が最終的にはギャレーの床に排便してしまうという事態が発生した。この便に同乗した旅客には同情の念を禁じ得ない。このような場合に密閉空間の恐ろしさがある。
最後に、筆者が実際に経験した機内での異臭騒ぎの話で締めくくろう。欧州から日本への帰国便機内での出来事だ。ほとんどの乗客は照明が消された暗い客室で安眠していた。夜間に客室乗務員は頻繁に通路を歩くことはない。数十分間隔で水分補給のために飲み物を持ってまわるくらいだ。それがその便に限って客室乗務員がうろうろするではないか。
夜間飛行の異臭騒ぎ
それも手に懐中電灯を持っている。明らかに何かを探している様子であった。ほどなくして捜索は終わったようでまた静かな機内に戻った。
その後、すえた匂いが機内を充満していた記憶が残る。
当時、取材のために搭乗していた私は客室乗務員に「何事だったのか」を聞いてみた。すると、欧州で航海の仕事が終わった船員が本国に帰るための移動中であったのだが、その船員が深酒で前後不覚になり、ギャレーをラバトリーと間違えて、用を足してしまったと聞いた。
ギャレーの床は水浸し。客室乗務員は彼が脱ぎ捨てて行方不明にしてしまったパンツの行方を捜していたのだと言う。客室乗務員はそれこそ液体と臭気との戦いであったと回想している。
この話は、30年以上昔のジャンボジェット機内での出来事である。客室乗務員にここだけの話として聞いたものであるが、すでに時効であろうと公開させていただいた。航空機内は人生の縮図であり、色々なことが起こるものだ。機内では、搭乗者全員が快適に過ごすことができる工夫がされている。もし、当該状況に遭遇したら、冷静に行動に移して貰いたい。
<TEXT/北島幸司>
【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「Avian Wing」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing
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