10月30日に東京・日本青年館ホテルにて、今年7月12日に88歳で逝去された小原乃梨子さんのお別れの会がしめやかに執り行われた。お別れ会には多くの作品に出演してきた故人を偲んで、声優や親交のあった関係者ら約250人が参列。一般献花に訪れたファン100人とともにその別れを悼んだ。

小原乃梨子さんは1935年10月2日に東京で生まれ、高校卒業を期に劇団の先輩の紹介でプロダクションに所属。民放テレビ開局当時のドラマやCM、ラジオなどに女優として出演。1957年にはアメリカのテレビドラマ『ソニー号空飛ぶ冒険』のヘレン役として外国映画の日本語吹替声優として初レギュラーの座を掴むや、それ以降数多くの洋画や海外ドラマに出演した女優の吹替を担当。『可愛い悪魔』（イヴェット・モーデ役）、『私生活』（ジル役）、『ラムの大通り』（リンダ役）のブリジッド・バルドー、『あなただけ今晩は』（イルマ役）、『画家とモデル』（ベシー役）、『愛と喝采の日々』（ディーディー役）のシャーリー・マクレーン、『コールガール』（ブリー・ダニエルズ役）、『黄昏』（チェルシー・セアー・ウェイン役）、『チャイナ・シンドローム』（キンバリー・ウェルズ役）のジェーン・フォンダなど世界的名女優の声を演じてきた。

1960年代半ばからは洋画と並行してアニメ声優としても活躍。『未来少年コナン』のコナン、『アルプスの少女ハイジ』のペーター、国民的アニメ『ドラえもん』の野比のび太、さらには『UFOロボ グレンダイザー』のルビーナ王女や『超時空要塞マクロス』のクローディア・ラサール、『タイムボカン』シリーズのドロンジョをはじめとした悪玉トリオのリーダー役など、少年から大人の女性まで幅広いキャラクターを演じ、多くのファンを魅了し続けた。

晩年には講演活動とともに童話の朗読活動などに力を入れ、1998年からは『小原乃梨子の読み聞かせ講座』を全国に展開。朗読の指導や読み聞かせの研究を生涯のライフワークとして大切におこなっていたほか、カルチャースクールや後進の育成にも力を尽くした。その後闘病生活を続け、7月12日にその生涯を閉じることとなった。

お別れの会の会場には小原さんの好きだったというバラを中心に2500本の花々で彩られた祭壇が設置され、優しく微笑む小原さんの遺影とともに『ドラえもん』の野比のび太や『未来少年コナン』のコナン、『タイムボカン』シリーズのドロンジョのパネルが飾られた。

黙祷と生前の仕事を綴った映像に続いて、発起人代表であり長男として挨拶に立った戸部敦夫（アニメーター＆キャラクターデザイナー）は、「私としては母親であり、それ以上でも以下でもない存在ではありますが、いろいろな作品を受け取っていただいた皆さまの方が、声優としての小原乃梨子に心近いものがあるのではないかと思っています」とお別れ会に集まってくれた多くの関係者やファンに向けて感謝の言葉を述べていた。

参列者を代表して挨拶に立った日本アニメーション代表取締役社長で日本動画協会理事長の石川和子は、小原さんについて「類い希な声と表現力で、世代を超えてアニメファンは勇気と感動と夢をいただきました。その声とメッセージは私たち、そして多くのアニメファンの心に刻まれていくと思います」と長年の声優としての活躍を賞賛。「明るく優しい人柄でアフレコの現場を盛り立て、温かく包み込んでくださいました。小原さんとお仕事ができましたことは幸せでしたし、かけがえのない宝物だと思っています」とアニメ業界を支えた仲間との別れを悲しんでいた。

また今回のお別れの会発起人共同代表で小原さんの所属事務所”81プロデュース”代表取締役社長の南沢道義は、闘病中だった小原さんのお見舞いに何度も訪れていたそうで「優しく微笑みながら語りかけてくれて、逆に励まされた気持ちになって胸が一杯になりました。その上品な笑顔はあの頃のままで、新米マネージャーとして出会った40数年前のままの笑顔でした」とそのときのようすを懐かしげに回想。小原さんが参加されての配信番組のリモート出演なども予定されていたそうで、それが永遠に叶わなくなってしまったことを残念がっていた。
また9月29日に亡くなったドラえもん役の大山のぶ代さんの訃報についても触れ、「なんという巡り合わせなのでしょうか。ドラえもんとのび太はどこまでの仲良しで一緒なんだと思いました。今頃は天国で藤子・Ｆ・不二雄と再開をして楽しく語り合っている姿が目に浮かびます」と幸せな光景を想像しつつ、「小原さん、素晴らしい表現者人生でした」の言葉で締めくくった。

参加者による献花が厳かにおこなわれた後は、小原さんと生前親しかった声優の仕事仲間たちが取材に応じてくれることに。『超時空要塞マクロス』のブルーノ・J・グローバル役などで共演した羽佐間道夫は、小原さんについて「アニメの先生ですね」と一言。羽佐間がウッディ・アレン、小原さんがダイアン・キートンを演じた洋画吹替の現場では、ふたりだけで見つめ合って吹替をしたそうで、「そんなの初めてのことでしたので非常に印象に残っています」という収録裏話を語ってくれた。

『ドラえもん』のしずかちゃん役として小原と四半世紀以上にわたってアフレコをともにしてきた野村道子は、「『のび太さん』『しずかちゃん』って26年間、本当にこの間ペコさんが……大山のぶ代さんが亡くなったんですけど、三人で本当によく遊びました」とプライベートでも親しかった間柄を偲ばせる思い出話を披露。今は亡き『ドラえもん』の初期メンバー五人組のことが思い浮かんだのか「私だけになっちゃったっていうのが」とさびしそうに微笑みつつ、「あとの残りの時間を一生懸命楽しもうかなと思います」と言葉を紡いでくれた。

『タイムパトロール隊オタスケマン』の主人公であるオタスケマン1号／星野光役として、悪玉三人組”オジャママン”のアターシャ役を演じた小原さんと一年間共演したという水島裕は、その頃小原さんから「裕くん」と呼ばれていたとのこと。セコビッチ役の八奈見乗児からは「裕ちゃーん」、セコビッチ役のたてかべ和也さんには「裕！」と三者三様の呼ばれ方をされていたそうで、「呼ばれ方にも個性があったなっていう思い出があります。本当にお世話になりました」と今は亡き三人を偲んでいた。

また大山のぶ代さんに代わってドラえもん役を演じる水田わさびは「新人時代に『ドラえもん』に何度も出演させていただいてたんですが、のび太くんは一番しゃべってる役なのに発声方法とか後輩指導をしてくれました。今自分がドラえもん演じててそんな余裕はないので、なんて後輩想いな先輩だったんだろうって、すごく気づいています」とその優しい人柄を懐かしみながら感謝のコメント。スタジオでの出で立ちは「花が咲くような感じ」だったそうで、そんな水田の印象に「エレガントだよね」と水島も納得といったようすとなっていた。

同じく『ドラえもん』でしずかちゃん役を野村から引き継いだかかずゆみは「共演というのはなかったですけど、小原さんのやっていたペーターもドロンジョ様も、もちろんのび太くんも大好きです」と自身も小原さんのファンだったと告白。「作品とともに思い出にすごく残る仕事なんだなと改めて責任感を感じましたし、小原さんのように皆さまの心に残るように私たちも頑張っていきたいなって思いました」とこれからの声優人生への決意を新たにしていた。

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●小原乃梨子さんお別れ会、挨拶のことば
発起人代表・故人長男
戸部敦夫（アニメーター＆キャラクターデザイナー）
小原乃梨子、本名戸部法子は7月12日に静かに去っていきました。その際に家族葬をおこなっておりましたが、今回81プロデュースさんのご厚意でこうして小原乃梨子としてのお別れの会をという申し出をいただき、こういう素晴らしい会を催すことができました。
私としては母親・戸部法子、それ以上でもそれ以下でもない存在ではありますが、小原乃梨子としては私よりもお仕事仲間、もしくは役者としての仕事を通じていろんな作品を受け取っていただいた皆さまの方が心近いものがあるのではないかと私は思っております。
改めて今日はどうもありがとうございました。

参列者代表
石川和子（お別れの会発起人共同代表で小原さんの所属事務所”81プロデュース”代表取締役社長）
長年にわたりアニメ業界にご尽力いただきました、小原乃梨子さんに感謝の気持ちを込めまして一言ご挨拶を申し上げたいと思います。
小原さんの類い希なる声、そして表現力、世代を超えて私たちアニメのファンは皆勇気と感動を夢をいただきました。小原さんが届けてくださいました。『ドラえもん』の初代のび太役、『ヤッターマン』のドロンジョ役、『未来少年』コナンのコナン役、そしてもっともっとたくさんの作品を演じてくださいました。そして作品を通して多くのメッセージを届けてくださいました。その声とメッセージは私たち、そして多くのアニメファンの心に刻まれていくこととなります。
小原さんはお仕事の現場でも役作りに真摯に取り組んでくださいました。そして明るいお優しいお人柄で現場を盛り立て、いつもいつもアフレコの現場を温かく包み込んでくださいました。そのように小原さんとお仕事できました私たちは、本当に幸せですしかけがえのない宝物だと思っています。もっともっと小原さんから学びたいことがありました。もっともっとお仕事ご一緒したかったです。でも小原さんはきっと雲の上でアニメーション業界のことを見守り、そしてこれからも応援してくださると思っています。
改めまして小原さんに感謝申し上げ、そして素晴らしいご功績を後世に残していくことをお近い申し上げます。小原さん、本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした。どうぞごゆっくりお休みくださいませ。ありがとうございました。

お別れの会発起人共同代表
南沢道義（”81プロデュース”代表取締役社長）
7月12日深夜、スタッフからのメールでスタッフからのメールで小原乃梨子さんの訃報を知りました。小原さんは長い間闘病生活を続けておりましたが、日々の生活は常に明るく過ごされ、前向きに病と向き合っていた、そのように看護師さんから闘病のようすをお聞きしました。何度かお見舞いにうかがった際にも「『ずいぶ時間が経ちましたね』、ゆっくりと優しく微笑みながらそのように語りかけていただきました。逆に励まされたようなかたちとなり、厳しい状態の中での配慮に胸がいっぱいになりました。上品な笑顔は新米マネージャーとして40数年前に出会ったあの頃のままでした。
この春配信スタジオ「81チャンネル」が完成し、所属キャストによる朗読やトークショー、そして音楽ライブなどのコンテンツ配信を間近に控えて、私たち社内は多忙にしておりました。小原さんの大切にしていた後輩たちとの朗読劇や、お世話になった監督、音響ディレクターとのトークショーなどさまざまなものを企画し、小原さんに伝えていただきました。『楽しみにしています」とのメッセージも届き、リモートでもいいのでなんとか実現しようと私たちは希望をもって準備を進めておりました。残念ながら演じて来た数々のキャラクターたちの声を日本中の、世界中のファンの皆さんへ届けることはかないませんでした。
今、アニメの現場を中心に声優の存在は世界中の若者たちに支持され、演じた声は時空をはるかに超えて夢や希望を届けています。小原さんの功績の賜物です。最後まで変わらぬ気品あふれる女優、小原乃梨子さん。声優トップランナーとして外国映画からアニメーション、子供・ニュース番組、イベントや舞台公演、そして執筆活動と幅広いジャンルで活動していただきました。昭和、平成、令和を駆け抜けました。特に男の子のキャラや妖艶な美女の役柄は他のキャストの追随を許さないほど天才的でありました。それらのキャラクターたちは元気に次の時代に生き続けていくと思います。
大切な文化としてその声、お芝居は次世代の声優たちに伝わっていくものと信じています。種を植え、発芽をさせ、実りを迎える。小原さんは晩年いろんな経験を通して後輩たちの指導にも尽力し、精力的に舞台講演を続けました。たくさんの取材にも対応していただき、多くの方の皆さんと交流をし、とても上手だった趣味のゴルフや乗馬を楽しんでいた小原乃梨子さんでした。「華やかで、美しく、密やかに」その修飾語が似合う希有な存在の声優さんでありました。訃報に接してキャストや仕事の関係者から惜しむ声をたくさんいただきました。先日配信した番組「追悼番組～小原乃梨子さん、ありがとう～」は数千人ものファンの方たちに視聴していただきました。改めて小原乃梨子さんの存在の大きさに気づかされました。
先日長年の盟友であった大山のぶ代さんの訃報が届きました。なんという巡り合わせなのでしょうか。ドラえもんとのび太はどこまでも仲良しで一緒になるんだと思いました。今頃は天国で藤子・Ｆ・不二雄先生と再会をし、楽しく語り合っている姿が浮かびます。今年はたくさんの声優仲間たちが亡くなり星となりました。綺麗に輝くその星たちは亡くなられた先輩たちの光かもしれません。これからも声優業界を照らし続けてほしい、一番新しい星となられた小原乃梨子さんに対する最後のお願いであります。
本日は小原乃梨子さんが生前にお世話になったたくさんの方々がお別れに来ていただきました。もう声のない小原さんに代わりまして、長い間のご指導とご支援、心より深く感謝をし、御礼を申し上げます。最後に小原乃梨子さんへ、業界の仲間たちとファンの皆さまとともに、本当にありがとうございました。このお言葉を贈らせていただきます。小原さん、素晴らしい表現者人生でした。

●故人と関わりの深いキャストコメント
羽佐間道夫（アニメ『超時空要塞マクロス』ブルーノ・J・グローバル、洋画『スリーパー』マイルズほかで共演）
小原さんはアニメの先生ですね。アフレコ現場では私が絵を見て、彼女が肩を押したら（マイク前に）出るというようなことをずっと続けてきました。洋画ではウッディ・アレン役とダイアン・キートン役を演じたんですが、ふたりだけで見つめ合って吹き替えをやりました。普通はモニターを見ないといけないんだけど、そんなことしたのは初めてのことでしたので非常に印象に残ってます。彼女の方が年齢上だと思ってたら、「下なんだ」って（笑）。非常に色っぽい声でブルジット・バルドーとか演じていたんで。すごくセクシーでなかなかいない声だったんではないでしょうか。いろいろ指導してくれて「あ、こうやってやるのか」とていうのを手取り足取り……足は取らなかったけど。アニメというジャンルでは彼女が私の指導者でありました。本当にありがとうございました。あんまりアニメやってないんですけどね（笑）

野村道子（アニメ『ドラえもん』しずかちゃん役で共演）
私は「のび太さん」「しずかちゃん」っていって26年間本当に……この間ペコさんがね、大山さんが亡くなったんですけど、三人で本当によく遊びました。外国に行っても小原さんが渉外係で全部の交渉を彼女が英語でこなして、食べることに関しては大山さんが全部引き受けて、私はどっちにしようかだけ決めるという、本当にラッキーな旅をたくさんしました。”小便小僧”を見るか、”ワッフル”を食べるかを三人で揉めたのが思い出になっています……結局両方にしたんですけど（笑）。さっき（映像で）小原さんの声を聞いたときには「私だけ残っちゃったな」って思って焦りました。（『ドラえもん』に出演した初期キャスト）五人組が私だけになっちゃったっていうのが、本当に……あとの残りの時間を一生懸命楽しもうかなと思いました。（小原さんがいたら）ノンちゃんにはダンスも教わったし、いろんなことを教わったので……、やっぱりいろんな話をしたいなっていうのが一番ですね。

水島裕（『タイムパトロール隊オタスケマン』オタスケマン1号／星野光役で共演）
僕は羽佐間さんや野村さんより全然後輩の立場でお付き合いをさせていただきました。『オタスケマン』というシリーズで一年間ご一緒したんですけど、（セコビッチ役の）八奈見（乗児）さん、（ドワルスキー役の）たてかべ（和也）さん、そして（アターシャ役の）ノンコさんともお別れということになったんですが、僕の名前の呼び方がそれぞれありましてね。ノンコさんは「裕くん」って優しいタッチで、八奈見さんは「裕ちゃ～ん」というタッチで、たてかべさんは「裕！」って（笑）。この呼ばれ方にも個性があるなっていう思い出があります。初めて『ドラえもん』におじゃましたときには「裕くん、ここいらっしゃい」って言ってくれて。（普段の印象は）やっぱり優雅な方ですよね。本当にお世話になりました。ありがとうございました。

水田わさび（アニメ『ドラえもん』ドラえもん役で共演）
私は新人時代に『ドラえもん』に何度も出演させていただいて、のび太くんは一番しゃべってる役なのに後輩の指導をしてくれて。今自分がドラえもんを演じていて、そんな余裕はないので「なんて後輩想いな先輩だったんだろう」って、今になってすごく気づきます。現場で発声方法とか滑舌とか、正しい日本語のなまりとか全部教えてくださったので。スタジオでは小原さんが入ってくるとパーンて大きな花が咲くような感じがして。（水島「エレガントだよね」）そう、エレガントでしたね、すごく。

かかずゆみ（アニメ『ドラえもん』しずかちゃん役で出演）
私は共演というのはなかったんですけど、本当に小原さんのやっていたキャラクターが大好きで育ちました。ペーターも大好きだったり、ドロンジョ様も、もちろんのび太くんも大好きで育ってきたので、作品とともに思い出にすごく残る仕事なんだなって改めて責任感を感じました。小原さんのように皆さんの心にちゃんと残るように私たちも頑張っていきたいなって改めて思いました。

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