河村勇輝は、NBAチームに帯同することで多くを学んでいるphoto by Getty Images
NBAが開幕して3週間余。メンフィス・グリズリーズのガード陣に故障が多いこともあって、グリズリーズとツーウェイ契約(下部リーグ・GリーグとNBAの両リーグで出場できる契約)を交わしている河村勇輝のグリズリーズ帯同が続いている。試合の出場は、点差がついた試合の終盤に限られるとはいえ、NBAチームに帯同していることで学べるものは多そうだ。
アメリカ時間11月13日、ロサンゼルスでのレイカーズ戦前、取材のためにグリズリーズのロッカールームを訪れると、河村は部屋のコーナーにあるロッカーで、まわりのチームメイトたちと楽しそうに談笑していた。すっかりチームに溶け込んでいるようだ。
そんな河村が今、ベンチから学んでいることや、新しい環境への適応などについて聞いてみた。
*以下は日本人メディア複数名での囲み取材から筆者の質問部分を抜粋
【帯同しているだけでも学ぶことはたくさんある】──だいぶチームに慣れてきましたか?
「そうですね。徐々にではありますけれど、チームには慣れてきてるかなと思います」
──今、グリズリーズに帯同していても思ったほどプレーができてないだけに、むしろ、もっとプレータイムがもらえるハッスル(Gリーグチーム)でやりたい気持ちもありますか?
「どちらの気持ちもありますね。やっぱり試合勘っていうのはキープするのにすごく大変なところですし、一度試合勘がなくなってしまうとそれを取り戻すのに、ちょっと時間かかってしまうので。そういった意味では実戦を通した、練習だけではないちゃんとした試合でプレーしたいなっていう気持ちはあります。
でも、こうやってNBAのグリズリーズに帯同して、試合に出られなくてもチームの雰囲気だったり、対戦相手からも学べることは多くありますし、チームメイトとのコミュニケーションだったりとか、そういったところから学ぶことは本当にたくさんあるので、今は、本当にこうやって帯同させてもらえることはありがたいなというふうに思います。
でも、チームも徐々にケガ人が戻ってきている状態なので、もうすぐGリーグのほうでプレーする機会が与えられるんじゃないかって、自分は予想してます」
──それが楽しみな面もありますか?
「すごい楽しみですね。Gリーグのチームメイトとは数回しか練習してないので、そこの不安はあるんですけど、本当に数回の練習だけでもやっぱレベルが高いなっていうふうに感じているので。今ハッスルは2連敗と、チームとしては苦しい状況ではあるので、僕が入って少しはチームにいい影響、いい雰囲気を与えて勝利に貢献できるような選手になりたいと思ってます」
──ベンチで見てても学べることがあるとのことですが、これまでベンチから学んだことで大事だと思うのは何ですか?
「スコッティ(・ピッペンJr)はサイズもそこまで僕と差があるわけではないなかで、身体の使い方......と言ってもいろいろあるんですけど、身体の当て方、大きな選手と自分の間にどうやってスペースをクリエイトするかなど、彼はそれがすごくうまいので、だからこそトリプルダブルとかも達成していると思います。
年齢的には彼が1個上ですけど、本当にいいチームメイトです。今は(チームの大黒柱の)ジャ(・モラント)がプレーできないので、彼がスターターとしてより多くプレーしていますが、彼のスペーシング、ギャップの作り方だったり、あとはディフェンスもコーチからすごく信頼されていてエースを守るように指示されることが多いので、彼から本当に多くのことを学んでいます」
【求められているのは10P・5Aより5P・10A】──コーチから役割として言われているのがアシストを出すことなので、得点よりアシストを意識しているということですが、得点しないとディフェンスも守りやすくなるし、ファンやチームメイトからは得点を期待されていますよね。そのあたりのバランスはどう考えていますか?日本にいた時から言われてきたことだと思うんですけれど。
「特に、ああいうふうに(自分の出場機会が与えられる)勝負が決まったなかだと、チームメイトだったりファンの皆さんは、僕のスコアするところを期待してると思います。でも、それが本当にチームから求められてることなのかって言われると、そうではない部分もあると思います。そこの若干の難しさは僕も感じているのですが、でも、逆にやっぱり、ああいうふうに8分だったり(11月10日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦で7分59秒出場)出場時間が増えてくると、より自分の強みであるパスやアシストの部分のコントロールがしやすくなることは、ここ数試合やってみて感じています。
得点力の向上(課題であること)は、今に始まったことではなく、トムさん(トム・ホーバス日本代表ヘッドコーチ)にも言われて、いろんなシュートのバリエーションは増やしていかないといけない。これからNBAで活躍していくためには、もちろんその部分のタスクっていうのは、絶対にクリアしていかないといけない部分だと思うんですけど、今、本当に僕が求められていることはゲームコントロールやアシストの部分。10得点、5アシストするよりかは、5得点、10アシストするほうが多分今、チームから求められていることなんじゃないかと思っています。
何度も言いますけど、少ないミニッツのなかで求められていることがちょっと違うっていうのは、若干やりづらさはありますけど、そこもクリアしていけば、また自分の成長につながると思っています。今は得点力のところもそうですけど、アシストだったり、ディフェンスの部分でヘッドコーチだったりチームが求めていることを、より高い水準でできればいいなと思っていますね」
──得点を多く取るというよりは、確率をよくすることが今後大事になってくるんじゃないかと思うんですけれど、今は3ポイント(12.5%)もフィールドゴール全体(18.2%)も確率があまりよくないです。それはNBAでは、ディフェンスが大きかったり、手が長かったりする部分でちょっと苦労しているのでしょうか?それとも、短い時間で出ているなかでプレーする難しさなのでしょうか。
「そうですね。本当に課題を挙げればきりはないですけど、NBAの(3ポイント)ラインの遠さだったり、ボールのサイズも違うので、そこはもちろん徐々に......というか、本当はすぐに慣れなければいけないところ。でも、練習ではそういった遠さみたいなものを感じることはあまりないので、あとは試合の流れのなかで慣れていくことがやっぱり必要になってくると思います。
僕もワールドカップやパリオリンピックで、NBAレベルの選手とのマッチアップはずっとしてきたので、そこの難しさはまだ、思った以上にすごく感じているわけではないので、あとはずっとベンチにいたなかで急にパッと出されたときに決めきれる力ですかね。やっぱりその力がないと、少しずつ(実力を)証明はできないと思います。短いプレー時間、また難しい状態のなかで、結果を残すことに意味があると思ってるので、そうした状況にも慣れていかなければと。現状で言うと、やっぱりそこでしっかりと決めきれる選手にならないといけないなと思っています」
【メンフィスのチームメイトには感謝しかない】
11月13日のレイカーズ戦で八村と再会した河村photo by Getty Images
──生活面などではかなり適応力があるように見えますけれど、新しい環境に適応することは、得意ですか?
「まだ、ホームシックになったことはないです(笑)。高校から(実家の山口を離れて)福岡に行ったり、そこからまた仲いい高校の友だちとも離れて大学は上京して、またそのあとすぐ横浜に行って、アメリカに来ましたけど、ホームシックになったことはないので。
そういった意味では、もしかしたら(適応力が)あるのかもしれないですけど、自分自身では、特に思ったことはないですね」
──メンフィスでは、自分で車を運転しているんですか?
「はい、自分で運転しています」
──左ハンドルも慣れた?
「(笑)慣れたかどうかわからないですけどね」
──間違って左のレーンに入ったりということはないですか?
「それはないですね。最初のほうはウインカーと間違えてワイパーを動かしてしまうこともありましたけど、もう慣れてきたんで。けっこう一時停止が多いので、そういったところは気をつけないといけないとは思っていますが、ま、でも、もう運転し始めて2週間ぐらいは経ちましたからね。メンフィスは車がないと、正直生活ができないので、けっこう使う機会は多い分、慣れましたね」
──自分で英語が上達していることを感じますか?
「感じてはいますけど、まだまだだなって。よくなってると思う反面、全然まだまだなんだなって感じることも多いです。なので、もう1回、文法をイチからやり直そうと思っています」
──文法からやるんですか?会話ではなくて?
「最終的に文法のところがちゃんとしてないと。チームメイトから学ぶ砕けた話し方だったりスラングは、インタビューとかではあんまり使えないというか。そこに慣れてしまうと、やっぱりちょっと......言葉はすごく影響のあるものだと思っていて、それは日本語でも英語でも変わらないと思います。なので、チームメイトと話す時はそういう言葉でいいと思いますけど、インタビューの時とかはしっかりとした綺麗な、というか、ちゃんとした文法だったり、言葉を使いたいと思っています」
──スラングも、チームメイトからかなり積極的に学んでますよね?
「学んでいます。学んでいるというか、教えられてるみたいな感じです(笑)」
──スラングにしても、学んだものをすぐに使えるっていうのも適用力なのかなと思いますけど......。
「どうなんですかね。本当にメンフィスのチームメイトが親切で、環境がすごくよかったなっていうふうには思ってますね。僕が喋れないけど、喋れる雰囲気を作ってくれているチームメイトには、本当に感謝しかないです。僕自身の努力だけではなく、受け入れてくれたチームメイトだったり、今でも英語を教えてくれたり喋りかけてくるチームメイトがいて、今の僕があると思ってるので。本当にありがたいなっていう気持ちでいっぱいです」
──今日、ようやく八村(塁)選手との対戦ですけど、前もって連絡を取ったりしましたか?
「そうですね。塁さんには連絡させてもらっています。前のメンフィスでの試合の時(11月6日)は体調を崩されたっていうのを聞いて、少し残念ではありましたけど、長いシーズンを健康で送ることが一番大切だなと思っているので。
今回はありがたいことに僕が帯同してる間の、早い段階でレイカーズとの試合があるっていうのも、また幸運だなと思います。今の状態で言うと、アクシデントがない限りは塁さんと僕が一緒にコートに立つ時間帯は、可能性としては高くないのはあるんですけど、どうであれ塁さんがプレーされている姿をベンチからしっかり見ることもすごくうれしいです。それを目に焼きつけたいなっていう気持ちもあります。またいつかは自信を持って一緒のコートに立てる時間がより多くなるように、僕も成長し続けられればいいなと思っています」
*11月13日の試合は128対123でレイカーズの勝利。八村は36分出場で19得点、7リバウンド、3アシスト。河村は不出場だった。
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