ベルギー代表クルトワは「絶対に先読みしない」異次元GK8年前の悪夢「ロストフの14秒」も演出

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ベルギー代表クルトワは「絶対に先読みしない」異次元GK8年前の悪夢「ロストフの14秒」も演出

11月14日(木) 9:50

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【新連載】

南雄太「元日本代表GKが見た一流GKのすごさ」

第2回:ティボ・クルトワ(ベルギー)

日本のサッカーファンにとって、決して忘れることのできないシーンがある。

2018年ロシアワールドカップのラウンド16で、日本代表がベルギー代表と繰り広げた死闘における後半アディショナルタイム。いわゆる「ロストフの14秒」である。

2−2で迎えたその瞬間、日本のコーナーキックのチャンスで本田圭佑が蹴ったボールを、ベルギーの守護神ティボ・クルトワがキャッチしたところから始まったベルギーの完璧な高速カウンターが、日本のベスト8進出の夢を阻んだシーンだ。

世界屈指のテクニックを誇るティボ・クルトワphoto by AFLO

世界屈指のテクニックを誇るティボ・クルトワphoto by AFLO



「あの場面でクルトワは難なくボールをキャッチしていますが、GKからすると、ボールが少し落ちてきていて、キャッチするのは意外と難しいボールです。

でも、クルトワはああいった難しい軌道のボールでも難なくキャッチできる。サイズがあるからこそではありますが、あのシーンを切り取っても、その能力の高さがわかります」

そのようにGK目線で解説してくれたのは、現在横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのGKクラスのコーチ、そして流通経済大学付属柏高等学校のGKコーチも務める南雄太氏だ。

32歳になった現在も「世界屈指のGK」として君臨するレアル・マドリードのクルトワは、どのような特長と特殊な能力を持っているのか。前回のマヌエル・ノイアーに続き、今回は南氏がクルトワのすごみについて解説してくれた。

※※※※※

「クルトワの最大の強みは、2メートルという身長でありながら、まるで180cmくらいのGKのように動けることですね。

通常、これだけのサイズがあると、えてして動きが重かったり、硬かったりするものですが、クルトワはサイズがあることがネガティブな要素になっていなくて、むしろすべてがポジティブに働いている。おそらく両親が元バレーボール選手だったことも影響しているのでしょうが、生まれ持ったアスリート能力がプレーの随所に生かされています」

【世界を見渡してもクルトワだけ】では、具体的にはどのようなプレーに、それが表われているのか。クルトワのGKとしての特長と武器について、あらためて南氏に聞いてみた。

「最大の武器は、シュートストップにあると思います。わかりやすく言えば、普通は決まっているはずのシュートを、手足を伸ばして止めてしまうということ。誰もが『入った!』と思ったシュートでも、クルトワはそれを普通に防ぐことができる。

あれだけのサイズがありながら、小柄なGKのような俊敏性もあるので、ゴールの隅に飛んだシュートにも反応し、長い手足を駆使してボールに触れることができるというのが、最大の強みと言えるでしょう。

もちろん、GKが難しいシュートを止められるのは、手足が長いだけではダメで、細かいステップが踏めるかどうかも大事な要素になります。ですが、クルトワはあれだけの身長がありながら、細かいステップを踏める。

大柄なGKは手や足が届く範囲が広いので、細かくステップを踏まないでそのまま飛んでシュートストップを試みるケースが多いです。しかし、クルトワは自分のサイズに頼ることなく、しっかりステップを踏むことによって、最大限にサイズの強みを生かすことができています。

たとえば、GKには『コラプシング』というテクニックがあります。これは、足もとのシュートに対してボールサイドの足を抜いて、自ら体勢を崩して手でシュートを防ぐテクニックですが、サイズのあるGKの場合、足もとに飛んでくるシュートに対しては足を使って防ぐケースが多い。

ところがクルトワの場合、コラプシングで足もとのシュートを防ぐシーンをよく見ます。これも細かいステップを踏めるからなせる業(わざ)で、このようなテクニックを兼備する2メートルクラスのGKは、世界を見渡してもクルトワだけではないでしょうか。

とにかく相手からすると、ほとんどシュートコースが見えない状況でシュートするしかない。これは、ほかのGKにはない大きなアドバンテージになっていると思います」

南氏が説明してくれたとおり、たしかにクルトワのビッグセーブがチームの勝利に直結する試合は多い。ストライカーがひとつのゴールでチームを勝たせるのと同じように、GKはひとつのビッグセーブで勝負を決めることができる。クルトワは、これまで数えきれないほどの試合でそれを証明し、サッカーにおけるGKの重要性を示してきた。

【サイズを最大限に生かしている】南氏は、さらにクルトワのプレーの特長について詳しく解説してくれた。

「細かいところになりますが、クルトワの特長のひとつとして、シュートに対して絶対に先読みしないことも挙げておきたいですね。

サイズがあるからこそとも言えますが、シュートに対して自分が先に動くことがなく、シュートコースと逆に倒れるようなシーンはほとんど見ません。シュートシーンで必ず最後まで我慢できるというのも、相手にゴールを決めるのを難しくさせているポイントになっていると思います。

また、1対1のシーンなどで相手に寄せるスピードもあります。しかも、直線的に相手に寄せるだけでなく、わざと横に膨らむように動きながら相手に寄せるテクニックを見せることがある。要するに、わざとシュートコースを空けながら寄せて、相手にそのコースにシュートを打たせ、それをストップするという高度なテクニックです。

そしてもうひとつ加えたい特長が、手でボールを弾くのが抜群にうまいということ。掌の硬い部分で強く正確に弾くことで、こぼれ球のシュートを打たれないようにしています。

だから、シュートストップをしたあとのセカンドボールで、ゴールが生まれるシーンはほとんどありません。もちろん、手が長い分、指先ではなく掌の硬い部分を使えることが大きいとは思いますが、それも含めて、自分のサイズを最大限に生かしていると言えるでしょう。

とにかく、クルトワほど相手にシュートコースを与えないGKは存在しないと言っても過言ではないと思います」

現在、ベルギー代表を率いるドメニコ・テデスコ監督との確執により、代表でのプレーを見ることはできない。だが、負傷から復帰すれば、クルトワが再びレアル・マドリードで異次元のシュートストップを披露することは間違いないだろう。

南氏の解説を頭に入れて、あらためてクルトワのプレーに注目したい。

(第3回につづく)



【profile】

南雄太(みなみ・ゆうた)

1979年9月30日生まれ、東京都杉並区出身。静岡学園時代に高校選手権で優勝し、1998年に柏レイソルへ加入。柏の守護神として長年ゴールを守り続け、2010年以降はロアッソ熊本→横浜FC→大宮アルディージャと渡り歩いて2023年に現役を引退。1997年と1999年のワールドユースに出場し、2001年にはA代表にも選出。現在は解説業のかたわら、横浜FCのサッカースクールや流通経済大柏高、FCグラシオン東葛でGKコーチを務めている。ポジション=GK。身長185cm。





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