11月14日(木) 18:00
新潟県のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館にて11月13日、Noism Company Niigata 2024 冬・新作公演の記者発表が行われた。金森穣芸術総監督と近藤良平の新作およびレパートリー作品を上演するトリプルビル Noism0 / Noism1『円環』は、12月の新潟公演、福岡公演ののち、2025年2月には滋賀、埼玉での公演を予定している。オンラインで参加した記者発表では、Noism芸術総監督の金森穣、Noism国際活動部門芸術監督の井関佐和子、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督でコンドルズ主宰の近藤良平が、作品に込めた思い、クリエーションの様子をたっぷりと語った。
今年4月に設立20周年を迎え、夏には記念公演を実施したNoism。冒頭に挨拶した井関は、この20周年イヤーの冬の公演に “円環”とタイトルを付け、「ゲストをお呼びして20周年に相応しいプログラムにしたいと思い、このトリプルビルにしました」という。今回Noism1=プロフェッショナルカンパニーのメンバーに作品を振付ける近藤良平にとっては、2005年以来、19年ぶりのNoismでのクリエーションに。
「Noism1のメンバーのことを考えてのことでした。私も今のメンバーも小さい頃から踊ってきて、自分がダンサーであると自覚しないままここまできて、人間の本質や、自分は何を感じているのかということに向き合う時間がなかった。良平さんだったら皆にその時間を与えてくれるのではないかと思いました」(井関)
またプロフェッショナル選抜メンバーのNoism0は、金森穣演出振付による新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』を、Noism0+Noism1はレパートリー作品『過ぎゆく時の中で』を上演する。
「Noism0の作品では、ゲスト舞踊家として元メンバーの宮河愛一郎、中川賢を呼びます。戦友ですし、私も一緒に踊りたかったのですが、この国のバレエ、コンテンポラリーダンスでは、年齢が限られ、その先に何があるかということが見えないまま舞踊人生が終わる人たちも多いと感じます。皆40代に入り、『若手の育成』もとても大事ですが、それは、本人たちがそれまでの人生を舞台で見せるという本質的な時間があってこそできること。日本の舞踊界で、40代以上の人たちがますます活動的になっていければという気持ちも込めています。
『過ぎゆく時の中で』は2021年のサラダ音楽祭で初演した作品。私自身は出演せず、Noism1のメンバーと金森穣さんに踊っていただきます。皆と穣さんを見ていると、話は最終的に“円環”というところに戻りますが、時間が過ぎていくけれど戻ってくる、そのことの重要性をすごく感じます」(井関)
次にマイクを握った近藤良平は、「川の流れとともにまたここに戻ってきたなとつくづく感じております」。新作については、「『にんげんしかく』という不思議なタイトルにしました。今年、個人的に段ボールにはまっていて、いろんなものを入れてみたり運んでみたり、場合によっては避難するときの区画になったり──最近すごく親しみを感じていて、人間が、何か四角の中に入っているというか、フレームの中にいるような感覚もあり、見えていないとか見えているとか、シカク=視覚という言葉の遊びも。段ボールのある風景の、ちょっと珍しい作品になると思います」。
Noism1のメンバーについては、「困るくらい(笑)、やる気のある人たち。たくさん刺激をもらっています」と語った。
金森は、再演の『過ぎゆく時の中に』について、2021年の創作時、コロナ禍の中での“ある種のトラウマ”を明かす。
「コロナ禍が落ち着きを見せた頃、Noismに所属していた外国籍のメンバーが一斉に母国へ帰っていった。集団性が幻想であるということを理解した上でなお、集団で活動することの意義、互いを信じること、手を繋いで明日を見ることの尊さみたいなものを舞台芸術として表現したい。そういう思いからこの作品は生まれています。Noism1のメンバーと、これだけの近距離で、彼らの目を見て手を握って一緒に踊ることはこれまでになかったことで、私自身すごく楽しんでいますし、彼らに対して、この50歳を迎えた舞踊家だからこそ伝えられる非言語の何かがあるだろうと、期待しているところです」(金森)
新作の『Suspended Garden-宙吊りの庭』は、Noismとは5度目のコラボレーションとなるベトナム人作曲家、トン・タッ・アンの音楽で、井関、山田勇気、宮河、中川とともに踊る。「彼らとでなければ生まれない、生み出せないものを作りたい」と意気込む金森だが、作品は既に、ほんの8日間で出来上がったという。「外部に振付に行くと、私が信じる身体の使い方、芸術性みたいなものを教えたり、引き出したりに時間がかかる。旧知の舞踊家とでは、そうした前段階をすっ飛ばし、その瞬間に生まれるものに向き合える。残りの時間で、皆でその次のレベルにまで作品を持っていければと思います」。
金森は、「“宙吊りの庭”とは劇場のメタファー」とも。「近藤良平的に言えば、ダンボールの中っていうことですよね。その四角の中で、ある種、外界から閉ざされているように見えたり、守られているからこそ生み出せるものがあったり、時間も日常的な時間とはちょっと違うスパンで流れている、ある種宙吊りにされたような庭に舞踊家たちが再び集い、そして別れていく。そういう作品になると思います」。
数々の質問が寄せられた質疑応答で、「自身にとって舞踊とは何か」と尋ねられた近藤は、「急に大きなことを聞かれてしまった……」と苦笑い。「非常に日常的なことで、時々、特別なことのように見えるけれど、日常の中に、少しおどけてみたり、少し目立ってみたり、ちょっと儀式的になったりする瞬間に、勝手に踊りが生まれるようなことがたくさんある。踊りというものは非常に身近で、あまり特別視せずに人間が関われたらと常々思っています」とダンスへの思いを述べた。
井関は、近藤作品に取り組むメンバーとのエピソードを紹介。「良平さんのクリエーションをとても楽しんでいるが、Noismのダンサーとして壊してはいけない部分があるのかどうか悩んでいるというんです。私は正直に、『そんなものはないです』と答えました。私たちは毎日Noismメソッドをやって身体に染み込ませているけれど、頭で考えるNoism的なものなんて存在しません。もしあるとすれば、全身全霊でぶつかってきてください、身を投じてやりきったときに、その先がきっと見える。それが、私が感じるNoism的なものだ、と伝えました」。金森も、「Noismとしては、金森穣的な作品をやり続けるほうが簡単。ただ、近藤良平という一見真逆の芸術家を招くという井関の意志にこそ、Noismという集団、新潟市が抱える舞踊団の、ある種のオリジナリティ、社会性があるのではないかと思っています」と、近藤とのコラボレーションの意義を述べた。
<公演情報>
Noism0 / Noism1 「円環」 金森穣 近藤良平 Triple Bill
Noism0 新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』
演出振付:金森穣
音楽:トン・タッ・アン
映像:遠藤龍
衣裳:鷲尾華子
出演:Noism0=井関佐和子、山田勇気
ゲスト=宮河愛一郎、中川賢
Noism1 新作『にんげんしかく』
演出振付:近藤良平
衣裳:アトリエ 88%
出演:Noism1=三好綾音、中尾洸太、庄島さくら、庄島すみれ、坪田光、樋浦瞳、糸川祐希、 太田菜月、兼述育見、松永樹志(準メンバー)
Noism レパートリー『過ぎゆく時の中で』
初演:2021年8月13日
TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2021 [サラダ音楽祭]
演出振付:金森穣
音楽:John Adams《The Chairman Dances》
出演:Noism0=金森穣
Noism1=三好綾音、中尾洸太、庄島さくら、 庄島すみれ、坪田光、樋浦瞳、糸川祐希、 太田菜月、兼述育見、松永樹志(準メンバー)
【新潟公演】
日程:2024年12月13日(金)〜12月15日(日)
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
【福岡公演】
日程:2024年12月22日(日)
会場:J:COM 北九州芸術劇場 中劇場
【滋賀公演】
日程: 2025年2月1日(土)
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
【埼玉公演】
日程:2025年2月7日(金)〜2月9日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール