生活保護を受給していた78歳の父が“腐敗した状態”で発見。納骨までにかかる「驚きの金額」と、実娘が知った福祉葬の実態

孤独死という言葉がなくなってほしい、と佐藤さん

生活保護を受給していた78歳の父が“腐敗した状態”で発見。納骨までにかかる「驚きの金額」と、実娘が知った福祉葬の実態

11月13日(水) 8:53

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おひとりさま世帯が増えている。警察庁が8月に発表した今年の上半期(1~6月)に自宅で亡くなった一人暮らしの人の数は、全国で計3万7227人(暫定値)にものぼるという。自由気ままで、他人に縛られないのが一人暮らしのメリットだが、政府は孤独死、孤立死対策に本腰を入れ始めている。

筆者の父78歳は、2024年8月10日に孤独死をしている。「日刊SPA!」にて《「腐敗した体にウジ虫が…」夏場に孤独死した78歳の父。1か月放置された“アルコール依存と認知症”の最期》に詳しくまとめた。

父が生活保護を受給していたことで、葬祭扶助制度を利用しての福祉葬だったので、かかった値段は分からなかった。その値段や内幕を、東京都世田谷区北沢で佐藤葬祭を営み、葬祭系YouTuberとしても活躍する 佐藤信顕氏 (@satonobuaki)に聞いた。

「孤独死は孤独じゃないですから!」

今回の取材に先立って、まずは父の“孤独死”についてうかがおうと思った。すると、佐藤氏から「 私は、親族が孤独死をしたという遺族の方には『孤独じゃないですから!』と言うところからスタートします 」と返ってきた。

「法的には“変死(死因が不明な場合、事故や事件性のある最期を迎えた場合、病院以外の自宅療養などで、かかりつけの医師がいない場合)”の中で、単独で亡くなった場合を孤独死と呼びます。 ですが、孤独死というのは、大手マスコミが平成くらいに作った言葉です。法律用語ではありません 。地方から泣きながら『母ちゃんが孤独死した! 東京に向かっている』と電話してきた友人がいますが、そんな息子がいる人が“孤独”ですか? 故人の死を“孤独”だと決めつけるのは、尊厳に関わる問題です」

病院やかかりつけ医がいない状態で亡くなると、発見がどんなに早くても変死扱いとなる。佐藤さんは、そういった人たちの死を、孤独死ではなく「発見遅延死」もしくは「独居死」と呼ぶ。

「遺族は孤独死“させちゃった”と思うでしょう。遺族心情に配慮していない呼び方だと思います。 元気がない人は、病院に入院か、施設に入所させられているはずなので、一人暮らしのまま孤独死はできないはずです

親を孤独死させちゃったと思い、罪悪感に苦しんでいた筆者は、冒頭の話でとても気が楽になった。父は自転車で15分の距離をこいで筆者宅に来ていた。元気だったからこそ、足腰が弱ったとはいえ、通院も自力でできていた。

特殊清掃の費用は最低20万円に

父が発見された時は腐敗が進み、うじがわくような状態だった。その特殊清掃にかかるお金はどれくらいなのだろうか? 特殊清掃会社でアルバイト経験のある、 ライターの村田らむ氏 (@rumrumrumrum)に聞いてみた。

「多くの人は『清掃にかかる値段は数万円。高くても10万円くらい』と思い込んでいる場合が多いですが、 ゴミ屋敷や特殊清掃などの掃除は、少なくとも20万円以上はかかります 。フローリングや壁がいちじるしく傷んでいて、リフォームしなければならないと、より高い金額になります」

父のアパートは高齢者向けの賃貸物件だったので、保証人は管理会社だった。退去時クリーニング費用で筆者に負担がかかることはなかった。

身分証を身につけていないとDNA鑑定

佐藤さんの話に戻る。筆者の父は遺体の発見まで1か月かかり、腐敗が進んでいた。だから、本人特定するためにDNA鑑定を受けたのだと思っていた。

「DNA鑑定をするしないに期間は関係ありません。 そもそも本人だと特定する制度がおかしくて、服のポケットに身分証でも入れてない限り、自室で亡くなっていようと、DNA鑑定をして本人だと特定をします 。だから、独居の人が亡くなると、絶対にその人以外にあり得ない状況でもDNA鑑定を受けることになります」

筆者は警察から「検死が終わるまでは遺体を預かりますが、火葬までの間は保管料がかかります」と言われたが、父が生活保護だったため、請求は役所に直接いった。結局、保管料はわからないままだったが、実際にはいくらくらいかかるのだろうか。

「昔は、検死が終わるまでは遺体を預かってくれるということはありませんでした。 検死に時間がかかるのではなく、DNA鑑定に時間がかかり、1日1万円×1週間~2か月が目安です 。ただし、警察署で遺族が『お金がないから早く遺体を返してください!』とごねて、面倒ごとになるとDNA鑑定の期間が早まったという話も聞きます。いずれにせよ真似してはいけませんが。今回の福祉葬の場合、遺体の保管料は『正当な事由』なので、葬祭扶助費で出ます」

まるで『進撃の巨人』!遺族感情への配慮とは

福祉葬には警察付きの葬祭業者がおり、金額はブラックボックス化されているという。

「遺体は冷凍か冷蔵保管されます。腐敗体の場合、デリケートな状態なので、長期保管すれば風体が変わります。『安らかな状態で送りましょう』というのが、死後処置の目的です」

筆者が父の顔を見られたのは、警察署で「写真で」のみだった。 腐敗した父の顔は、漫画『進撃の巨人』に登場する巨人のようだった 。葬儀の折には、説明しづらそうな葬祭業者に仕事柄、遺体の話には慣れている旨を伝えた。

一切の遠慮が取っ払われ「それはありがたい! お父さんの遺体からは体液が噴き出し、黒くなった状態で、とても臭いのでお顔は見られません」という説明を受ける。遺族感情への配慮とは……。

独居で腐敗して亡くなった時のお値段

病院で亡くなったほうが、DNA鑑定中の保管料がかからないので31万~33万円と、安く済みます 。だけど、遺体が腐敗していると、臭気が外に出ないようにジップロックのような保管袋に入れるのでプラス1万~2万円かかったり、塩素系の消毒薬をかけるので追加で料金がかかったりします」

もし病院で亡くなった場合の葬儀費用の見積もりを、佐藤氏に書いていただいた。内訳は、

【葬儀費用の内訳】
基本人件費5万円
+棺桶代8万円
+ドライアイス代1万円
+役所の手続き代行1万円
+補助費2.5万円
+物品代1万円
+火葬代金9万円
+作業代 1.5万円
+お花代0.3万円
+搬送車代2万円
=31.3万円

だった。独居で腐敗して亡くなったり、変死したりした場合、そこに特殊清掃費20万円+保管料2万~3万円が加算されるので最大約54万円もかかる。そのお金が、特殊清掃会社や葬儀屋にかかり、役所に請求される。シングルマザーの筆者にそんなお金はなかった。改めて、福祉制度のありがたみを知る。

「親族の誰かが引き取りに」福祉葬の現実

「よく生活保護を受けている人が、お骨の引き取り手がいないと言いますが、ほとんどの場合は親族の誰かが引き取ります。 生活保護受給者だったとしても、親族など誰かしらが関わっていて、完全に孤立しているケースは少ないです

筆者の場合も、父は生前、娘の筆者と孫と最期まで交流があった。骨は分骨し、自宅に保管している。

「変死自体が少ないです。 僕の感覚では、病院以外・医者が立ち合っていないなどの“変死”の割合は、全体の5%くらいです。その中でも、DNA鑑定が必要なケースは、さらに5%くらいでしょう 。ほとんどの場合は、そこまで行く前に発見されます。生活保護受給者が孤立しないよう、実際に関わっている民生委員に予算を割くほうが独居死・変死対策になります」

民生委員とは、厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員で、住民の生活や福祉に関する相談に応じ、社会福祉の増進に努める役割を担っているが、ボランティアだ。

筆者の父は“独居死”したが、生まれ育った場所で、死にたいと願っていた父には地域の人や定年退職した会社の同僚や部下が多数、焼香に訪れた。その死は、決して孤独ではなかった。死者の尊厳のためにも、正しい理解が広がることを願う。

<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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