11月13日(水) 12:21
クラブの性能を表す言葉のひとつに「慣性モーメント」があります。最近では、ヘッドの上下左右の「慣性モーメント」の合計値が10,000を超えることを「10K」と呼び、曲がらないクラブの代名詞的存在となっています。本記事ではゴルフクラブの「慣性モーメント」について徹底解説していきます。
本記事で紹介した高慣性モーメントドライバーを画像でチェック!
ゴルフクラブの「慣性モーメント」は、物理の用語で運動する物体の「変化を妨げる強さ」のことを指しています。単位は「g/cm2」。英語では「Moment of Inertia(イナーシャ)」となり、それを略して「MOI」と呼ばれることもあります。
スイング中、クラブヘッドはボールに向かって回転運動をしています。このとき、「慣性モーメント」が高いほど、ヘッドが直進しようとする力が強くなり、フェースの向きなどが変わりにくくなります。この効果を利用し、ボールの曲がりを抑えようというのが、いわゆる高慣性モーメント(高MOI)のクラブの基本的な考え方になります。
ゴルフクラブにおける「慣性モーメント」にはいくつかの種類があります。
1つ目は、フェースの開閉に影響する「ヘッド左右慣性モーメント」です。これはヘッド内部にある重心を中心としてヘッドがヨコに回転しやすいかどうかを示していて、ルールでは5,900g/cm2が上限値となっています。この数値が大きいほど、スイング中のフェース開閉が小さくなりやすく、一般的にボールの方向性が良くなると言われています。
2つ目はロフトの変化に影響する「ヘッド上下慣性モーメント」です。これはヘッド内部にある重心を中心としてヘッドが上下に動きにくいかどうかを示しています。つまり、インパクトでフェースが元々のロフトよりも上を向いたり、下を向いたりしにくくなるため、安定した強いボールが打ちやすくなると言われています。
この上下左右2つの「慣性モーメント」の数値の合計が10,000g/cm2を超えるクラブがいわゆる「10K」(「K=1,000」)になります。2024年春に発売されたピンの『G430 MAX 10K ドライバー』やテーラーメイドの『Qi10 MAX ドライバー』がその代表モデルで、曲がらないクラブの代名詞的存在として人気を博しています。
この他には、アイアンなどに使われることの多い「ネック軸周り慣性モーメント」があります。数値が高くなり、ネック軸周りが回転しにくくなることで、ヘッドの開閉が減り、安定したショットが打てるようになります。ただ、一般的にクラブの「慣性モーメント」と言うと、前述した「ヘッド左右慣性モーメント」と「ヘッド上下慣性モーメント」を指すことが多いです。
「慣性モーメント」の高いクラブのメリットは、ヘッドが回転しにくくなることによって、打ち出されるボールの方向や弾質が安定しやすいことです。また、ヘッドの直進性が高まることで打点がブレてもボール初速が落ちにくくなりますので、ミスヒットに強くなることもメリットです。ボールの曲がり幅が大きかったり、飛距離が不安定なゴルファーにとっては大きな武器になるクラブだと言えるでしょう。
これだけを聞くとメリットばかりに見えますが、ヘッドが回転しにくいことは、ときにデメリットにもなります。
例えば、ドローやフェードを打ちたい場合、「慣性モーメント」の高いクラブはフェース開閉を使いにくいので、ボールを曲げるコントロールが難しくなります。あえてボールを曲げる技術を持ったゴルファーにとっては扱いづらいクラブになってしまうのです。
スイングの途中でフェースが開いてしまった場合も、「慣性モーメント」の高さがマイナスに働きます。ヘッドを回転しにくいと言うことは、開いたフェースを真っすぐ戻すのにも大きな力が必要になるからです。そのため、スイングタイプによっては「慣性モーメント」の高いクラブが合わずにミスを連発してしまう危険性があります。
また、「慣性モーメント」の高いクラブはヘッド重量が重いことが多く、クラブ全体のバランスが独特なものになりがちです。一般的な慣性モーメントのクラブに比べて、振りにくさを感じることも少なくありません。
「10K」を代表とする高慣性モーメントのクラブは物理的な性能は高いですが、それで結果が出るかどうかは扱うゴルファー次第なのです。
前項で解説したように、「慣性モーメント」の高さは全てのゴルファーにプラスに働くわけではありません。そのため、メーカー各社は慣性モーメントの大きさが異なる複数モデルのドライバーをラインナップしてくれています。
もし、ミスヒットへの強さを重視し、オートマチックにストレートに近いボールで飛ばしたい場合は、「10K」を代表とする「慣性モーメント」の高いモデルを選ぶと良いでしょう。最新モデルはスイング中にフェースが開きにくくなるように工夫しているものが増えていますので、スライサーでも安心して使うことができます。
一方で、ボールを左右に曲げたり、ホールによって高さをコントロールしたりと操作性を重視する場合は、「慣性モーメント」が小さめのモデルを選ぶのがおすすめです。最近では操作性の高いアスリートモデルでも一定以上の寛容性を備えていることがほとんどですので、「慣性モーメント」の高いドライバーに振りにくさを感じる場合は試してみると良いでしょう。
これ以外にも、中間の「慣性モーメント」に調整して、オートマチックさと操作性のバランスを取ったモデルがラインナップされていることもあります。もし試打をする際には、この中間型のモデルを最初に打ってみて、その感触を元に「慣性モーメント」が高いものが良いか、低いものが良いか考えるのがおすすめです。
ここからは2024年11月13日現在、発売されている「慣性モーメント」の高いドライバーの中から、代表的なモデルについて紹介していきます。
ピンはクラブの「慣性モーメント」を高める開発を進めてきたパイオニア的存在です。ラインナップされているドライバーのほとんどが高慣性モーメントのモデルになりますが、中でも圧倒的なブレの少なさを実現しているのが最新モデルの『G430 MAX 10K ドライバー』です。
ピンの『G430』シリーズは従来の安定性にフェースの高い反発力をプラスしたシリーズで、飛距離性能と方向性を高い次元で両立しています。中でも『G430 MAX 10K ドライバー』は上下左右慣性モーメントが10,000g/cm2を超える「10K」の安定感がありつつ、重心を深く、低く設計することで高打ち出し・低スピンの強いボールが打ちやすくなっています。
テーラーメイドはドライバーの性能に定評のあるメーカーで、プロアマ問わず絶大な人気を誇ります。近年は独自の「カーボンフェース」を採用することで、ヘッドの高慣性モーメント化も推し進めており、弾道の安定感にも定評があります。
そんな中で2024年春に満を持して発売された意欲作が『Qi10 MAX ドライバー』です。フェースに軽量なカーボンを使うことで生まれた余剰重量を最適に配分することで、上下左右慣性モーメントの合計値で10,000g/cm2超えを達成しました。モデル名にある「10」は「10K」から取られたものになっています。圧倒的なブレのなさと上下慣性モーメントの高さによる弾道の強さによって今までにない飛距離を叩き出してくれます。
女子プロを中心に多くの契約プロを抱える国産メーカー本間ゴルフの最新モデル『TW767 ドライバー』も慣性モーメントを極限まで高めています。その上下左右慣性モーメントの合計値は11,000g/cm2を超えると言われており、「10K」を上回る「11K」のドライバーになっています。
本間ゴルフは元々美しいヘッドシェイプや心地良い打感、打音に定評のあるメーカーです。『TW767 ドライバー』のフィーリング性能も非常に洗練されたものになっていますので、高慣性モーメントのやさしさが欲しいけど、アスリートモデルのようなフィーリングの良さが欲しいゴルファーにはぜひ試してほしいモデルになっています。
「8軸カーボンフェース」という鮮烈なキャッチコピーが話題になった高慣性モーメントドライバーがヤマハの『インプレスドライブスター タイプD ドライバー』です。クラウンとフェースに軽量なカーボンを採用することで余剰重量を生み出し、それを最適に配分することで美しいヘッド形状をキープしながら慣性モーメントを高めて、「10K」超えに成功しています。
また、ヤマハの「8軸カーボンフェース」には高い反発性能と芯の広さがあるので、よりミスに強くなっています。独自の打音解析によって心地良いフィーリングにも仕上げられていますので、爽快にボールを飛ばすことが可能となっています。
ここまでゴルフクラブにおける「慣性モーメント」の意味やモデル選びの注意点について解説してきました。ドライバーショットを遠くに、安定して飛ばすという意味で「慣性モーメント」の高いドライバーが大きな武器になることは間違いありません。ぜひ自分に合ったモデルを見つけて、ティショットの精度をあげて、スコアアップを叶えてください。