誰もが納得できる答えは、おそらくない。
J3の大宮アルディージャが、11月6日に新たなクラブプロパティを発表した。このタイミングでの発表となったのは、トップチームがJ3優勝とJ2昇格を決めたからである。株式を譲渡したレッドブル・ゲーエムベーハー側は、ふたつのミッションを達成するまでは試合に集中してもらいたい、との配慮を働かせていた。
大宮アルディージャのエンブレムから「リス」が消えたphoto by Nikkan sports/AFLO
新しいエンブレムは、レッドブルのグローバルネットワークを構成するRBライプツィヒ、RBブラガンチーノ、ニューヨーク・レッドブルズと同じデザインが採用された。そのなかで、クラブカラーのオレンジの要素が加えられている。
レッドブル・ゲーエムベーハーのオリバー・ミンツラフ代表は、「レッドブルの一員であることがわかるように、また大宮アルディージャのカラーであるオレンジがそのまま生かせるように」と説明する。オレンジだけでなくセカンドカラーのネイビーも使用することで、「継続と発展を表わす」としている。
レッドブルグループの一員となった以上、同じエンブレムを使うのは妥当だろう。ネットワークの一員として、国内外で認知されることにつながる。
その一方で、エンブレムから「リス」が消えた。旧大宮市のマスコット的存在であることからエンブレムに組み込まれたリスは、マスコットにも採用されている。もっと言えば、アルディージャというチーム名は、スペイン語で「リス」を意味する。
チーム名は「大宮アルディージャ」にドイツ語の「Rasen Ballsport(芝生の球技)を加えて、『RB大宮アルディージャ』とした。「RB」には「レッドブル」の略称を連想させる、との思惑も込められる。
新たなプロパティについて、周囲の反応はさまざまだ。
20年以上にわたってホーム、アウェーを問わずに公式戦を観戦している女性は、「エンブレム、チーム名、ロゴ、チームカラー、マスコットなど、何ひとつ変えてほしくなかった。レッドブルにはお金だけ出して、経営やチームについての諸々を任せてくれるのが理想でした」と話す。「レッドブルグループと共通のエンブレムにされてしまうのは最悪です。アルディージャはリスですから。申し訳ないですけど、現状ではあのエンブレムがついたユニフォームは買う気がしません」と続けた。
彼女と同じように長くサポーターとして活動し、彼女よりも若い30代の男性は、「レッドブル側がチームを大切にしてくれるのなら、自分たちもこれまでと同じようにチームをサポートします」と語る。
【サイレントマジョリティの声は...】大宮アルディージャのファン層には、前身のNTT関東当時から応援をしてきた人たちがいて、1999年のJ2リーグ参入やその後のJ1昇格をきっかけにスタジアムへ足を運ぶようになった人がいて、J1で戦っていたチームを知らない人たちがいる。正確にはもっと細かく分けることができ、コア層もライト層も混在する。ファン層によって、反応はそれぞれだ。
さらに言えば、否定的な意見を持っている人、そもそも株式譲渡に納得できていない人は、SNSなどにあまり投稿していないようにも感じる。サイレントマジョリティは確かにいて、SNSに上がっている意見が必ずしも多数派ではないということだ。
はっきりしているのは、レッドブルへの株式譲渡にしても、プロパティの変更にしても、「ファン・サポーターは肯定的(あるいは否定的)とひとくくりにできないということだ。ファン・サポーターの一人ひとりがそれぞれに現実を見つめ、戸惑ったり、受け入れたりしながら、RB大宮アルディージャとして動き出すチームを見つめているのだろう。
トップチームは8月の株式譲渡発表後も、勝ち点獲得のペースを落とすことなく戦ってきた。10月13日の32節でJ2昇格を確定させ、翌33節にJ3優勝を決めた。5試合を残してのミッション・コンプリートだった。その後も白星を積み重ね、2位以下を寄せつけずにフィニッシュテープを切ろうとしている。
チームを指揮する長澤徹監督は、「レッドブルが来てチームをガチャチャにして、という感じでないのは自分なりにわかっていた」と言う。
「10月にレッドブル側のマリオ・ゴメスが来ていろいろと説明していましたけど、本質はガバナンスで、私のような監督は強化部長にチェックの目を向けられるというガバナンスに、外の目、違う目が入ってきて、チェック機能が強化されていく。そのチェックをする人たちも、本部の中でチェックされる。ヨーロッパの本当のプロが乗り込んでくる、ということだと理解しています」
【数年でJ1に昇格するための戦力は?】レッドブルサッカーのテクニカルダイレクターを務めるマリオ・ゴメスらは、トップチームから女子チームVENTUSの選手とスタッフ、さらにはアカデミーとタクラブスタッフを集めて、これからどのように変わっていくのか、プロパティはどうなるのか、といったことを複数回説明している。慎重に、かつ誠意を持って対応していく姿勢をレッドブル側が示しているからなのか、トップチームに動揺が走る場面はなかった。
選手たちに話を聞くと、「周りの人たちはいろいろと心配してくれましたけど、自分たちはそこまで気にしていない」という声が多い。「僕ら選手にはコントロールできないことなので、そこはもうクラブに任せるしかない」というのが、選手たちに共通する思いだ。
RB大宮アルディージャとして動き出すにあたっては、ユニフォームのデザイン(カラー)がどうなるのか、マスコットはどうなるのか、といった課題が残る。11月24日にJ3リーグが終了すれば、来シーズンの編成も本格的に進められていくだろう。
チームトップの10ゴールをマークしている元日本代表FW杉本健勇は、ジュビロ磐田からの期限付き移籍だ。左ウイングバックの主力として6得点6アシストを記録したMF泉柊椰(とおや)も、ヴィッセル神戸からの期限付き移籍である。また、3バック中央で守備の中心となった19歳の市原吏音(りおん)は、早期のステップアップが確実視される。
彼らを引き留めるのか、彼らに代わる選手を獲得するのか。『25年から3、4年でJ1昇格を目指す』というロードマップに沿って、戦力を整えていかなければならない。
オリバー代表は「これまで大宮が歩んできた道を、私たちがさらに広げていく。そしてそれは、一夜にしてはなりません。一歩一歩、進んでいきたいと思います」と話す。そのうえで、未来を展望する。
「私たちの持っているネットワーク、経験、知識といったものを投入して、大宮アルディージャがJ1で確固たる地位を築くように、努めていきたいと思います」
何かが変わる、何かを変えるタイミングでは、ハレーションが起きたり、拒絶反応が広がったりするものだ。プロパティでも、チーム編成でも、誰もが納得できる答えはおそらくない。だからこそ、レッドブル側と大宮側が、自我作古の精神で最適解を導き出していくべきなのだろう。
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